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(俺って恥ずかしいな)
 午後の仕事が始まったばかりだというのに、もう気が緩んでしまっている。
(しかも、いやらしことばかり考えて……)
 雑念を払うために首を振って、製品を金型にはめ込んでボタンを押す。しかしおなじことを繰り返すだけの単純な作業に、やがてまた神野の意識は手もとから昨夜のセックスに移いでいった。

 昨日、パジャマの下だけを脱がせてきた篠山は、自分をうつ伏せにして腰だけを突きださせるとたっぷりのローションで窄まりをくつろがせた。最初のうちはピチャピチャと入り口でたっていた水音はやがて肉襞をさかのぼっていき、次第に粘膜によく絡まったヌチャリ…とした粘りけのあるものにかわっていった。
 内壁が緩まり神野が甘い吐息をつきはじめると、彼はいいちばん気持ちいい一点をしつこく擦りあげてきた。自分がそれに悦んで「あんあん」と声を出したところまではいつもといっしょだったのだ。

 ところがだ。昨夜の篠山は神野のペニスが爆ぜそうになると、その根本をぐっと指で締めて射精を阻止してきたのだ。
「ぃやぁぁっ――、なんっ⁉ やっ……」
 さらに指を引き抜かれてしまい、もどかしさに捩じる腰を押さえつけられた。はぐらかされた絶頂感がひいていくまで、彼は卑しく収斂しゅうれんする入り口を擽るように撫で、そしてまたおもむろに指を挿しこんできて神野を追いこんだ。
「あっ、あっ………あぁあっ……いぁっ、いやああぁっ」
 そんな意地悪がなんども繰り返され、そのうちつらくなってきた自分の口からは悲鳴があがったほどだ。イかせてもらえなくて痛む腹部に、声はするどく響いた。

「指、もう、いやっ、やめ……てっ……やめて、下さ……ぁあんっ」
「ん、もう少し我慢してみろ」
 できるわけなかった。痛いのだから。
 全身に波紋のように伝わるぞくぞく感も、ペニスが流した大量の先走りの液でシーツがびしょびしょになるころには、まるでどこか遠くでのことのように感じていて――。
 いつしか全神経は張りつめすぎて腐落ちてしまいそうなペニスと、下腹部の痛みにだけ集中していた。
 そして。

「んーっ、んっんっ、んあっ………痛いっ、痛いっ」  
 はやく出したい、はやく出させてっ。
 解放してもらうことだけで頭をいっぱいにしていた神野がふい襲われた感覚は、射精のときのようでいて、またそれとは微妙に異なっていた。
「ひゃぁっ、あぁぁーっ」
 篠山の指を呑みこむように蠕動したり、ぎゅうぅっときつく締めつけたりを繰り返していた狭い器官が、いきなり全身を襲ってきた浮遊感のあとに、とろんと蕩けたのだ。
「ほら」
「あぁあっ……あぁ…‥‥…はあぁ、はぁ」

 ぐったりする姿態が時折びくびくと震えて緊張を走らせたが、彼の指を食む内部だけは柔らかく解ほどけたままでいて、それがとても気持ちよかったのを覚えている。「あぁん、あぁん」としばらくちいさな鳴き声をあげていたのだ。
 肌が泡立つような感覚と四肢の弛緩、そしてあとをひく悦楽で身体が不規則に痙攣する。これはいつもだったら彼に後ろを突かれながら吐精したあとのものだと、荒い息をつきながら困惑した。
(いったいなに……?)
 視線をやった濡れそぼった自分の分身は、やはりまだ緩くたちあがったままで――。
(なに? ……なんなの? 俺、知らないあいだに出した……?)

 ふっと頭上で篠山の笑った気配がしたあと、肩をひかれて仰臥位ぎょうがいにされる。呼吸の治まらないでいる自分の頭に手を伸ばした彼は、もつれる髪を梳いてくれた。
 その行為はまるで親が子どもを褒めて撫でるのに似ていて、感情の琴線を揺らされた神野の涙腺が思わず緩む。もし怒られていたのだとしたら、赦されたのだという、そんな気すらしたのだ。しかし。

 そのあとやっと体内に埋められた篠山の固く張りつめたものに、安堵と期待で甘い吐息をついたのも束の間で、それからがまたひどかった。神野の体が疲労に砕けてしまうような、気が狂ってしまいそうな終わらない交接が、明けがたまでつづけられたのだから。

 なにしろ焦らされた。堪らなくいいところをなんども突かれた。それなのに昇りつめていき、最後を迎えたくて濡れた陰部で彼のもの絞りこもうといっそう腰を捩りはじめると、彼はその瞬間にするっと腰を引いて逃げ、神野の高揚感をはぐらかせたのだ。いつもならそのまま天にも昇れるような心地でイかせてくれるのに。
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