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しおりを挟む「先輩? もう帰える?」
彼は一ミリも警戒などせず、無防備にそのあどけない姿態を晒したままそこにいて、恭介にいきなり肩を掴まれても、きょとんとしただけだ。
「先輩……? どうしたの?」
しかし恭介に強引に芝生のうえに押し倒されると、暢気な彼もやっと恭介の異変に気づいたようだ。
「なに?」と顔を顰める奈緒紀の両手首を掴んだ恭介は、まとめたその手を彼の頭より高い位置に縫いとめるようにして芝生に押さえつけた。
「ちょっと、先輩っ。なにすんのっ⁉」
驚愕に見開いた奈緒紀の瞳にすこし溜飲が下がった恭介は、自分が彼にできる報復はこれなんだと確信する。そしてつぎの一瞬後には、恭介は彼から奪えるだろうものに期待して、いっきに気持ちと身体を昂らせたのだ。
恭介は同性に対して沸き起こった気の高ぶりと情欲に戸惑いながらも、それを一切気取られないように乱暴に振舞ってみせた。腰から下にぴったりと身体を添わすようにして、奈緒紀に体重をかけると、身の軽い彼ではもう恭介を跳ねのけることは不可能だ。
疼いていた股間は奈緒紀の下腹部に押しつけることによって甘く痺れ、恭介の喉から熱い吐息を漏らさせた。
「ちょっと! どういうつもりだよ⁉」
下肢と腕を押さえこまれた奈緒紀が身体を捩ってあがいても、自由になるのは胸から上だけだ。奈緒紀の背中が反り返り、胸部が大きく弾むさまは、さらに恭介を煽情していった。
触れ合ったところから直に伝わってくる彼の動きと体温が、恭介の脳の奥深くに微弱な電流が走らせていく。
彼に齧りつきたい。舐め上げたい。自分のものを突っ込んで存分にかき混ぜてしまいたい。
激しい動悸を押しとどめるかのようにして、恭介はその華奢な身体に自分の胸部をぐっと圧しつけた。
「先輩ってっ」
「奈緒紀、お前ちょっと黙ってろ」
色情に駆られた低い声で唸ると、耳もとで彼が小さく息を呑むのが聞こえた。
はやく肌を摩りあげたいが、さすがに両手でないと生きがいい彼の腕は封じていられそうにない。手っ取りばやく奈緒紀をおとなしくさせていまうには、どうすればいい?
「せんぱい……?」
自分を呼んだ奈緒紀の声は、彼にしてはひどく弱いものだった。でもそれは恐怖のせいでも身を案じているせいでもない。それが恭介の意に一番沿わない、自分を心配しての声音だと恭介にはわかってしまい、怒りで目のまえが赤く染まる。
「痛っ!」
奈緒紀の首に思い切り歯を突き立てた恭介は、びくっと竦みあがった華奢な身体と、彼の悲鳴に満足しながら、その首についた歯型を舐めた。上体を起こして奈緒紀の顔を見下ろす。
「だから、黙ってろって云っただろ?」
奈緒紀は不満げに口を尖らせていたが云いたいことがあるのだろう、目が泳いでいる。本当に生意気だ。状況を知らしめるために、恭介は猛り立つ股間を彼の腿に押しつけた。
「抵抗すんなよ」
云わなくても、奈緒紀はきっと抵抗しないのだろう。彼に情をかけられたことは許容しがたいが、だったらそれを利用すればいい。
恭介が拘束していた彼の手を放していざ覆いかぶさろうとしたとき、ふいに奈緒紀の指が眉間に触れてきた。
「――?」
「ほら。先輩、また皺ができているよ」
指さきでぎゅっと眉間を擦られる。
「お前が、俺のこと引っ掻きまわすからだろ」
「なにそれ? 俺のせいなの?」
恭介はこの状況に置かれての、奈緒紀のこの言動にいささか怯んでしまう。彼の真意がわからず答えを探るようにじっと彼の目を見つめた。
「訊きたいことがあるなら、訊けばいいのに。云いたいことがあるなら、云えばいいのに。ほんと先輩のいい恰好しい! そりゃ疲れるよ」
「なっ――⁉」
「ほらほら、また眉間に皺がっ!」
恭介はしつこく眉間をぐりぐり揉みこんでくる奈緒紀の細い指を、ぎゅっと掴みとった。
「イライラするのも、欲求をぶつけたくなるのも、俺のせいじゃないし、誰かのせいでもない。全てあんたの自業自得だろ⁉ 全部自爆。先輩のマゾ!」
「う、うるさい。お前ちょっと黙れ。わかったふうな口訊くな!」
「いいや、黙らないよ。だって先輩、いまこの状況、全部、俺のせいにしようとしてるんだもん」
奈緒紀をぎゃふんと云わせるどころか、逆に図星を突かれて返り討ちだ。しかしどちらにしても恭介の憤りの持っていき先は彼である。
「お前のせいだよ。お前に引っ掛かれて――」
くっ、と言葉を呑みこんだ恭介は、これ以上白状させられるわけにはいかないと、危険な奈緒紀の唇を塞ぐことにした。
「ふっ……んんっ」
舐めても咬んでも素直に開かない彼の口に焦れて、ぎりっと彼の顎のつがい目に力を入れる。
「っやぁ、――」
そして無理やりに開いた口腔に、舌を捩じりこんで思う存分になかを舐め上げれば、溢れてきた彼の唾液が細い顎を伝い落ちていった。
「あぁっ……あっ……っんっ」
舌さきから生じる快感と、彼に揉みこむようにして圧しつけている下半身の快感。そして小生意気な同性の後輩を屈服させていくという悦楽に、身も心もますます昂る恭介だった。
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