34 / 64
【第34話】理不尽な捕縛
しおりを挟む
「手が滑っただと?」
男は床のスプーンを蹴とばし、射殺すような眼光で漣を睨んだ。
敵意と殺気を向けてくる男に重なる警告は、ディスアザードやオークウルフ並みの【ARERTⅡ】と、人間にしてはなかなかに高い。
「どう滑らせりゃ、こんなモンが飛んでくるんだ? 上手い言い訳は考えてんだろうな」
悪びれる様子を見せることなく、漣は手の平を見せ大袈裟に肩を竦める。
「いやあ、ホントすまなかった。次はちゃんと頭に当てるから勘弁してくれ」
「随分なめ腐った野郎だな。俺様が誰だか知らねえのか」
「ん? どっかで会ったっけ? もしかして幼馴染とか? ああダメだすまん、やっぱり思い出せないわ」
終始ふざけた態度を崩さない漣に業を煮やしたのか、男は肩を怒らせてずかずかと近づき、テーブルが壊れそうなほどの勢いで左手を叩きつけた。
「こう見えて俺様は優しいんだ。今泣いて謝れば、有り金全部に半殺しと、後は腕一本で許してやるぜ?」
男は左手で、自分の右腕を切るような身振りを見せる。
教養も知性もない見た目通り、弱いと思った相手にはとことん追い込みを掛ける、根っからの屑だ。
当然、漣に一歩も引く気はない。
「俺はこう見えて無慈悲なんだ。今あの子に謝って大人しく店を出れば、血の味のする酒を飲まなくても済むけど?」
「ああ? そりゃどういう意味だ?」
「さあな、試してみなよ。後悔するぜ?」
あからさまな漣の挑発に男がキレた。
「ふざけんなコラァ!!」
男は怒声をあげ、勢いよくテーブルを蹴り飛ばす。
シチューの残った鉢が床に落ち音を立てて割れるのを横目に、漣は素早く立ち上がり男の鳩尾に突きを打ち込む。
「ぐはっ」
「食べ物を粗末にするな、この馬鹿」
ニヤけながら様子を窺っていた手下の男たちが、よろけるリーダーを見て顔色を変え、一斉に漣へと押し寄せる。
「店の中で騒ぐな。他のお客さんに迷惑だろ」
漣はリーダー格の男の顔を掴み外へ投げ飛ばし、自分もすかさず店外に出た。
なるべく揉め事を起こしたくはなかったが、この状況では致仕方ない。
しっかり順を追って説明すれば、イヴたちも分かってくれるだろう。多分。
それに……。
「てめえ!」「なめやがって!」「ぶち殺してやるぜ!」
ステータスにあった、『格闘』スキル★5がどんなものなのか試すチャンスでもある。
先ずは殴りかかってくる3人の拳を躱し、顎と頬と腹に一発ずつ掌底突き。
一応手加減をしてみたのだが、男たちは数m吹っ飛んでいった。元の世界の人間なら確実に死んでいるところだ。
「息は……ありそうだな」
ピクピクと痙攣していても、死ぬような気配はない。
「くそっ!」
「死にやがれ!」
リーダーを含め一気に4人もやられて、素手では勝てないと思ったのだろう、残った4人が剣を抜いた。
冒険者らしくそれなりに剣術は使えるようだが、イヴに比べればその差は明らかでまるで子供のお遊戯にしか見えない。
漣はダガーを抜くまでもなく男たちの剣を余裕で躱し、気付けば最後の一人の顔面に拳を叩きつけていた。
「弱……この程度の実力で、よくあんな好き勝手ができたな」
まったくの拍子抜けで、これではスキルの検証も何もあったものではない。
「ああ、権力を笠に着てたってわけか」
イヴたちの話しによると、この連中は守備隊長であるゼール男爵の食客らしい。
「てめえ……このまま無事に帰れると思うなよ」
最初に投げ飛ばしたリーダーの男が立ち上がり剣を抜き放った。
