4 / 23
ヒロインにはなりませんから!
オズ王国
しおりを挟む
「ここがオズ王国……」
通行証がない主人公だったが、森で行き倒れて記憶がなくなっているらしいと嘘をついて通してもらった。
服に泥を付けてそれらしく見せると、門番は哀れんでハンカチまで渡してくれた。
(オズ王国は身分証明が必要だけど、怪我人や緊急性があると受け入れる国だけど、偽っておかないと……。異邦人だとバレたら危ないものね)
記憶がないというのも、これから生活するのに楽だからというのもある。この世界の常識を知らなくても記憶がないと言えば回避できるからだ。
「なあ、情報が集まるところってあるか?」
(へぇ、高校生にしては状況判断は正確なんだ。優等生タイプなのかな)
異世界転移主人公の性格は千差万別だが、賢い主人公は大歓迎だ。
「情報ならギルドかなあ」
「じゃあ、そこに案内してくれないか?」
(どれだけ情報漁っても欲しい情報はないのに……)
ここは彼が居た世界ではない。
それを知っているのはアンナだけだが、自分可愛さに全てを教えることは出来ない。
もし教えてしまえば自分が転生者だとバレるし、それで親近感を抱かれて親しくされては困る。
「ここが王都で一番大きいギルド」
レンガ造りの大きなギルドにはマンチキンと看板が立てられている。
マンチキンは王都のみならず世界中の依頼が集まり、それと同じように多くの冒険者がやってくる。
ギルド内には受付の他にバーカウンタで酒と軽食が提供されており、冒険者たちや依頼者たちが寛げるように円卓が並べられている。
アンナもこのギルドに週に三度ほど薬品を納品するので勝手知ったるなんとか、というやつで、戸惑う主人公を引き連れて、受付まで慣れた足取りで近づいた。
「あらアンナさん!」
「こんにちはラナ」
受付嬢のラナは栗毛の髪を二つに結い、快活な笑顔を向けてくる。
「この人、森で倒れていたの。何か情報ない?」
「はいはい、お兄さんお名前は?」
ラナは慣れた手付きで依頼書を取り出した。
「田辺幸太郎です」
「幸太郎さんですね!」
ニコリ、と花が咲くように笑うので、この笑顔に惚れる冒険者や市井の男たちは多い。
「えーっと……。……ごめんなさい、捜索依頼から指名手配書まで見ましたが該当するものがありませんね」
「そう、ですか……」
見るからに落ち込んだ主人公に、アンナは少しだけ同情した。
きっと自分の意志とは関係なく訪れた変化を無慈悲に感じ、そして行き場のない不快感を消化出来ずにいるのだろう。
「また来てくださいね」
ラナに見送られてギルドを出た主人公は途方にくれていた。
申し訳ないと思いながら、アンナとしてはもう帰りたかった。
(なんで? 異世界転移したら喜ぶものじゃないの? ギルドに来たら冒険者登録してさよならだと思っていたのに!)
計画違いもいいところだ! と溜息をつく。このまま見捨てても良いが、残った良心が痛むのも確かだ。せめて宿くらいは案内してやろうと思った。
「とりあえず宿を探さなきゃ」
「あ、お金……」
学生服のポケットから取り出した財布には当然日本硬貨しか入っていない。この世界で使えるものは何一つなかった。
(そりゃそうだ~~)
途端に顔を曇らせる主人公に、アンナは今日一番の溜息を吐く。
「とりあえず泊まれる宿へ行きましょ」
いたいけな男子高校生を野宿させるなど出来るわけもなく、先程森に置き去りしようとした事実を記憶から消して、アンナたちは宿を探すために街を歩き出した。
通行証がない主人公だったが、森で行き倒れて記憶がなくなっているらしいと嘘をついて通してもらった。
服に泥を付けてそれらしく見せると、門番は哀れんでハンカチまで渡してくれた。
(オズ王国は身分証明が必要だけど、怪我人や緊急性があると受け入れる国だけど、偽っておかないと……。異邦人だとバレたら危ないものね)
記憶がないというのも、これから生活するのに楽だからというのもある。この世界の常識を知らなくても記憶がないと言えば回避できるからだ。
「なあ、情報が集まるところってあるか?」
(へぇ、高校生にしては状況判断は正確なんだ。優等生タイプなのかな)
異世界転移主人公の性格は千差万別だが、賢い主人公は大歓迎だ。
「情報ならギルドかなあ」
「じゃあ、そこに案内してくれないか?」
(どれだけ情報漁っても欲しい情報はないのに……)
ここは彼が居た世界ではない。
それを知っているのはアンナだけだが、自分可愛さに全てを教えることは出来ない。
もし教えてしまえば自分が転生者だとバレるし、それで親近感を抱かれて親しくされては困る。
「ここが王都で一番大きいギルド」
レンガ造りの大きなギルドにはマンチキンと看板が立てられている。
マンチキンは王都のみならず世界中の依頼が集まり、それと同じように多くの冒険者がやってくる。
ギルド内には受付の他にバーカウンタで酒と軽食が提供されており、冒険者たちや依頼者たちが寛げるように円卓が並べられている。
アンナもこのギルドに週に三度ほど薬品を納品するので勝手知ったるなんとか、というやつで、戸惑う主人公を引き連れて、受付まで慣れた足取りで近づいた。
「あらアンナさん!」
「こんにちはラナ」
受付嬢のラナは栗毛の髪を二つに結い、快活な笑顔を向けてくる。
「この人、森で倒れていたの。何か情報ない?」
「はいはい、お兄さんお名前は?」
ラナは慣れた手付きで依頼書を取り出した。
「田辺幸太郎です」
「幸太郎さんですね!」
ニコリ、と花が咲くように笑うので、この笑顔に惚れる冒険者や市井の男たちは多い。
「えーっと……。……ごめんなさい、捜索依頼から指名手配書まで見ましたが該当するものがありませんね」
「そう、ですか……」
見るからに落ち込んだ主人公に、アンナは少しだけ同情した。
きっと自分の意志とは関係なく訪れた変化を無慈悲に感じ、そして行き場のない不快感を消化出来ずにいるのだろう。
「また来てくださいね」
ラナに見送られてギルドを出た主人公は途方にくれていた。
申し訳ないと思いながら、アンナとしてはもう帰りたかった。
(なんで? 異世界転移したら喜ぶものじゃないの? ギルドに来たら冒険者登録してさよならだと思っていたのに!)
計画違いもいいところだ! と溜息をつく。このまま見捨てても良いが、残った良心が痛むのも確かだ。せめて宿くらいは案内してやろうと思った。
「とりあえず宿を探さなきゃ」
「あ、お金……」
学生服のポケットから取り出した財布には当然日本硬貨しか入っていない。この世界で使えるものは何一つなかった。
(そりゃそうだ~~)
途端に顔を曇らせる主人公に、アンナは今日一番の溜息を吐く。
「とりあえず泊まれる宿へ行きましょ」
いたいけな男子高校生を野宿させるなど出来るわけもなく、先程森に置き去りしようとした事実を記憶から消して、アンナたちは宿を探すために街を歩き出した。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる