竜の恋人

異世界の扉

異世界の扉

アルは、与えられた部屋で着替えた後、第一皇子であるキャラハンと情報の擦り合わせを行っていた。
私はその間、この城の庭を散策させてもらっていた。
側についているのは専属執事のグレデリックと専属侍女のランだ。
リンは荷物の整理を行うからと言って残った。

紺色の髪に紅瞳のランは魔人族。別にこの国が母国と言うわけではないが、遠い祖先がこの国の住民であったらしい。
だから、一緒に同行したら良いと言っていた。だが、実際は、ランはリンよりもやや大雑把なところがあり、直ぐに魔法で何でも解決しようとする節があるとか。細かい作業はエルフ族であるリンの方が得意なんだって。
時々片付けなどで邪魔になりそうなら、追い出しているとリンが言っていたのを覚えている。たぶん、今もそうなんだろうなぁ…本人には内緒だけどね。

「この庭園も、なかなか趣がありますね。この薔薇などはとても美しいですね。」

ランがそう声をかけて来たので、『本当に綺麗ね』と同意した。

庭の中央部に大きな噴水があり、東屋も見えた。
しばらく散策を楽しんでいたら、いつの間にか二人が側を離れた。
あぁ、アルが側に来たからか。

アルと二人っきりで話せる様に、ある程度の距離を空けて控えてくれる。
うん、その辺りはさすがだ。しかも、気配を消してくれているあたりもね。
控えの護衛がいつも気配を消してついてくれている事も知っている。
アルが教えてくれていたから。
本当に、これぞプロの仕事だと常々思っているんだけどね。

「お待たせ。明日には例の扉に向かうよ。エドワード殿下もそちらにいるらしい。かなり逼迫した状態なんだろうね。言葉や文面で確認するよりも、実際に見ての確認の方が良いからね。危険な状態みたいで、本当は連れて行きたくないんだけれど、どうしても君の力が必要らしい。だから、私の側を離れないように。」

今日は『俺』ではないんだな…他国かだから？
まぁ、その時その時で『私』になったり『俺』になったりしてるから、気にはしないんだけどね。どこで区分けしてるのかはちょっとだけ気になるような…

まぁ、今は関係ない。
かなり逼迫しているなら、現場にいるであろう姉は大丈夫なのだろうか。
あの人…いゃ、あの方が側にいてくれているはずだから、大丈夫だとは思うんだけれども…
再び会える喜びと不安で何とも言えない。

「大丈夫だ。今までだって同じような危機を何度も乗り越えて来ているんだ。今回も大丈夫。優里には俺がついているからな。」

『俺』に変わったよ…

「うん、側にいてね。」

それだけ返事をして、アルの手を取り、一緒に部屋に戻った。