「あれ、もう起きたのか? 丈夫なヤツだな」
「さっきは油断したが、今度はそうはいかねえ」
じりじりと間合いを詰め、男が漣に切りかかる寸前。
「動くな! 大人しくしろ!」
背後から数人の足音と、聞き覚えのある声が響いた。
「あんたはたしか、守備隊の……」
漣が振り返った先にいたのは、槍を構えたシュルツ分隊長だった。
「やっぱりお前か。いずれ尻尾を出すとは思ってたが、こんだけ早く騒動を起こすとはな」
シュルツが顎をしゃくると、部下の隊士たちがさっと漣を取り囲む。
「こりゃあシュルツ分隊長殿。いつもながら仕事熱心なことで」
リーダーの男は剣を鞘に納め、シュルツに向かって意味有り気ににやりと笑った。
「お前らはさっさと屋敷に戻れ。あんまり俺の手を煩わせるな」
「へいへい。じゃあ後は任せますぜ分隊長殿。おいっ、お前らいつまで寝てやがる! 行くぞ!」
立ち去る男たちをシュルツは顔を歪めて一瞥し、小さく舌打ちした後苦々しい表情を浮かべて漣を睨みつける。
「お前は一緒に詰所まで来いっ」
「え? ちょっと、何で俺だけ」
「うるせえ! 言いたいことが有るなら、詰所で聞いてやる!」
守備隊相手に暴れるわけにもいかず、漣は訳も分からないまま大人しく連行されて行った。
男は床のスプーンを蹴とばし、射殺すような眼光で漣を睨んだ。
敵意と殺気を向けてくる男に重なる警告は、ディスアザードやオークウルフ並みの【ARERTⅡ】と、人間にしてはなかなかに高い。
「どう滑らせりゃ、こんなモンが飛んでくるんだ? 上手い言い訳は考えてんだろうな」
悪びれる様子を見せることなく、漣は手の平を見せ大袈裟に肩を竦める。
「いやあ、ホントすまなかった。次はちゃんと頭に当てるから勘弁してくれ」
「随分なめ腐った野郎だな。俺様が誰だか知らねえのか」
「ん? どっかで会ったっけ? もしかして幼馴染とか? ああダメだすまん、やっぱり思い出せないわ」
終始ふざけた態度を崩さない漣に業を煮やしたのか、男は肩を怒らせてずかずかと近づき、テーブルが壊れそうなほどの勢いで左手を叩きつけた。
「こう見えて俺様は優しいんだ。今泣いて謝れば、有り金全部に半殺しと、後は腕一本で許してやるぜ?」
男は左手で、自分の右腕を切るような身振りを見せる。
教養も知性もない見た目通り、弱いと思った相手にはとことん追い込みを掛ける、根っからの屑だ。
当然、漣に一歩も引く気はない。
「俺はこう見えて無慈悲なんだ。今あの子に謝って大人しく店を出れば、血の味のする酒を飲まなくても済むけど?」
「ああ? そりゃどういう意味だ?」
「さあな、試してみなよ。後悔するぜ?」
あからさまな漣の挑発に男がキレた。
「ふざけんなコラァ!!」
男は怒声をあげ、勢いよくテーブルを蹴り飛ばす。
シチューの残った鉢が床に落ち音を立てて割れるのを横目に、漣は素早く立ち上がり男の鳩尾に突きを打ち込む。
「ぐはっ」
「食べ物を粗末にするな、この馬鹿」
ニヤけながら様子を窺っていた手下の男たちが、よろけるリーダーを見て顔色を変え、一斉に漣へと押し寄せる。
「店の中で騒ぐな。他のお客さんに迷惑だろ」
漣はリーダー格の男の顔を掴み外へ投げ飛ばし、自分もすかさず店外に出た。
なるべく揉め事を起こしたくはなかったが、この状況では致仕方ない。
しっかり順を追って説明すれば、イヴたちも分かってくれるだろう。多分。
それに……。
「てめえ!」「なめやがって!」「ぶち殺してやるぜ!」
ステータスにあった、『格闘』スキル★5がどんなものなのか試すチャンスでもある。
