50 / 64
【第50話】終わりの始まり
しおりを挟む
イヴが今後の対策のため奔走していた頃、漣は自分の仕事をこなすためキッチンに立っていた。
帰りに立ち寄った市場で買ってきた、牛肉っぽい赤身のもも肉を一口大に切り、塩とコショウを振って揉み込む。
今夜のメニューは、牛ではない何かの肉を使ったビーフシチューもどき。
メビウス少年のサービスなのか、バターと缶入りデミグラスソースがパントリーにあったのは何気に嬉しい。
バターを溶かしたフライパンで肉を焼き、乱切りのニンジンとくし型に切った玉ねぎを加えて炒める。
玉ねぎが透明になってきたら丸ごと圧力鍋に移し、赤ワインと水を入れ沸騰したところで灰汁を取る。
それからフタをして15分ほど煮込み、デミグラスソースにトマトケチャップ、ジャガイモを投入して、かき混ぜながらジャガイモが柔らかくなるまで更に煮込む。
玉ねぎは溶けてしまったものの、ビーフシチューもどきの出来上がったところに、ちょうどイヴも帰ってきた。
「え? これって、シチューですか? とろみがあって、味が濃厚で……とても美味しいです」
「お肉もほろほろで、柔らかいね~」
「酸味と甘みのバランスが、絶妙ですねぇ。食べ過ぎてしまいそうですぅ」
デミグラスソースが口に合うかどうか、心配には及ばなかったようで、三人とも満足げな様子で平らげてくれた。
「やっぱり、キテレツくんの料理は最高だね~」
「これからも、お願いしますねぇ」
「ははは、どうも」
レシピ通りに作っただけで、漣のオリジナルメニューという訳ではないので、面と向かって褒められるのはどうにも面映ゆい。
「あの、ノーバディさん……」
食事を終えたイヴが膝に手を置き、神妙な顔で漣を見つめた。
「あ、もしかして、口に合わなかった?」
「いえっ、お料理は美味しく頂きました。そうではなくて……いえ、今ここで話す事ではないわ。明日の朝にしましょう」
イヴはそう言うと席を立ち、リーナとクレムに短く目配せをして二階の部屋へと上がって行った。
「じゃあ、ボクたちも疲れたから、これで休むね~」
「お休みなさい、ノーバディさん」
明らかに何か、三人だけの秘密の話をするのだろう。
漣は何も聞かず、夕食の後片づけを始めた。
◇◇◇◇◇
その日、夜半を過ぎた頃。
見張りの目を搔い潜り、夜の闇に紛れて結界柱に近づく二つの影があった。
「なあ、ホントにやるのか? キール」
覆面で顔をかくした男の一人が、不安そうにもう一人に尋ねた。
「当たり前だろ。死にたくなきゃ、覚悟を決めろよ、テッド」
答えた男の声も僅かに震えている。
「簡単な仕事だ、コイツをこの結界柱に仕掛けるだけだからな」
そう言ったキールの手には、グレイオがガロウズに渡した、結界柱を壊すための青い石が握られていた。
もちろん、ガロウズに命じられてここにやって来た二人の男は、ガロウズの手下たちだ。
「けどよ、不味くねぇか。俺たち、人間を裏切る事になるんだぜ……」
結界が壊れれば、街に魔物が入ってくる。
その混乱を予想して、テッドは弱気になっていた。
ただ、それは石を手にしたキールも同じだ。
「知るかよ。お前もラスたちが殺られるのを見たろ。俺は、あんな死に方はご免だぜ」
「このまま、闇にまぎれて逃げるってのは……」
仮に、魔族に加担した事が明るみに出れば、絞首刑は免れない。
「止めとけよ。それこそ、街を出た途端……」
キールはテッドの目の前に拳を出し、ぱっと開いて見せた。
「そ、そうだな……俺も、死にたかぁねぇ」
「そうだろ? あの魔族も、ちょっと騒ぎを起こすだけって言ってんだ。街の人間が何人か死ぬだろうが、あの女勇者を好きにできて、ノーバディってヤツを殺れりゃ、安いもんだぜ」
「あ、ああ。今までもそうしてきたんだしな。きっとこれからもそうだ」
彼らは、自分の都合の良い生き方をしたいがため、ガロウズの配下になった。
ガロウズに従ってさえいれば、好きなように他人を弄んで、好きなだけ欲しい物を手に入れられた。
だから、街に魔物がなだれ込んでくるとしても、自分たちに牙を向けるなどという考えは、一切持ち合わせていなかった。
「よし、これでいい。さっさと戻ろうぜ」
キールたちは結界柱に石を仕掛けると、来た時と同じように闇の中へ消えて行った。
帰りに立ち寄った市場で買ってきた、牛肉っぽい赤身のもも肉を一口大に切り、塩とコショウを振って揉み込む。
今夜のメニューは、牛ではない何かの肉を使ったビーフシチューもどき。
メビウス少年のサービスなのか、バターと缶入りデミグラスソースがパントリーにあったのは何気に嬉しい。
バターを溶かしたフライパンで肉を焼き、乱切りのニンジンとくし型に切った玉ねぎを加えて炒める。
玉ねぎが透明になってきたら丸ごと圧力鍋に移し、赤ワインと水を入れ沸騰したところで灰汁を取る。
それからフタをして15分ほど煮込み、デミグラスソースにトマトケチャップ、ジャガイモを投入して、かき混ぜながらジャガイモが柔らかくなるまで更に煮込む。
玉ねぎは溶けてしまったものの、ビーフシチューもどきの出来上がったところに、ちょうどイヴも帰ってきた。
「え? これって、シチューですか? とろみがあって、味が濃厚で……とても美味しいです」
「お肉もほろほろで、柔らかいね~」
「酸味と甘みのバランスが、絶妙ですねぇ。食べ過ぎてしまいそうですぅ」
デミグラスソースが口に合うかどうか、心配には及ばなかったようで、三人とも満足げな様子で平らげてくれた。
「やっぱり、キテレツくんの料理は最高だね~」
「これからも、お願いしますねぇ」
「ははは、どうも」
レシピ通りに作っただけで、漣のオリジナルメニューという訳ではないので、面と向かって褒められるのはどうにも面映ゆい。
「あの、ノーバディさん……」
食事を終えたイヴが膝に手を置き、神妙な顔で漣を見つめた。
「あ、もしかして、口に合わなかった?」
「いえっ、お料理は美味しく頂きました。そうではなくて……いえ、今ここで話す事ではないわ。明日の朝にしましょう」
イヴはそう言うと席を立ち、リーナとクレムに短く目配せをして二階の部屋へと上がって行った。
「じゃあ、ボクたちも疲れたから、これで休むね~」
「お休みなさい、ノーバディさん」
明らかに何か、三人だけの秘密の話をするのだろう。
漣は何も聞かず、夕食の後片づけを始めた。
◇◇◇◇◇
その日、夜半を過ぎた頃。
見張りの目を搔い潜り、夜の闇に紛れて結界柱に近づく二つの影があった。
「なあ、ホントにやるのか? キール」
覆面で顔をかくした男の一人が、不安そうにもう一人に尋ねた。
「当たり前だろ。死にたくなきゃ、覚悟を決めろよ、テッド」
答えた男の声も僅かに震えている。
「簡単な仕事だ、コイツをこの結界柱に仕掛けるだけだからな」
そう言ったキールの手には、グレイオがガロウズに渡した、結界柱を壊すための青い石が握られていた。
もちろん、ガロウズに命じられてここにやって来た二人の男は、ガロウズの手下たちだ。
「けどよ、不味くねぇか。俺たち、人間を裏切る事になるんだぜ……」
結界が壊れれば、街に魔物が入ってくる。
その混乱を予想して、テッドは弱気になっていた。
ただ、それは石を手にしたキールも同じだ。
「知るかよ。お前もラスたちが殺られるのを見たろ。俺は、あんな死に方はご免だぜ」
「このまま、闇にまぎれて逃げるってのは……」
仮に、魔族に加担した事が明るみに出れば、絞首刑は免れない。
「止めとけよ。それこそ、街を出た途端……」
キールはテッドの目の前に拳を出し、ぱっと開いて見せた。
「そ、そうだな……俺も、死にたかぁねぇ」
「そうだろ? あの魔族も、ちょっと騒ぎを起こすだけって言ってんだ。街の人間が何人か死ぬだろうが、あの女勇者を好きにできて、ノーバディってヤツを殺れりゃ、安いもんだぜ」
「あ、ああ。今までもそうしてきたんだしな。きっとこれからもそうだ」
彼らは、自分の都合の良い生き方をしたいがため、ガロウズの配下になった。
ガロウズに従ってさえいれば、好きなように他人を弄んで、好きなだけ欲しい物を手に入れられた。
だから、街に魔物がなだれ込んでくるとしても、自分たちに牙を向けるなどという考えは、一切持ち合わせていなかった。
「よし、これでいい。さっさと戻ろうぜ」
キールたちは結界柱に石を仕掛けると、来た時と同じように闇の中へ消えて行った。
4
お気に入りに追加
787
あなたにおすすめの小説
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
それ行け!! 派遣勇者(候補)。33歳フリーターは魔法も恋も超一流?
初老の妄想
ファンタジー
フリーターの33歳ヤマダタケルは、コンビニバイトの面接で高時給のバイト「派遣勇者(候補)」を紹介された。
時給と日払い条件につられて、疑いながらも異世界ドリーミアにたどり着いたタケル達は、現世界のしがらみやRPGとは違う異世界の厳しさに戸惑いながらも成長し、異世界を救うため魔竜の討伐へ力を合わせて行く。多くの苦難や信じていた人々の裏切りを乗り越え、やがて真の勇者へ成長する。
リアルとファンタジーが入り混じる虚構の世界が展開される超長編のサーガを書き上げるつもりです。(今のところは)
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる