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【第24話】勇者様の料理番
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「それで、やっぱりゲートだったの?」
初めに尋ねたのはシアグレーの髪をショートボブにした、少したれ目ぎみな美少女だった。
「ええ、報告にあった通り、3か所ともゲートだったわ」
それからイヴは、3か所のゲートを破壊したこと、最後にオークプルートたちと戦闘になったことを語った。
「ひゃあ~、大変だったねぇ。ボクたちも行けば良かったよ」
「本当です。イヴさんなら心配はないと思っていましたけど、そんなことがあっただなんて」
フレンドリーなショートボブの美少女に対して、もう一人はおっとりとした喋り方で大人の女性といった印象だ。
ゆるふわロングの透き通るような翠色の髪が、どことなく神秘性を醸し出している。
「そちらは、変わったことはなかったかしら?」
イヴが留守中の街の様子について尋ねると、二人は首をふり少しだけ疲れたような笑みを浮かべた。
「な~んにも。退屈で死にそうだったよ」
「ゼール男爵の雇った冒険者が、喧嘩騒ぎを起こしたくらいですかねぇ」
ゼール男爵は守備隊の隊長で、彼は正規の隊員の他に、荒事に使う私兵として何人かの冒険者を雇っている、と漣にも分かるようにイヴは付け加えた。
「ま、アイツら騒ぎを起こさない日はないけどね~。な~んか、あれこれ因縁付けて、いろんな人からお金巻き上げてるらしいよ」
「その噂、私も聞いたことがあります。本当なら困ったものですねぇ」
ショートボブの美少女はやれやれといった様子で肩を竦め、ロングの美女は腕を組み細い眉をひそめる。
「街の治安については、私たちに権限はないし……どうしようもないわね。向こうから絡んでくれば別だけれど……」
「まあまあ、イヴが考えることじゃあないよ。ボクらは魔物の相手をしてればいい訳だしさ。面倒なもめ事は、守備隊か街のギルドに任せましょ、てね」
ショートボブの美少女は、ぴんっと人差し指を立てて首を傾けた。
「ああ~と、それでさぁイヴ。その、後ろの人は誰?」
「私も、気になっていました」
今までほぼ空気だった漣に、ようやく二人の注目が集まった。
「な~んか、キテレツな恰好してるけど」
ショートボブの娘が、漣の姿をじろじろと眺めていたずらっぽい笑みを浮かべる。
「き、キテレツ!?」
漣は両手を広げて自分の服装をチェックしてみた。
赤と黒を基調に白いラインの入ったジャケットと黒に赤いラインのカーゴパンツ。
翻ってイヴたちを観察してみる。
イヴは白いドレスシャツに膝上のスカート。
ショートボブの娘は古代ローマ風に見える黒のミニワンピース。
ロングの美女はシスターのような白いロングワンピース。
三人とも小説やゲームに登場するような服装で、比べてみればSF調の漣の恰好は確かに異質といえる。
「リーナっ失礼よ」
「ええ~、でもイヴだってそう思ったでしょ?」
「そ、それはっ……」
イヴは顔に似合わずおろおろと目を泳がす。
どうやら彼女も同じことを思っていたらしい。漣に気を使ってあえて口にしなかったのだろう。
「と、とにかくっ、それは置いておいて、先に紹介しておくわっ。彼はノーバディさん。精霊の道に巻き込まれた異国の料理人で、この街に滞在する間パーティーで雇うことにしたの」
イヴはすっと漣に目を向けた。
「ども、料理人のノーバディです、よろしく」
「彼は戦闘職ではないけれど、魔法収納のスキル持ちなの。でも、それはここだけの秘密にして、いい?」
驚いて目を丸くしている二人に向け、イヴは口元に人差し指を添えて釘を刺した。
「へぇ~魔法収納か~。見かけによらず優秀なんだキテレツくん。ああ、ボクはリーナ・リーン。魔術士だよ、よろしくね」
ショートボブの美少女が、にっこりと笑ってウインクする。
「私はクレメンタイン・バークレイといいます。回復魔法と支援魔法の法術士です。よろしくお願いしますね、ノーバディさん」
ゆるふわロングの美女は、胸に右手を添え左手を広げて優雅にお辞儀をした。
お辞儀を返した後、漣は考える。
料理人になることは、果たしてメビウス少年の意図に沿うものだろうか。
「ま、いいか。メビウス少年も何をやるかは俺の自由って言ってたしな」
漣は皆に聞こえない声で呟く。
とりあえず、この世界での最初の職業、料理人になった。
初めに尋ねたのはシアグレーの髪をショートボブにした、少したれ目ぎみな美少女だった。
「ええ、報告にあった通り、3か所ともゲートだったわ」
それからイヴは、3か所のゲートを破壊したこと、最後にオークプルートたちと戦闘になったことを語った。
「ひゃあ~、大変だったねぇ。ボクたちも行けば良かったよ」
「本当です。イヴさんなら心配はないと思っていましたけど、そんなことがあっただなんて」
フレンドリーなショートボブの美少女に対して、もう一人はおっとりとした喋り方で大人の女性といった印象だ。
ゆるふわロングの透き通るような翠色の髪が、どことなく神秘性を醸し出している。
「そちらは、変わったことはなかったかしら?」
イヴが留守中の街の様子について尋ねると、二人は首をふり少しだけ疲れたような笑みを浮かべた。
「な~んにも。退屈で死にそうだったよ」
「ゼール男爵の雇った冒険者が、喧嘩騒ぎを起こしたくらいですかねぇ」
ゼール男爵は守備隊の隊長で、彼は正規の隊員の他に、荒事に使う私兵として何人かの冒険者を雇っている、と漣にも分かるようにイヴは付け加えた。
「ま、アイツら騒ぎを起こさない日はないけどね~。な~んか、あれこれ因縁付けて、いろんな人からお金巻き上げてるらしいよ」
「その噂、私も聞いたことがあります。本当なら困ったものですねぇ」
ショートボブの美少女はやれやれといった様子で肩を竦め、ロングの美女は腕を組み細い眉をひそめる。
「街の治安については、私たちに権限はないし……どうしようもないわね。向こうから絡んでくれば別だけれど……」
「まあまあ、イヴが考えることじゃあないよ。ボクらは魔物の相手をしてればいい訳だしさ。面倒なもめ事は、守備隊か街のギルドに任せましょ、てね」
ショートボブの美少女は、ぴんっと人差し指を立てて首を傾けた。
「ああ~と、それでさぁイヴ。その、後ろの人は誰?」
「私も、気になっていました」
今までほぼ空気だった漣に、ようやく二人の注目が集まった。
「な~んか、キテレツな恰好してるけど」
ショートボブの娘が、漣の姿をじろじろと眺めていたずらっぽい笑みを浮かべる。
「き、キテレツ!?」
漣は両手を広げて自分の服装をチェックしてみた。
赤と黒を基調に白いラインの入ったジャケットと黒に赤いラインのカーゴパンツ。
翻ってイヴたちを観察してみる。
イヴは白いドレスシャツに膝上のスカート。
ショートボブの娘は古代ローマ風に見える黒のミニワンピース。
ロングの美女はシスターのような白いロングワンピース。
三人とも小説やゲームに登場するような服装で、比べてみればSF調の漣の恰好は確かに異質といえる。
「リーナっ失礼よ」
「ええ~、でもイヴだってそう思ったでしょ?」
「そ、それはっ……」
イヴは顔に似合わずおろおろと目を泳がす。
どうやら彼女も同じことを思っていたらしい。漣に気を使ってあえて口にしなかったのだろう。
「と、とにかくっ、それは置いておいて、先に紹介しておくわっ。彼はノーバディさん。精霊の道に巻き込まれた異国の料理人で、この街に滞在する間パーティーで雇うことにしたの」
イヴはすっと漣に目を向けた。
「ども、料理人のノーバディです、よろしく」
「彼は戦闘職ではないけれど、魔法収納のスキル持ちなの。でも、それはここだけの秘密にして、いい?」
驚いて目を丸くしている二人に向け、イヴは口元に人差し指を添えて釘を刺した。
「へぇ~魔法収納か~。見かけによらず優秀なんだキテレツくん。ああ、ボクはリーナ・リーン。魔術士だよ、よろしくね」
ショートボブの美少女が、にっこりと笑ってウインクする。
「私はクレメンタイン・バークレイといいます。回復魔法と支援魔法の法術士です。よろしくお願いしますね、ノーバディさん」
ゆるふわロングの美女は、胸に右手を添え左手を広げて優雅にお辞儀をした。
お辞儀を返した後、漣は考える。
料理人になることは、果たしてメビウス少年の意図に沿うものだろうか。
「ま、いいか。メビウス少年も何をやるかは俺の自由って言ってたしな」
漣は皆に聞こえない声で呟く。
とりあえず、この世界での最初の職業、料理人になった。
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