竜の恋人

文字の大きさ
上 下
21 / 216
異世界生活スタートです。

回想(アルホンス)

しおりを挟む
儀式成功に歓喜する者や、儀式で魔力枯渇を起こして倒れている者達など、多くの者達に囲まれながら、今回『聖女召喚の儀式』で召喚された二人の少女は、お互いを庇い合うように身を守り、説明を求めていた。

召喚後の説明やその後の事で主として『聖女』のお世話をするのは、儀式会場国である『ヒト族の国』ロザリアン神聖国と決まっている。そして、各国は自国に報告後、聖女と共に『浄化巡礼』の旅に付き従う者を派遣する事になる。
また、各国は『浄化巡礼』を支援しながら、自国での討伐も行なっていき、『扉』からの『悪魔降臨』を防ぐんだ。

召喚の儀式を立ち会った俺は、なぜかその少女の事が気になった。
召喚用の儀式の間。その中央には儀式用のサークルが描かれ、主として儀式を行う神官長はじめ多くに神官職と、各国の魔力の多い神官職の者達や、魔法師達が魔力を注ぎ込んでいた。
やがて、サークルが光りだすと、天高く光の柱のように輝き始め、人影が現れた。
会場内は固唾を飲んで見守り、輝く光が消えたと同時に二人の少女が現れたのだ。

その瞬間、何とも言えない香りが漂ってきた。
甘く甘美な香り…
それを感じるのが自分だけであるというのにも衝撃を受けた。

香りの元…現れた二人のうちの一人。
神官長や神官職に囲まれ連れて行かれていく少女ではなく、まるで拘束されるようにこの国の皇太子や騎士達に囲まれた少女。
その少女を見た途端。『ソレは自分のモノ』だと自覚した。

自分のモノだ。誰にも渡したくない。
誰にも傷つけさせたくない。
自分だけの大切な…
身体から、魂の髄まで食べ尽くしたいぐらいに…

ここまでの執着は、その少女が自分の『運命の番』であるという事だろう。

連れて行かれる先には不安が募るが、今奪い去れば下手すれば国際問題になりかねない。
それが例え『番』に対しての事でもだ…
だが、指を咥えて見ているだけでは…
彼女が傷つけられるだけなら…そう、身体の傷なら自分が癒せれる…
だが、命を刈り取られるようになれば…

そう考え、すぐさま殿下に報告•相談した。
『番』に対しての迫害は、どの国でも許されない事だ。
ただ、相手が知っていた場合だが…
知らずにしてしまった場合は…黙認されてしまうことも…

だから、すぐさま行動に起こした。
王家の代表である殿下が動けば、公爵家の自分よりも国家間においては遥かに影響力がある。
殿下がすぐさま謁見を申し入れ、その件について伝えてもらえた。
よって、彼女の身の安全はとりあえず確約が取れた。

ただし、これまで『聖女召喚』で現れた『聖女』は一人。
彼女はイレギュラーである。
よって、国民に彼女を秘匿し、『浄化巡礼』が終わるまでは、何かあった時のために、この国に留めておく事になった。秘匿の手法として、『髪と瞳の色を変える』との事。
ただこれは、一時的に変えるだけの魔法薬ではなく、一度飲めば半永久的に変わったままなのだという。
これは、各国の国民が不安にならない為もあるが、それともう一つの思惑もあった。
そう、あの国の一部の者…あの者達が彼女を狙う可能性があるからだ。
これは、あの国の上層部から直ぐに連絡があった事でもあった。

殿下が謁見を申し入れた時、同じ女性の件であった為、あの国の王族代表が同席し、極秘会議となったのだとか…
彼女からその事がバレてはいけないので、敢えて伝えず、騙す形で『髪と瞳の色』を変えてしまい、この国の別の場所に居ていただくとの事だった。
身の安全は保証するとはいうが、絶対とも言い切れない。
よって、我が国と隣接する場所で、『竜人族』である我らが護衛に付くという提案を行なった。
戦闘能力は『ヒト族』より、我らの方が上なのだ。しかも、彼女は私の『番』である。
誰にも任せられるはずがない。

『ヒト族』も、『多種族』も、勿論、『番』については理解しているし、常識的知識である。
だから、それはすぐさま了承された。
ただし、護衛の『竜人族』は、『番』である者と、もう一人。そう、二名とされた。
でないと、例の者達にバレて、問題が起こる可能性が強くなるからだ。

彼女の隔離場所として、大陸の大陸中央を位置する『ヒト族の国』の中心の王都と神を祀る神殿とかある神都市からやや南西側にあたるシュタルク領とした。このシュタルク領は西側の『妖精の国』と、南側の『竜の国』に隣接した辺境地だ。だから、何かあれば、自国に連れて行くことも了承させた。
まぁ、後々、この国を出て、我が国に迎えるのだから、遅いから早いかの違いだけだ。
そして、彼女の護衛は私と殿下の二人。
これは国にすぐさま報告に戻り、殿下が『自分が一緒に行く』と言い出したのだ。
殿下とは親しい友人でもあり、信頼もしているが…面白がってだろうと思う。
本人も『こんな面白そうな事、他の者に任せられない』と言っていたから…

彼とは友人であるから、敬語は公式の場以外は禁止されていた。
まぁ、ありがたいがな…

そうして、一時国に戻り、直ぐ様殿下とこの地、この屋敷にやってきたんだ…




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◯毎週金曜日更新予定 ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

追放された調香師の私、ワケあって冷徹な次期魔導士団長のもとで毎日楽しく美味しく働いています。

柳葉うら
恋愛
【第一章完結済です】 「お前はクビだ! 荷物をまとめてさっさと出て行け!」 調香師のフレイヤはモラハラ気味の工房長に妬まれ、クビにされてしまった。他の工房を訪ねてみたけれど、前職をクビにされた彼女を雇ってくれる工房はない。 諦めて故郷に帰ることにしたフレイヤは、行きつけのレストランの店主に最後の挨拶をしに行くと、シルと呼ばれる美形でぶっきらぼうな魔導士の青年シルヴェリオと出会い、成り行きで彼に愚痴を吐露した。 その後、故郷に帰って実家が営む薬草雑貨店で働いていたフレイヤのもとにシルヴェリオが再び現れた。伯爵家の令息の――巷では冷徹と噂されている次期魔導士団長として。シルヴェリオはフレイヤが作る香水には不思議な力が宿るという話をレストランの店主から聞いて、彼女を自分の専属調香師としてスカウトしに来たのだった。 「眠ったまま目を覚まさない友人を助けるために力を貸してほしい。たとえ君の作った香水が奇跡を起こさなくても責任を問わない」 元上司によって調香師を追放されたせいで権力者を信用できないでいるフレイヤのために、シルヴェリオは誓約魔法を交わすのも厭わないと言う。冷徹と噂されている彼の熱意に感銘を受けたものの承諾を躊躇うフレイヤ。シルヴェリオはそんな彼女を誘い込むために、好物と聞いていたお菓子で釣った。そしてフレイヤは見事に釣られた。こうしてシルヴェリオの専属調香師となったフレイヤは、再び王都へと向かう。初めはお互いに仕事仲間としか見ていなかったフレイヤとシルヴェリオは、いつしかお互いに惹かれて意識するようになる。 これは、不器用な二人が力を合わせて周りの人たちが抱える問題を解決して、そんな二人をくっつけるために周囲があれこれと応援するお話です。 じれじれな恋と魔法と香りの世界と美味しい料理をご堪能ください。 ※小説家になろう様にも掲載しております ※本作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、香りや薬草の効能につきましては諸説や個人差があることをご留意ください

麗しの男装騎士様は、婚約破棄でどう変わる?

真弓りの
恋愛
ああ、本当に綺麗だなぁ。 目の前を睦まじい様子で歩く二人を見て、私は眩しいような気持ちで目を眇めた。 私が婚約者兼護衛として子供の頃から傍で守ってきた王子、ロベール様はこのところ一人の少女に夢中になっている。談笑する二人を一歩下がった位置から見守る私に、ロベール様から無情な決定が報告された。 「ああそうだ、レオニー。お前との婚約が正式に破棄される事が決定したぞ」 泣きそう。 なんでそんなに晴れやかな笑顔なんだ。 ************************* 王子の婚約者としての任も護衛の任も突如解かれたレオニー。 傷心で集中力を削がれた彼女は剣術の模擬戦で顔に傷を負う。高身長に婚約破棄、顔に傷。自分の女性としてのマイナススペックに苦笑しつつ騎士として生きていくことを決意する彼女の前に現れたのは……。 ◆1000文字程度の更新です

蒼炎の騎士と小さな許嫁

yu-kie
恋愛
蒼炎の騎士と呼ばれる第二王子は辺境伯の娘と婚約を結ぶ。しかし成長がとまり子供のようで…。 18を迎える見た目15歳の少女は辺境の地で鍛えられ戦闘力に優れ… 辺境伯の娘見た目15歳のミントは蒼炎騎士ハデルに少年だと間違われてしまうのだった。 読んでくださりありがとうございます。お気に入り、♡ありがとうございます。

捨てたのはあなたではなく私のほうです

風見ゆうみ
恋愛
私が幼い頃からお慕いしている方はコロール王国の王太子殿下であるオーランド・テードン様。 彼は何者かに、光属性である浄化魔法を毎日かけなければ死んでしまう呪いをかけられる。 テンディー公爵家の長女であり、使える人間が少ないと言われる光属性の魔法が使える私 、ミーアはそのことにより殿下に見初められて1年後には婚約者になった。 他国の王族を招いて行われた婚約披露パーティーで、オーランド殿下と親友のセフィラが抱き合っている場面を見てしまう。 殿下とセフィラはいつしか恋仲になっており、セフィラが殿下の呪いを解いたため、二人は邪魔な私を殺そうとしてきた。 隣国の王太子であるヒース様に間一髪で助けられた私だったけれど、父と兄に裏切られ国外に追放されてしまう。 契約した動物と意思疎通の出来るヒース様から、動物の世話係として雇われた私のもとにオーランド殿下から「助けてほしい」と手紙が届くが―― ※第一部完結。第二部はのんびり更新。 ※動物がたくさん出ます。 ※史実とは関係なく、設定もゆるゆるのご都合主義です。 ※現実世界のお話ではなく、この話上での世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

この国に私はいらないようなので、隣国の王子のところへ嫁ぎます

コトミ
恋愛
 舞踏会で、リリアは婚約者のカールから婚約破棄を言い渡された。細身で武術に優れた彼女は伯爵家の令嬢ながら、第三騎士団の隊長。この国の最重要戦力でもあったのだが、リリアは誰からも愛されていなかった。両親はリリアではなく、女の子らしい妹であるオリヴィアの事を愛していた。もちろん婚約者であったカールも自分よりも権力を握るリリアより、オリヴィアの方が好きだった。  貴族からの嫉妬、妬み、国民からの支持。そんな暗闇の中でリリアの目の前に一人の王子が手を差し伸べる。

魔法学校の無敵の首席騎士様は、ちょっとコミュ障、大型わんこ系でした

真弓りの
恋愛
魔法学校に入学してからのこの一年、常にダントツ最下位を取り続けてきたユーリンの、春の討伐演習パートナーになったのは、毎回ダントツで首席の成績をおさめている騎士家系の異端児、通称『首席騎士』様。 協力してより高位の獲物を狩るという課題に、首席騎士は近隣でも最も大きなドラゴンを仕留めると言いだして……。 ********************************** 毎回1000字程度。10万字以上ありますのでお楽しみに! 小説家になろう様にも掲載しています。

一般人になりたい成り行き聖女と一枚上手な腹黒王弟殿下の攻防につき

tanuTa
恋愛
 よく通っている図書館にいたはずの相楽小春(20)は、気づくと見知らぬ場所に立っていた。  いわゆるよくある『異世界転移もの』とかいうやつだ。聖女やら勇者やらチート的な力を使って世界を救うみたいな。  ただ1つ、よくある召喚ものとは異例な点がそこにはあった。  何故か召喚された聖女は小春を含め3人もいたのだ。  成り行き上取り残された小春は、その場にはいなかった王弟殿下の元へ連れて行かれることになるのだが……。  聖女召喚にはどうも裏があるらしく、小春は巻き込まれる前にさっさと一般人になるべく画策するが、一筋縄では行かなかった。  そして。 「──俺はね、聖女は要らないんだ」  王弟殿下であるリュカは、誰もが魅了されそうな柔和で甘い笑顔を浮かべて、淡々と告げるのだった。        これはめんどくさがりな訳あり聖女(仮)と策士でハイスペック(腹黒気味)な王弟殿下の利害関係から始まる、とある異世界での話。  1章完結。2章不定期更新。

処理中です...