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しおりを挟む あぁ…怒ってる怒ってる。
最近一緒に居ることが多いからかセンサーの反応が鈍ってたけど、今はビシビシと感じる。
「…何でよりによってアイツの名前が出てくるんだよ…」
吐き捨てるかのように呟く声は、限りなく低い。
「お母さん、付き合ってた頃から大地先輩のこと気に入ってたからなぁ…」
「なんだよ…公認だったのかよ。くそ。監禁のことバラしてやりゃあ良かった」
「それやったら、大地先輩に逆にあのことバラされて本当に婚約の話なかったことになるよ?」
「…なかったことにしたい?」
私が答えられないでいると、桐嶋はゆっくりと私の左手を持ち上げて薬指の付け根を甘噛みした。
「絶対、してやんないけど」
「…ぃたっ」
徐々に強く歯が立てられて、薄紅色の歯型が残る。
「堂本にも神田にも絶対やんねー」
あーあ…まだ誤解してる。
「あの写真は違うの。浮気とかじゃなくて…」
「神田が浮気相手なら俺は何?」
「は?や、浮気じゃないし!」
「本気ってことでいい?」
「こ、婚約してるんだから当たり前でしょ…。大体婚約中に浮気しないでしょ」
ってこれ、自分自身への言葉にもなるな。
「昨日…冬馬も何もなかったって言ってくれれば良かったのに」
「誰から聞いた?」
「…神田くん。その話をしてたの!あの写真はその流れからの励ましのハグ!」
ヤキモチ作戦についても聞いたことは神田くんの命のために言わないでおこう。
「言ったって信じなかっただろ」
「…」
「否定しろよ」
「…すみません」
「ま、爛れた性活してたからな」
「次からも信じられるかなぁ」
「てめー」
ほっぺたをぐにぐにと抓られながら聞いてみる。
「そう言えばその写真誰から来たの?」
「…さあ。知らねぇアドレスから送りつけられてきた」
「そうなんだ」
絶対篠原さんだけど、これも証拠が揃ってない状況だし、言わないでおこう。
「…いいからもう寝ろ」
そう言って桐嶋に布団をかけられると、私はあっという間に眠りの底に落ちて行った。
昨日、私が眠った後に桐嶋は諸手続きをして帰ったらしく朝には姿がなかった。
午前中に念のため簡単な検査をすることになっていた私は、ベッドでぼんやりと待っているとドアをノックされた。
看護士さんが呼びに来たものと思って返事をすると、現れたのは篠原さんだった。
すごい速さで心臓が鳴り始める。
今血圧測ったら即入院レベルだ。
…入院してるからいいんだけど。
「おは…ようございます」
「おはよう。もう大丈夫なの?」
「あ、はい。あの、昨日はご迷惑おかけして…」
すみませんと言おうとしたけど,よく考えたらこの人のせいで気分悪くなったんだった。
でも、多分状況から考えて桐嶋に連絡してくれたのこの人だよね?
お礼くらい言うべきか。
「昨日桐嶋さんに連絡…」
「してないわ」
「へ?」
「私が連絡する前に来たのよ、冬馬」
「あぁ。GPSか」
昨日連絡もせずに篠原さんとご飯に行っちゃったからかな。
最近大活躍だなぁ。
「な、何普通に受け入れてるの?私だったら夫にGPSで追跡されてるなんて絶対イヤよ」
「それは篠原さんが浮気してるからですよ。GPSって案外便利ですよ?いちいちどこに居るか詮索されないし」
私の返しに篠原さんは困惑の色を深めていく。
「いちいち詮索…?ねえ、依子さんってほんとに一体何者なの?」
「何って…一応桐嶋さんの婚約者ですけど」
「それは知ってるけど、何か冬馬にとってメリットがあるから冬馬の側に居られるんじゃないの?何でそんなに構われてるの?」
「どういう意味ですか?」
「例えば…依子さんのお父さんが建築訴訟では負けなしの弁護士、とか?そういう何か特別な理由があるんじゃないのかって聞いてるの!」
「確かに父は弁護士ですけど」
父は建築物愛好家だけあって、建築関係の訴訟には滅法強い。
「え!?本当にそうなの?苗字が同じだからカマかけただけだったのに。じゃあやっぱり冬馬はそれであなたと結婚するのね?」
篠原さんの表情が急に明るくなった。
「え?桐嶋さん何か仕事で訴訟沙汰になってるんですか?」
「なってるわけないじゃない!冬馬の設計は完璧よ!」
今度は怒ってる。
意外と感情の起伏の激しい人だな。
「別に私と結婚してまで父とコネクション作る必要ないですよね?」
「じゃあ何で冬馬があなたみたいな女と結婚するのよ!?」
「んもう!依子ちゃん!!ハッキリ言ってやって!!!私は冬馬にめっちゃめちゃ愛されてるんだって!!!!」
スライド式の病室のドアがすごい速さで開いて、飛び込んで来たのはあの人だった。
「優子さん!?」
「き、桐嶋優子!?」
私の声と篠原さんの声とが同時に響いた。
「依子ちゃん!聞いたわよ。冬馬と婚約してくれたんだってね。ありがとーーーーっっっっ」
熱烈な抱擁を受ける私。
唖然とする篠原さん。
「何で優子がここにいるのよ?」
「冬馬に体調の悪い未来の義妹のお世話を頼まれたからに決まってるでしょっ!」
「ちょっと、何言ってるのよ?あの冬馬がそんなこと頼むわけないでしょ!」
今にも取っ組み合いが始まりそうな二人の剣幕に怯えながら
「お二人、お友達…なんですか?」
と恐る恐る尋ねる。
【お友達なわけないじゃないっっ】
今度は優子さんと篠原さんの怒声が見事にハモった。
「友達じゃないけど…高校の同級生なのよ」
忌々しげに篠原さんが言ったのに対して、優子さんは呆れ気味だった。
「由佳…あんたまだ冬馬のに周りちょろちょろしてたの?」
「優子には関係ないでしょ!」
「あのね、私はちゃんと忠告したわよ?冬馬にはずーっとずーーーーっと好きな子が居るから絶対あんたにゃ落とせないって。なのに一回寝たくらいでムキになって!終いにゃ私に『何で冬馬と付き合えるように協力してくれないのよーっ』って八つ当たりして!」
「…あれ?篠原さん、桐嶋さんと付き合ってたんじゃないんですか?」
「ええそうよ。付き合ってなんかないわよ。抱いてもらったのだって一回っきり…でも…でもそんなの私だけじゃないわ!冬馬は誰にも本気にならないもの。依子さんだって同じでしょ?」
「同じなわけないでしょ!分からないの?あの冬馬がGPS持たせて、四六時中見張ってて、何かあったら即駆けつけて、私を看病に寄越すのよ?依子ちゃんこそが、冬馬がずーっとずーーーーっとしつこく重たーーーーく好きな相手なの!!!」
し、四六時中見張られてたのか…さすがに今度文句言おう。
篠原さんはというと、今までで一番険しい表情で
「ねぇ…依子さん…あなた、冬馬とキスしたことある?」
と尋ねてきた。
「は!?」
脈絡のない質問をされ、一気に顔を赤く染めながら
「あ、あります…」
と小さくなって正直に答える。
身内の前で何言わすんだ!
ってもっとすごいことしてるの優子さんにはバレバレだけど…。
そんな私を見た篠原さんは小さくため息を吐いて近寄って来て
「ご飯に付き合わせたのに冬馬に写真送っちゃったから、いいこと教えてあげる」
と言ったかと思うと、
チュッ
と私の唇に自分の唇を重ねた。
「な!?し、し、篠原さん!?」
訳が分からず唇をゴシゴシと服の袖で拭う。
「間接キス。ごちそうさま」
「は!?」
「冬馬はね、誰とでも寝るけど誰にもキスはさせなかったの」
「は?でも…え??」
「それから…もう一つ。私が冬馬に抱いてもらったとき」
「…っ」
耳をふさごうとする私の手を掴んで篠原さんは耳もとで続けた。
「『冬馬の好きな子と思って抱いて』って頼んだのよ。…ほんっと羨ましい…あんなに大切に思われて」
「…もう良いの?」
部屋を出て行く篠原さんに優子さんが声をかける。
「私、負けるの嫌いだから勝ち目のない勝負はしないの。あ、依子さん。今の情報料として今度お父さん紹介してね。訴訟になりそうな事案が一件あるの。じゃーね」
振り返らずにそう言った彼女のハイヒールの音はどんどん小さくなっていった。
最近一緒に居ることが多いからかセンサーの反応が鈍ってたけど、今はビシビシと感じる。
「…何でよりによってアイツの名前が出てくるんだよ…」
吐き捨てるかのように呟く声は、限りなく低い。
「お母さん、付き合ってた頃から大地先輩のこと気に入ってたからなぁ…」
「なんだよ…公認だったのかよ。くそ。監禁のことバラしてやりゃあ良かった」
「それやったら、大地先輩に逆にあのことバラされて本当に婚約の話なかったことになるよ?」
「…なかったことにしたい?」
私が答えられないでいると、桐嶋はゆっくりと私の左手を持ち上げて薬指の付け根を甘噛みした。
「絶対、してやんないけど」
「…ぃたっ」
徐々に強く歯が立てられて、薄紅色の歯型が残る。
「堂本にも神田にも絶対やんねー」
あーあ…まだ誤解してる。
「あの写真は違うの。浮気とかじゃなくて…」
「神田が浮気相手なら俺は何?」
「は?や、浮気じゃないし!」
「本気ってことでいい?」
「こ、婚約してるんだから当たり前でしょ…。大体婚約中に浮気しないでしょ」
ってこれ、自分自身への言葉にもなるな。
「昨日…冬馬も何もなかったって言ってくれれば良かったのに」
「誰から聞いた?」
「…神田くん。その話をしてたの!あの写真はその流れからの励ましのハグ!」
ヤキモチ作戦についても聞いたことは神田くんの命のために言わないでおこう。
「言ったって信じなかっただろ」
「…」
「否定しろよ」
「…すみません」
「ま、爛れた性活してたからな」
「次からも信じられるかなぁ」
「てめー」
ほっぺたをぐにぐにと抓られながら聞いてみる。
「そう言えばその写真誰から来たの?」
「…さあ。知らねぇアドレスから送りつけられてきた」
「そうなんだ」
絶対篠原さんだけど、これも証拠が揃ってない状況だし、言わないでおこう。
「…いいからもう寝ろ」
そう言って桐嶋に布団をかけられると、私はあっという間に眠りの底に落ちて行った。
昨日、私が眠った後に桐嶋は諸手続きをして帰ったらしく朝には姿がなかった。
午前中に念のため簡単な検査をすることになっていた私は、ベッドでぼんやりと待っているとドアをノックされた。
看護士さんが呼びに来たものと思って返事をすると、現れたのは篠原さんだった。
すごい速さで心臓が鳴り始める。
今血圧測ったら即入院レベルだ。
…入院してるからいいんだけど。
「おは…ようございます」
「おはよう。もう大丈夫なの?」
「あ、はい。あの、昨日はご迷惑おかけして…」
すみませんと言おうとしたけど,よく考えたらこの人のせいで気分悪くなったんだった。
でも、多分状況から考えて桐嶋に連絡してくれたのこの人だよね?
お礼くらい言うべきか。
「昨日桐嶋さんに連絡…」
「してないわ」
「へ?」
「私が連絡する前に来たのよ、冬馬」
「あぁ。GPSか」
昨日連絡もせずに篠原さんとご飯に行っちゃったからかな。
最近大活躍だなぁ。
「な、何普通に受け入れてるの?私だったら夫にGPSで追跡されてるなんて絶対イヤよ」
「それは篠原さんが浮気してるからですよ。GPSって案外便利ですよ?いちいちどこに居るか詮索されないし」
私の返しに篠原さんは困惑の色を深めていく。
「いちいち詮索…?ねえ、依子さんってほんとに一体何者なの?」
「何って…一応桐嶋さんの婚約者ですけど」
「それは知ってるけど、何か冬馬にとってメリットがあるから冬馬の側に居られるんじゃないの?何でそんなに構われてるの?」
「どういう意味ですか?」
「例えば…依子さんのお父さんが建築訴訟では負けなしの弁護士、とか?そういう何か特別な理由があるんじゃないのかって聞いてるの!」
「確かに父は弁護士ですけど」
父は建築物愛好家だけあって、建築関係の訴訟には滅法強い。
「え!?本当にそうなの?苗字が同じだからカマかけただけだったのに。じゃあやっぱり冬馬はそれであなたと結婚するのね?」
篠原さんの表情が急に明るくなった。
「え?桐嶋さん何か仕事で訴訟沙汰になってるんですか?」
「なってるわけないじゃない!冬馬の設計は完璧よ!」
今度は怒ってる。
意外と感情の起伏の激しい人だな。
「別に私と結婚してまで父とコネクション作る必要ないですよね?」
「じゃあ何で冬馬があなたみたいな女と結婚するのよ!?」
「んもう!依子ちゃん!!ハッキリ言ってやって!!!私は冬馬にめっちゃめちゃ愛されてるんだって!!!!」
スライド式の病室のドアがすごい速さで開いて、飛び込んで来たのはあの人だった。
「優子さん!?」
「き、桐嶋優子!?」
私の声と篠原さんの声とが同時に響いた。
「依子ちゃん!聞いたわよ。冬馬と婚約してくれたんだってね。ありがとーーーーっっっっ」
熱烈な抱擁を受ける私。
唖然とする篠原さん。
「何で優子がここにいるのよ?」
「冬馬に体調の悪い未来の義妹のお世話を頼まれたからに決まってるでしょっ!」
「ちょっと、何言ってるのよ?あの冬馬がそんなこと頼むわけないでしょ!」
今にも取っ組み合いが始まりそうな二人の剣幕に怯えながら
「お二人、お友達…なんですか?」
と恐る恐る尋ねる。
【お友達なわけないじゃないっっ】
今度は優子さんと篠原さんの怒声が見事にハモった。
「友達じゃないけど…高校の同級生なのよ」
忌々しげに篠原さんが言ったのに対して、優子さんは呆れ気味だった。
「由佳…あんたまだ冬馬のに周りちょろちょろしてたの?」
「優子には関係ないでしょ!」
「あのね、私はちゃんと忠告したわよ?冬馬にはずーっとずーーーーっと好きな子が居るから絶対あんたにゃ落とせないって。なのに一回寝たくらいでムキになって!終いにゃ私に『何で冬馬と付き合えるように協力してくれないのよーっ』って八つ当たりして!」
「…あれ?篠原さん、桐嶋さんと付き合ってたんじゃないんですか?」
「ええそうよ。付き合ってなんかないわよ。抱いてもらったのだって一回っきり…でも…でもそんなの私だけじゃないわ!冬馬は誰にも本気にならないもの。依子さんだって同じでしょ?」
「同じなわけないでしょ!分からないの?あの冬馬がGPS持たせて、四六時中見張ってて、何かあったら即駆けつけて、私を看病に寄越すのよ?依子ちゃんこそが、冬馬がずーっとずーーーーっとしつこく重たーーーーく好きな相手なの!!!」
し、四六時中見張られてたのか…さすがに今度文句言おう。
篠原さんはというと、今までで一番険しい表情で
「ねぇ…依子さん…あなた、冬馬とキスしたことある?」
と尋ねてきた。
「は!?」
脈絡のない質問をされ、一気に顔を赤く染めながら
「あ、あります…」
と小さくなって正直に答える。
身内の前で何言わすんだ!
ってもっとすごいことしてるの優子さんにはバレバレだけど…。
そんな私を見た篠原さんは小さくため息を吐いて近寄って来て
「ご飯に付き合わせたのに冬馬に写真送っちゃったから、いいこと教えてあげる」
と言ったかと思うと、
チュッ
と私の唇に自分の唇を重ねた。
「な!?し、し、篠原さん!?」
訳が分からず唇をゴシゴシと服の袖で拭う。
「間接キス。ごちそうさま」
「は!?」
「冬馬はね、誰とでも寝るけど誰にもキスはさせなかったの」
「は?でも…え??」
「それから…もう一つ。私が冬馬に抱いてもらったとき」
「…っ」
耳をふさごうとする私の手を掴んで篠原さんは耳もとで続けた。
「『冬馬の好きな子と思って抱いて』って頼んだのよ。…ほんっと羨ましい…あんなに大切に思われて」
「…もう良いの?」
部屋を出て行く篠原さんに優子さんが声をかける。
「私、負けるの嫌いだから勝ち目のない勝負はしないの。あ、依子さん。今の情報料として今度お父さん紹介してね。訴訟になりそうな事案が一件あるの。じゃーね」
振り返らずにそう言った彼女のハイヒールの音はどんどん小さくなっていった。
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