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【第33話】我慢も限界

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 入って来た八人の男たちは、全員が統一されていない武器と防具を装備していた。

 この連中が何者なのか知っているのだろう、店内の客は皆怯えた表情に変わり、なかには食事が終わっていないにもかかわらず、代金をテーブルに置き慌てて店を出て行く者もいた。

「もしかして、イヴたちの話してた質の悪いっていう冒険者か……」

 その推察は当たっていたようで、男たちは席につくなり大声で不快な話しを始める。

「そういやオメェら、あの行商人の夫婦はどうした?」

 リーダー格らしき男が、手下の男たちに尋ねた。

「ああ、アイツらか。護衛料を払いたくねぇとゴネやがるからよ、ちょいと意見してやって、女房を皆でかわいがってやったら、泣きながら全財産差し出してきやがった」

「笑えンだろ? もっと早く出してりゃ俺らだって穏便に済ませてやったのによォ」

「んで、最後は河に放り込んでやったぜ。今頃は夫婦揃って海じゃねえか?」

 男たちがドッっと笑い出す。

 本当か嘘かは分からないが、どちらにしても胸糞の悪くなる話しだ。

 無意識にバスターガンを抜こうとしていることに気付き、漣は慌てて手を止める。 

〝話しがムカついたので殺しました〟は、さすがに異世界でも通用するはずがない。

「異世界ってのもあるけど、銃を持ってるせいで気が大きくなってるのかな……」

 魔物を何体も殺したせいなのか、それともあの男たちを人として認識していないのか。

 冷静に考えてみると、命を奪うことに対して何の躊躇も僅かな良心の呵責さえなかった気がする。

 これはあまり良い傾向ではないように思え、漣は命にかかわるような状況以外は静観することにした。

「お、お待たせしました」

 女給が男たちのテーブルに料理を並べていく。

「何だこのみすぼらしい料理は? 一番上等なモノを持ってこいといったんだぜ」

「まあまあ、そういってやるなよ。こんな貧乏人相手の店じゃあ、これが精一杯なんだろうよ」

 男たちがまた一斉に笑った。

「料理はどうでもいい。酒はどうした?」

 リーダー格の男が、ギロリと女給を睨みつける。

「あ、あのっ、でも、それは……」

 すっかり怯えてしまった女給を庇うように、店主らしき人物が厨房から飛び出してきて彼女の前に立った。

「申し訳ないのですが、規則で昼間は酒を出すことができないのです。どうかご了承……ぐっ」

 店主が言い終わらないうちにリーダー格の男が立ち上がり、店主の胸倉を掴む。

「俺様が誰だか、知らねえはずはねえよなあ」

「は、はい、もちろん……」

「なら、何を優先するのが利口か、わかるよなあ」

「は、い……ターニャ、さ、酒を……」

 ギリギリと締め上げられつま先立ちになった店主は、息をするのも苦しいのか絞り出すような声で女給に指示した。

「は、はいっ、すぐにっ」

 蒼ざめた顔の女給が厨房に掛けて行き、酒瓶を両手に抱えて戻って来るとすぐさま引き返し、今度は人数分のカップを持って出てくる。

「そう、それでいいんだ。なかなか飲み込みが早くて助かるぜ」

 男は店主を放し、乱暴に突き飛ばす。

「あっ」

 床に転がった店主に駆け寄ろうとする女給の腕を、男ががっしりと掴んでテーブルに引き寄せた。

「おめえは給仕だろ? だったら給仕らしく、俺たちに酌をするんだよ」

「いやっ、は、はなしてっ」

 激しく抵抗する女給の頬に男の平手打ちが飛び、ぱぁんっと乾いた音が店内に響く。

「どうも分かってねえようだな」

 男は、あろうことか女給の襟元を掴み、そのまま服を引き裂いた。

「きゃあああ」

 女給は下着が露わになった胸元を隠そうと必死にもがくものの、腕を手下の男たちに捻り上げられ、身動きできない状態でリーダーの男の前に立たされる。

「どこにも行けないように、裸にひん剥いてやるか」

「ああ、そりゃあいい考えだ」

 止めてくれと叫ぶ店主を取り押さえ、男たちはにやにやと下卑た笑いを浮かべた。

「いやあっ、お願いやめてっ、助けてぇっ」

「おいおい、何も取って食おうってんじゃねえんだ。それらしい格好にしてやろうってだけさ」

 男が手を伸ばし、女給の下着を掴もうとした間際。

 ひゅん、っと風を切り飛んできた木製のスプーンが、男の手を勢いよく弾いた。

「なっ、誰だ!」

 すぐさま、それが飛んできた方向を振り向いた男が声を荒げて叫ぶ。

 顔を向けられた客たちが、まるで波が引くように大慌てで席を立つ。

「ああ、悪い悪い。手が滑ったわ」

 さすがに、これ以上我慢する気はない。

 漣は男に向かってひらひらと手を振った。


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