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「宝、ここにはプラウダを狙う追っ手が迫っているんだ。ギアメンツも彼らに刺されている」
「え?」
(さ、刺されたぁ!?)
「悠長に構えていたら、君も彼と間違われてここで捕らえられてしまうんだ。準備を終えたらすぐに出るからそのつもりで」
「ええぇっ⁉」
やっともらえた説明に、顔を真っ青にして飛びあがった。
彼らの云っていることもこの場所についても、なにがなんだかワケがわからない。そんななか、追っ手だとか刺されるだとか不穏な言葉まで連ねられて、すっかり狼狽えてしまう。
帰りたい、もしくは今すぐここから逃げ出したい。
部屋をきょろきょろ見渡した宝は、そこに楽しそうに室内探検している諸悪の根源の中学生しか見つけられず、瞳に涙を滲ませた。
(帰りかたがわからないよぉ……)
「晶ぁ、帰ろうよ……。ここ危ないんでしょ?」
「ねぇ、どうやったらもとの自分ん家に戻れるの?」
「ねぇねぇっ。荷物なんていいから、もう逃げようよ!」
宝はなんども「帰りたい」「逃げよう」とみんなに訴えた。しかしロカイもプラウダも忙しくしているし、結城と晶は部屋のもの珍しさが勝ってしまってこちらのことなんて、見向きもしない。だれも自分の云うことを聞いてくれず、ここを立ち動こうとしてくれなかった。
結局最後まで「荷物なんかいらないから、今すぐここを出ようよ!」という宝の訴えは、みんなに無視し続けられたのだ。
***
プラウダの部屋を出ると、そこは石柱の立ちならぶ回廊だった。回廊で囲まれた中央はとても天井が高いいくつかの祭壇をもつ大広間だ。ひとはまばらで宝たちはそのまま回廊を使って、誰ともすれ違うことなく速やかに建物の外へ出た。
ロカイに急かされてさきを進むなか一瞬だけ振り返ってみた建物の外観は、まるで古代の神殿のようだった。
街とはぎゃくへ進み緑豊かな農道を四時間ほど歩いて、夕刻、石畳の坂を中心に発展している宿場に辿りついた。
町の出入り口にはたくさんの宿らしき建物があったのだが、しかしプラウドは指を組んで暫く瞳を閉じたあと、にわかに町の奥へ奥へと進んでいった。そして少し大きめの民家のまえに立ち、その戸口を叩いたのだ。
出てきた家の主人はロカイにプラウダを紹介されると、丁寧な態度で一夜の宿として家に宝たちを招いてくれた。
「……疲れた。やっと休める」
「情けない。宝、ずっと手ぶらだったじゃないか」
「むかっ。そういう晶も手ぶらだっただろ?」
ロカイとプラウダが準備した荷物をもっぱら引き受けて運んだのは、怪力の結城だ。それでも彼女はまだまだ元気で、夕食のあと、この家の子どもたちの遊び相手をしてやると云って、部屋を出ていっていた。
やがてロカイが、習慣だというお祈りを終えたプラウダと結城を連れて、宝たちの部屋にやってきた。
部屋は土間から膝ほどの丈に設えられた板間だ。そこに三人分の寝具を敷いてもらっている。
宝たちは布団のうえに座っていたが、ロカイは板間のうえにあがってくることはしないで、そのヘリに腰をかけ、長い脚を地面に下ろしていた。
同じようにしてプラウダも板間を椅子のようにして腰掛けていたが、彼女は下ろした脚を長いスカートのなかでうつくしく揃えている。
行儀悪く布団に腹をつけて寝そべり、折った膝から下をぷらぷらしている結城が身内だと思うと宝はちょっと恥ずかしくなってしまって頬を掻いた。
「今日は三人とも、協力してくれてありがとう。いまから私たちの置かれた状況と、これからのことを説明させてもらう。疲れていると思うけども、少し話につきあってほしい」
ロカイの言葉に、宝は緊張しながら「はい」頷いた。
晶はここに来るまでの道中で拾い集めた石を熱心に観察していたが、頭のいい彼女のことだ、きっと話にも耳を傾けているだろう。
彼はここが太陽系とは別の、太陽と同じだけのエネルギーのある星を中心に回っている惑星のひとつだと説明してくれた。
「この星は君たちの住んでいる地球よりも、一段レベルの高い人間が住む星なんだ。個人差はあるけども、地球で百回くらい生まれ変わって魂に磨きをかけたものが、つぎに生きる場所になる。つまり地球が魂の幼稚園だとしたら、ここは小学校ってところかな?」
「それはここのひとたちのほうが、俺たちよりも賢いってことですか?」
自分たちのほうが格下だと云われていることに、宝はいささかむっとした。
「いや。知能の問題じゃないんだよ。あくまでも魂だ。それにたとえば保育園の年長で優れた子と、学校一年生で幼い子となら、立場は逆になるだろう? ここに住む人間は、さほど君たちの住む星の人間とは変わらないものも多い。しかも地球と同じで、この星も広くていろんな国があり人々がいる。あとは宝が実際にここで出会っていくひとたちから、いろいろ感じとってくれ」
「……はい。それよりも、あの。俺たちすぐに帰れないんですか? うっかりついてきちゃったけど、早く帰らないと家族が心配する」
「いやいや、しないでしょ。宝はいまちゃんと地球で入院してることになっているんだから。それに晶はひとり暮らしだし、あたしは放浪癖あるから、いまさら親は気にしないよ?」
「そういう問題じゃないだろ? こんなワケわかんないとこ来ちゃって。もしなんかあったりしたらどうすんだ? 帰れなくなったりしたら……」
父と妹のふたりしかいないけど、大切な家族や友人の顔を思い出して宝はじわりと目頭を濡らした。
「宝、大丈夫ですよ」
プラウダに云われ、恥ずかしくなって涙を拭う。ロカイが話しをつづけた。
「ここが地球と大きく違うのは、神との親交を忘れないままに『愛』を体現しながらひとが生きていることだ。これと同じことをしようとした地球は、集団としては四百万年以上前に失敗している。現在は個々でそう生きているひとたちは、いるだろうけどね。ちなみにそういうひとたちは、そのうちここに生まれかわってやってくるか、もしくは徒にここから地球に転生したりしているかだ」
「え?」
(さ、刺されたぁ!?)
「悠長に構えていたら、君も彼と間違われてここで捕らえられてしまうんだ。準備を終えたらすぐに出るからそのつもりで」
「ええぇっ⁉」
やっともらえた説明に、顔を真っ青にして飛びあがった。
彼らの云っていることもこの場所についても、なにがなんだかワケがわからない。そんななか、追っ手だとか刺されるだとか不穏な言葉まで連ねられて、すっかり狼狽えてしまう。
帰りたい、もしくは今すぐここから逃げ出したい。
部屋をきょろきょろ見渡した宝は、そこに楽しそうに室内探検している諸悪の根源の中学生しか見つけられず、瞳に涙を滲ませた。
(帰りかたがわからないよぉ……)
「晶ぁ、帰ろうよ……。ここ危ないんでしょ?」
「ねぇ、どうやったらもとの自分ん家に戻れるの?」
「ねぇねぇっ。荷物なんていいから、もう逃げようよ!」
宝はなんども「帰りたい」「逃げよう」とみんなに訴えた。しかしロカイもプラウダも忙しくしているし、結城と晶は部屋のもの珍しさが勝ってしまってこちらのことなんて、見向きもしない。だれも自分の云うことを聞いてくれず、ここを立ち動こうとしてくれなかった。
結局最後まで「荷物なんかいらないから、今すぐここを出ようよ!」という宝の訴えは、みんなに無視し続けられたのだ。
***
プラウダの部屋を出ると、そこは石柱の立ちならぶ回廊だった。回廊で囲まれた中央はとても天井が高いいくつかの祭壇をもつ大広間だ。ひとはまばらで宝たちはそのまま回廊を使って、誰ともすれ違うことなく速やかに建物の外へ出た。
ロカイに急かされてさきを進むなか一瞬だけ振り返ってみた建物の外観は、まるで古代の神殿のようだった。
街とはぎゃくへ進み緑豊かな農道を四時間ほど歩いて、夕刻、石畳の坂を中心に発展している宿場に辿りついた。
町の出入り口にはたくさんの宿らしき建物があったのだが、しかしプラウドは指を組んで暫く瞳を閉じたあと、にわかに町の奥へ奥へと進んでいった。そして少し大きめの民家のまえに立ち、その戸口を叩いたのだ。
出てきた家の主人はロカイにプラウダを紹介されると、丁寧な態度で一夜の宿として家に宝たちを招いてくれた。
「……疲れた。やっと休める」
「情けない。宝、ずっと手ぶらだったじゃないか」
「むかっ。そういう晶も手ぶらだっただろ?」
ロカイとプラウダが準備した荷物をもっぱら引き受けて運んだのは、怪力の結城だ。それでも彼女はまだまだ元気で、夕食のあと、この家の子どもたちの遊び相手をしてやると云って、部屋を出ていっていた。
やがてロカイが、習慣だというお祈りを終えたプラウダと結城を連れて、宝たちの部屋にやってきた。
部屋は土間から膝ほどの丈に設えられた板間だ。そこに三人分の寝具を敷いてもらっている。
宝たちは布団のうえに座っていたが、ロカイは板間のうえにあがってくることはしないで、そのヘリに腰をかけ、長い脚を地面に下ろしていた。
同じようにしてプラウダも板間を椅子のようにして腰掛けていたが、彼女は下ろした脚を長いスカートのなかでうつくしく揃えている。
行儀悪く布団に腹をつけて寝そべり、折った膝から下をぷらぷらしている結城が身内だと思うと宝はちょっと恥ずかしくなってしまって頬を掻いた。
「今日は三人とも、協力してくれてありがとう。いまから私たちの置かれた状況と、これからのことを説明させてもらう。疲れていると思うけども、少し話につきあってほしい」
ロカイの言葉に、宝は緊張しながら「はい」頷いた。
晶はここに来るまでの道中で拾い集めた石を熱心に観察していたが、頭のいい彼女のことだ、きっと話にも耳を傾けているだろう。
彼はここが太陽系とは別の、太陽と同じだけのエネルギーのある星を中心に回っている惑星のひとつだと説明してくれた。
「この星は君たちの住んでいる地球よりも、一段レベルの高い人間が住む星なんだ。個人差はあるけども、地球で百回くらい生まれ変わって魂に磨きをかけたものが、つぎに生きる場所になる。つまり地球が魂の幼稚園だとしたら、ここは小学校ってところかな?」
「それはここのひとたちのほうが、俺たちよりも賢いってことですか?」
自分たちのほうが格下だと云われていることに、宝はいささかむっとした。
「いや。知能の問題じゃないんだよ。あくまでも魂だ。それにたとえば保育園の年長で優れた子と、学校一年生で幼い子となら、立場は逆になるだろう? ここに住む人間は、さほど君たちの住む星の人間とは変わらないものも多い。しかも地球と同じで、この星も広くていろんな国があり人々がいる。あとは宝が実際にここで出会っていくひとたちから、いろいろ感じとってくれ」
「……はい。それよりも、あの。俺たちすぐに帰れないんですか? うっかりついてきちゃったけど、早く帰らないと家族が心配する」
「いやいや、しないでしょ。宝はいまちゃんと地球で入院してることになっているんだから。それに晶はひとり暮らしだし、あたしは放浪癖あるから、いまさら親は気にしないよ?」
「そういう問題じゃないだろ? こんなワケわかんないとこ来ちゃって。もしなんかあったりしたらどうすんだ? 帰れなくなったりしたら……」
父と妹のふたりしかいないけど、大切な家族や友人の顔を思い出して宝はじわりと目頭を濡らした。
「宝、大丈夫ですよ」
プラウダに云われ、恥ずかしくなって涙を拭う。ロカイが話しをつづけた。
「ここが地球と大きく違うのは、神との親交を忘れないままに『愛』を体現しながらひとが生きていることだ。これと同じことをしようとした地球は、集団としては四百万年以上前に失敗している。現在は個々でそう生きているひとたちは、いるだろうけどね。ちなみにそういうひとたちは、そのうちここに生まれかわってやってくるか、もしくは徒にここから地球に転生したりしているかだ」
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