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 彼ははやく性器を挿れてしまいたいと思わないのだろうか。むしろ自分のほうが耐えられない、いますぐどうにかして欲しいのに。
(なんで? はやく……)
 すでに意識は身体に施される口づけよりも、張りつめたペニスとせつなく蠢く尻の間に集中していた。

(もう我慢できないぃ)
 手を伸ばして自分のものを握りしめようとした神野はふと思いつき、さきに篠山の股間をこっそりと触ってみた。布越し、彼のものがちゃんと腫れていることがわかって安堵する。もしこれが寝たままだったら、どれだけがっかりしたことか。挿ってくるのを想像し期待に唇を舐めた神野は、ふたたび胸に顔をうずめようとしていた篠山に、苦笑されて慌てて手を引っこめた。胸にかかる彼の熱い吐息が、ぞくっと背筋を反り返らせる。またとろっと雫が伝い落ちた。

「慌てるなよ、ちゃんと、やるからもう少し我慢しろって――」
「んんっ!」
 ふたつの乳首を同時に抓られ、軽く達してしまう。
「そのほうが、楽しめるから」
 はぁ、はぁ。
 はぁ、はぁ。
 彼の指に解放された乳首が、快感の尾をひいてじんじんしていた。

「……ふっ、ぅうっ」
 篠山が身体をずらした拍子に、彼の腹を神野のペニスが押し返した。少し勢いをなくしたそれは、ニチャリと嫌な音とともにぬるっとした感触を伝えてくる。密着していた彼の腹から鎖骨のあたりまでを汚してしまって、申し訳なさに神野は両手で顔を覆った。
「って、……もしかして、いまのでイッたの?」 
「……ひっく……うぅっ」

 まだなにもされていないうちから、出てしまった。せめて指でもいいから、彼に挿れられて出したかったのに――。
「うっ、うっ……」
「よしよし。気にすんな」
 嗚咽を漏らすと、そんな気持ちを寸分もわかってもいないくせに、篠山が頭を撫でてくる。腹も立ったがそのやさしい指先のせいで涙腺が決壊してしまう。

「うっうえっ……うえん、うっ」
「ど、どしたっ⁉ なんだ、そんなに恥ずかしかったのか? まだ若いんだから、そんなことで泣くなよ」
 まだ若いといっても中学生じゃあるまいし、そんな慰めかたをされても恥ずかしさが増すだけだ。

「わ、わかった。じゃあ、もう乳首は吸わない。それでいいか?」
「……ひっく」
 それは違った。すごく気持よかったので乳首は、また吸ってほしい。遠慮がちに首を横に振ると、ぼたぼた涙がシーツに零れていった。
「それともどこも触らないで、いつもみたいに挿れるだけだったらいいのか?」
「…………」
 それも違う。篠山にはたくさん触れて欲いし、キスだって一回だけじゃいやだ。まだまだたくさんして欲しい。でも触るのもキスもぜんぶ、彼の太くて長いペニスで、中をずぶずぶに突かれながらがいいのだ。

(だから、そうじゃなくてっ!)
 神野はぐいと涙を拭うと、気持ちを入れ替えようとする。なぜなら、今夜は違うのだから。今夜は目的があってここに来ているのだ。失恋でグダグダになっている篠山を、身を挺して慰めるために自分はここでこうしているのだ。
 出会ってからずっとしてもらうばかりでなにも返せていなかった自分が、やっと彼に恩返しをするチャンスなのだ。

 篠山に並ぶこともできず、恋することも叶わない。それならば彼が恋に、仕事につらいときには、片時だけでもいい、ほんの僅かでも自分が彼を支えられればいい。そのことで自分が、彼のなにかになれるのであれば、それはかけがえのない自分の幸せなのだから。
 だから持っているもので篠山にはなにも敵わない神野は、今夜はせめてこの身体を使って、彼に気持ちを晴らしてほしいのだ。
(だから俺は近藤さんのかわりで! ちゃんと篠山さんを慰めなきゃ!)

「ぐすっ」
 それなのに自分が欲に溺れた挙句に、篠山に気を遣わせていては失敗じゃないか。
「うぅうっ……」
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