99 / 215
決意のがんちゃん(LINK:primeira desejo86-87)
しおりを挟む
今日のエンサイオはまあまあの山場となる。がんちゃんにとって。
越えるべき山はふたつ。
両方とも、傍から見れば、難易度が高いと言うほどではない。
しかし当人にとってはそれなりに大事だ。
私は私で、直近で自己の管理不足を露呈させる恥ずかしい失態を晒してしまったが、がんちゃんにもまた、リカバーすべき過去があった。
今日は私とがんこはそれぞれ出先から向かうので、入り時間は揃っていない。
私が練習場に着いた時には、まだがんちゃんは来ていなかった。
学校の終わる時間と移動時間を考えれば、もう来ていてもおかしくないのだが。
チカと並び、スルドの練習を開始する。
やや上の空になりそうな気持ちを律し、集中するが......。
まさか敵前逃亡はしないだろうけど......と僅かに湧き上がった疑念を頭から振り払っていたら、がんちゃんが練習場に入ってきた。
その面持ちは、心無しか悲壮な決意のようなものを感じさせた。
チカに合わせてスルドを打ちながらも、がんちゃんの様子を目で追ってしまう。
キョウさんとなにやら話をしている。がんこのその表情は尚硬い。
なあなあにすることだってできた。
いつも通り挨拶をして、練習を開始すれば、きっとキョウさんは何事も無かったかのように練習を進めただろう。
でも、がんちゃんはそうはしなかった。
がんちゃんが願ってやまなかったイベント出演の、断念が決まった日。
おそらくがんちゃんはフォローしようとしてくれたキョウさんに、八つ当たりのような言葉をぶつけた。詳しくは訊かなかったが、その日の帰り道、車の中の暗さや対向車のライトによる陰影の影響も大いにあったと思うが、がんちゃんはこの世の終わりみたいな顔をしていた。レアながんちゃんを見られた歓び以上に、その悲痛な様子に私も心を傷めたものだ。
まあこういう場合、深刻なのは意外と本人だけだったりする。
なんと言ってもキョウさんは大人だし、がんちゃんをそんな風にさせてしまった自身を悔いることはあっても、がんちゃんに対してわだかまる想いを抱えてはいなかっただろう。
だから、がんちゃんが何事も無く接してくれれば、それだけでもほっとしたかもしれない。
そんなキョウさんだから、がんちゃんの決死の覚悟を受け止める度量も持っているようだ。なんていうと、告白を受けるみたいになってしまうが。
ひとことふたこと伝え終えたがんちゃんは、キョウさんを伴って練習場を出て行った。
本人以外にとっては深刻ではない事でも、本人にとっては悲壮な決意を伴う大事だったはずだ。
勇気を振り絞ったがんちゃん。
行動を起こした時点で良い結果にしかならないのは目に見えているし、結論なんてひとつしかないが、それも当事者ではないからいえること。渦中にあるがんちゃんは今まさに心を奮い立たせてその場に立っているのだ。
がんばって、がんちゃん。
スルドの音は、練習場の扉を閉めていても外まで届くはず。
ふたりはおそらく練習場のすぐ近くにあるソファベンチで話しているだろう。
がんちゃんを応援する思いを込めて打ったスルドの音が、あの子に届くと良いのだけど。
越えるべき山はふたつ。
両方とも、傍から見れば、難易度が高いと言うほどではない。
しかし当人にとってはそれなりに大事だ。
私は私で、直近で自己の管理不足を露呈させる恥ずかしい失態を晒してしまったが、がんちゃんにもまた、リカバーすべき過去があった。
今日は私とがんこはそれぞれ出先から向かうので、入り時間は揃っていない。
私が練習場に着いた時には、まだがんちゃんは来ていなかった。
学校の終わる時間と移動時間を考えれば、もう来ていてもおかしくないのだが。
チカと並び、スルドの練習を開始する。
やや上の空になりそうな気持ちを律し、集中するが......。
まさか敵前逃亡はしないだろうけど......と僅かに湧き上がった疑念を頭から振り払っていたら、がんちゃんが練習場に入ってきた。
その面持ちは、心無しか悲壮な決意のようなものを感じさせた。
チカに合わせてスルドを打ちながらも、がんちゃんの様子を目で追ってしまう。
キョウさんとなにやら話をしている。がんこのその表情は尚硬い。
なあなあにすることだってできた。
いつも通り挨拶をして、練習を開始すれば、きっとキョウさんは何事も無かったかのように練習を進めただろう。
でも、がんちゃんはそうはしなかった。
がんちゃんが願ってやまなかったイベント出演の、断念が決まった日。
おそらくがんちゃんはフォローしようとしてくれたキョウさんに、八つ当たりのような言葉をぶつけた。詳しくは訊かなかったが、その日の帰り道、車の中の暗さや対向車のライトによる陰影の影響も大いにあったと思うが、がんちゃんはこの世の終わりみたいな顔をしていた。レアながんちゃんを見られた歓び以上に、その悲痛な様子に私も心を傷めたものだ。
まあこういう場合、深刻なのは意外と本人だけだったりする。
なんと言ってもキョウさんは大人だし、がんちゃんをそんな風にさせてしまった自身を悔いることはあっても、がんちゃんに対してわだかまる想いを抱えてはいなかっただろう。
だから、がんちゃんが何事も無く接してくれれば、それだけでもほっとしたかもしれない。
そんなキョウさんだから、がんちゃんの決死の覚悟を受け止める度量も持っているようだ。なんていうと、告白を受けるみたいになってしまうが。
ひとことふたこと伝え終えたがんちゃんは、キョウさんを伴って練習場を出て行った。
本人以外にとっては深刻ではない事でも、本人にとっては悲壮な決意を伴う大事だったはずだ。
勇気を振り絞ったがんちゃん。
行動を起こした時点で良い結果にしかならないのは目に見えているし、結論なんてひとつしかないが、それも当事者ではないからいえること。渦中にあるがんちゃんは今まさに心を奮い立たせてその場に立っているのだ。
がんばって、がんちゃん。
スルドの音は、練習場の扉を閉めていても外まで届くはず。
ふたりはおそらく練習場のすぐ近くにあるソファベンチで話しているだろう。
がんちゃんを応援する思いを込めて打ったスルドの音が、あの子に届くと良いのだけど。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる