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った遼太郎のつぎの言葉に、口のはしを引き攣らせた。
「最近木本さんとこの仕事が増えてさ、疲れはしているんじゃない? でもそれであのひと、近藤さんともちょくちょく顔あわせてるからね。疲れていたって、楽しみがあっていいんじゃないかな? 今日も鼻のした伸ばして帰って来たよ」

 苛立ちで目が眩みかけた。地面を睨んで気をたしかに持つと、「今日はもう寝ます」と、ぼそりと呟き、隙をついて春臣に掴まれていた腕を奪い返す。しかし「こら待て、自殺禁止っ!」と、すかさずまた春臣に手首を掴まれ、動けなくなる。
「放してくださいっ」
「いやいやいや。放しはしないよ。あきらめろ」

 春臣の指をひっぱって引き剥がそうとやっきになるが、彼の手は離れてはくれない。なぜこうも体格と力の差があるのだろうかと、歯噛みする。
「いやですっ。家に帰らせてくださいっ」
「祐樹、うるさい、黙れ。春臣も、手ぇ放してやれ」
「あーあ。せっかく云いくるめて、連れだしたのに……」

「なに?」
「祐樹、匡彦さんのこと好きなんだよ」 
 片方の眉をあげて怪訝そうに訊いた遼太郎に、春臣があっさりばらしてしまう。
「春臣くん‼」
「えっ」と驚いた表情をした遼太郎にこちらを見られて、そりゃそうだろうと羞恥で顔を歪めた。

「なんでっ⁉ なんで、云うんですかっ! もうっ! 俺っ、部屋に帰りますって! はやく手を放してっ」
 情けないが、声が上擦ってしまった。それなのにそんな自分にちらりと視線を送った春臣は、ゆっくり目を細めると、かげりを帯びた瞳でくすっと笑ったのだ。

(笑った? な、なに⁉)
 いままで見たことのない彼のそのさまに内心狼狽えてしまったが、しかしここでひるむわけにはいかない。神野はさらに暴れてみせた。それなのに春臣はこちらにはまったくお構いなしで――、
「遼太郎くん、話しがあるから、あとで部屋に寄っていいかな?」
余裕で遼太郎に笑顔を向けている。

(く、くやしいっ)
 腹が立つ。しかし――。
 春臣を無視して「じゃあな」と扉を閉めようとした遼太郎の尻を、伸びた春臣の手がするりと撫でたのをみてしまった神野は、ぴたりと抵抗をやめた。
 ばちんと肉をうつ高い音が廊下に響く。

「痛っ!」
「ばかっ! ダメだ、お断りっ。くんなっ!」
 口をぽかんと開け目を瞠る自分のまえで、扉は乱暴に閉められてしまった。

(えっと……)
「遼太郎くん、マジ、今度お仕置きだな……」
 叩かれて赤くなった手の甲をぱたぱた振りながら、春臣が低い声でぼそと呟く。

「仕方ないから気分転換に、ファミレスでも行こっか?」
  やっとこちらを向いた春臣がにっこりとそう云うと、神野は抱えたコートにさっさと腕を通した。従順に「はい」と返事したのは、恐ろしくて、ついて行くほかないと判断したからだ。







  ※ 次話は次のページです。



 上記のシーンをマンガにして見てみたいと思っていたんですが、自分では描けなくて断念していたところ、SFさんに描いてもらうことができました。
 私は日ごろからSFさんのイラストや漫画を見ていて、きっと自分で描くよりSFさんのほうがより「想像に近いものができるはず!」と100%安心してお任せしました。
下に貼ってありますので、興味のある方はぜひご覧ください。
思った通りのリズム感で表現してくれていて、私は満足です❤

 SFさんの『さらば横浜チャイナタウン』
マンガ(連載中)
https://www.alphapolis.co.jp/manga/151810035/6566185
小説(完結済み)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/151810035/702426756







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