先ずは殴りかかってくる3人の拳を躱し、顎と頬と腹に一発ずつ掌底突き。
一応手加減をしてみたのだが、男たちは数m吹っ飛んでいった。元の世界の人間なら確実に死んでいるところだ。
「息は……ありそうだな」
ピクピクと痙攣していても、死ぬような気配はない。
「くそっ!」
「死にやがれ!」
リーダーを含め一気に4人もやられて、素手では勝てないと思ったのだろう、残った4人が剣を抜いた。
冒険者らしくそれなりに剣術は使えるようだが、イヴに比べればその差は明らかでまるで子供のお遊戯にしか見えない。
漣はダガーを抜くまでもなく男たちの剣を余裕で躱し、気付けば最後の一人の顔面に拳を叩きつけていた。
「弱……この程度の実力で、よくあんな好き勝手ができたな」
まったくの拍子抜けで、これではスキルの検証も何もあったものではない。
「ああ、権力を笠に着てたってわけか」
イヴたちの話しによると、この連中は守備隊長であるゼール男爵の食客らしい。
「てめえ……このまま無事に帰れると思うなよ」
最初に投げ飛ばしたリーダーの男が立ち上がり剣を抜き放った。
「あれ、もう起きたのか? 丈夫なヤツだな」
「さっきは油断したが、今度はそうはいかねえ」
じりじりと間合いを詰め、男が漣に切りかかる寸前。
「動くな! 大人しくしろ!」
背後から数人の足音と、聞き覚えのある声が響いた。
「あんたはたしか、守備隊の……」
漣が振り返った先にいたのは、槍を構えたシュルツ分隊長だった。
「やっぱりお前か。いずれ尻尾を出すとは思ってたが、こんだけ早く騒動を起こすとはな」
シュルツが顎をしゃくると、部下の隊士たちがさっと漣を取り囲む。
「こりゃあシュルツ分隊長殿。いつもながら仕事熱心なことで」
リーダーの男は剣を鞘に納め、シュルツに向かって意味有り気ににやりと笑った。
「お前らはさっさと屋敷に戻れ。あんまり俺の手を煩わせるな」
「へいへい。じゃあ後は任せますぜ分隊長殿。おいっ、お前らいつまで寝てやがる! 行くぞ!」
立ち去る男たちをシュルツは顔を歪めて一瞥し、小さく舌打ちした後苦々しい表情を浮かべて漣を睨みつける。
「お前は一緒に詰所まで来いっ」
「え? ちょっと、何で俺だけ」
「うるせえ! 言いたいことが有るなら、詰所で聞いてやる!」
守備隊相手に暴れるわけにもいかず、漣は訳も分からないまま大人しく連行されて行った。
5
お気に入りに追加
787
あなたにおすすめの小説
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
怠惰な俺は転生しても怠惰に暮らしたいと思い、神様にスローライフを懇願してみた
夜夢
ファンタジー
争いは嫌い、働くのも嫌いな主人公【田中 陸人】は生まれてこのかた慌てた事がない。
過保護な親に甘え続けて三十年、趣味はネットゲームとネットサーフィン。昼夜問わずPCにかぶり付き続けた彼はその日頃の生活習慣から体を病み、若くしてこの世を去る事に……。
そんな彼がたまたま得たチャンス。
死んだ彼の目の前に神様が現れこう告げた。
「お主にもう一度だけチャンスを与えよう。次の世界では自分のためではなく人のために生きてみせよ」
彼は神にこう返した。
「神様、人のために生きるには力が必要です。どうかそれを成すための力をお与え下さい」
ここから彼の第二の人生がはじまるのである
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる