151 / 215
おしゃべり
しおりを挟む
「あー、今日は甘いもので始まって甘いもので終わってくー」
ガラス製の器にムースが敷かれ、その上にアイスクリームと凍ったフルーツ、生チョコが乗っていて、更にチョコレートソースがかけられた、甘さの多重奏に頬を緩めているみこと。
「あ! そうだよ! みこと苺大福食べてんじゃん! おねーちゃんも! ねー、わたしの分は?」と絡むひいをみことは一瞥し、
「ひいケーキにそのアイスのやつと、カヌレまで食べてるじゃん。甘数で言ったら互角じゃん」
甘数? 今日食べた甘いものの数のことかな?
「みこと、知らないの? 便利な言葉があるんだよ。『それはそれ、これはこれ』」
便利って言っちゃってる!
何故かひいは自信ありげな笑顔を見せている。
ほづみは複雑そうな顔をして、「またひいが暴君みたいなこと言ってる」と呟いていた。
そこに、「お待たせしましたー。ホットドッグのお客様?」と、スタッフさんが。
「あ、はーい」と無邪気に答えるひい。
「え、まじで? スイーツ食べようってここ来てんのになんでそっち行ってんの」
さすがに引いている様子のみこと。
「これ、ラクレット掛かってるんだよ」
ひいはまるで悪びれる様子はない。
「だから?」とでも言いたげなみことに、ひいは「スイスといえばチーズじゃん」と得意気だ。
「単純に食べ過ぎだし、どちらにしてもひいの分の苺大福はないから」
「えー」
この流れでまだ不満そうな感じを出せるひいにブレない強さすら感じた。
「ねえ、ねえって、柊、見てっ、みことの顔......!」
がんちゃんがひいの腕をつつく。
みことは明らかに呆れた顔をしていた。
「え? みことの顔? まあまあかわいい?」
「まあまあ⁉︎」
余計な副詞に噛み付くみこと。
「ぶはっ」
見映えの良いふたりの意外と幼いやりとりを見ながら優雅にペパーミントティーを口に含んでいたら、思いがけないリズミカルなやり取りがツボに入り吹き出してしまった。
「わ、いのり大丈夫?」
ほづみが背をさすってくれる。
「うん、ありがとう」言いながら紙ナプキンで口元を拭う。
「......太っても知らないよ?」
私が吹いて文字通り水を差された形のみことは、少し冷めたようで、話題を収める方向に持っていく。
「大丈夫! 運動してるから!」
「摂取カロリーと消費カロリーの足し算引き算して、ちゃんとマイナスになってるの?」
学校でできた初めての友達であり、サンバに出会わせてくれた恩人でもあるひいではあるが、さすがのがんちゃんもフォローしきれないのか、ひいへと疑念をぶつけている。
「もー、がんちゃんはすぐ難しいこと言うー」
「え? 難しい? かなぁ......?」
「ひいは運動さえしてればなんでも許されると思ってるよねー」
もはや飽きてきているのか、みことは溶けかけたアイスクリームに注意を戻している。
「大丈夫よね? ひいの体型が少しでも緩んだら私が締め上げるから」
「え、やだ......」
笑顔で言ったほづみに、ひいははじめて不安そうな顔を見せた。
「ひいちゃんは覚悟決めて食べてるんだもんね? おねーちゃんのフレンチトーストも食べる?」
「うんん、大丈夫、わたし、もう、おなか、いっぱい」
尚凄みを増す笑顔のほづみに、片言のように答えるひい。
がんちゃんが笑っていた。私も笑った。
ガラス製の器にムースが敷かれ、その上にアイスクリームと凍ったフルーツ、生チョコが乗っていて、更にチョコレートソースがかけられた、甘さの多重奏に頬を緩めているみこと。
「あ! そうだよ! みこと苺大福食べてんじゃん! おねーちゃんも! ねー、わたしの分は?」と絡むひいをみことは一瞥し、
「ひいケーキにそのアイスのやつと、カヌレまで食べてるじゃん。甘数で言ったら互角じゃん」
甘数? 今日食べた甘いものの数のことかな?
「みこと、知らないの? 便利な言葉があるんだよ。『それはそれ、これはこれ』」
便利って言っちゃってる!
何故かひいは自信ありげな笑顔を見せている。
ほづみは複雑そうな顔をして、「またひいが暴君みたいなこと言ってる」と呟いていた。
そこに、「お待たせしましたー。ホットドッグのお客様?」と、スタッフさんが。
「あ、はーい」と無邪気に答えるひい。
「え、まじで? スイーツ食べようってここ来てんのになんでそっち行ってんの」
さすがに引いている様子のみこと。
「これ、ラクレット掛かってるんだよ」
ひいはまるで悪びれる様子はない。
「だから?」とでも言いたげなみことに、ひいは「スイスといえばチーズじゃん」と得意気だ。
「単純に食べ過ぎだし、どちらにしてもひいの分の苺大福はないから」
「えー」
この流れでまだ不満そうな感じを出せるひいにブレない強さすら感じた。
「ねえ、ねえって、柊、見てっ、みことの顔......!」
がんちゃんがひいの腕をつつく。
みことは明らかに呆れた顔をしていた。
「え? みことの顔? まあまあかわいい?」
「まあまあ⁉︎」
余計な副詞に噛み付くみこと。
「ぶはっ」
見映えの良いふたりの意外と幼いやりとりを見ながら優雅にペパーミントティーを口に含んでいたら、思いがけないリズミカルなやり取りがツボに入り吹き出してしまった。
「わ、いのり大丈夫?」
ほづみが背をさすってくれる。
「うん、ありがとう」言いながら紙ナプキンで口元を拭う。
「......太っても知らないよ?」
私が吹いて文字通り水を差された形のみことは、少し冷めたようで、話題を収める方向に持っていく。
「大丈夫! 運動してるから!」
「摂取カロリーと消費カロリーの足し算引き算して、ちゃんとマイナスになってるの?」
学校でできた初めての友達であり、サンバに出会わせてくれた恩人でもあるひいではあるが、さすがのがんちゃんもフォローしきれないのか、ひいへと疑念をぶつけている。
「もー、がんちゃんはすぐ難しいこと言うー」
「え? 難しい? かなぁ......?」
「ひいは運動さえしてればなんでも許されると思ってるよねー」
もはや飽きてきているのか、みことは溶けかけたアイスクリームに注意を戻している。
「大丈夫よね? ひいの体型が少しでも緩んだら私が締め上げるから」
「え、やだ......」
笑顔で言ったほづみに、ひいははじめて不安そうな顔を見せた。
「ひいちゃんは覚悟決めて食べてるんだもんね? おねーちゃんのフレンチトーストも食べる?」
「うんん、大丈夫、わたし、もう、おなか、いっぱい」
尚凄みを増す笑顔のほづみに、片言のように答えるひい。
がんちゃんが笑っていた。私も笑った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
スルドの声(交響) primeira desejo
桜のはなびら
現代文学
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。
高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。
ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。
出会ったのは、スルド。
サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。
姉のこと。
両親のこと。
自分の名前。
生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。
※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【新作】読切超短編集 1分で読める!!!
Grisly
現代文学
⭐︎登録お願いします。
1分で読める!読切超短編小説
新作短編小説は全てこちらに投稿。
⭐︎登録忘れずに!コメントお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる