上 下
85 / 215

案件(LINK:primeira desejo78)

しおりを挟む
 案件を自らとってくる。もちろん簡単なことではない。

 お祭りなどは自治体や商店街が主催者になることが多い。予算が潤沢だなんてケースは稀だろう。
 加えて、前例を重んじ、前例にないことはしない傾向も顕著だ。
 既に毎回声を掛けている団体があるなら、それを差し置いて新たな団体を受け入れるのは難しい。

 サンバの業界ならではの課題もある。

 サンバという言葉はメジャーだが、サンバに触れられる機会は他のメジャーなダンスや音楽のジャンルと比較すると、極端に少ないのではないだろうか。

 どの街にもありそうなロックダンスやヒップホップ。バレエやピアノの教室も探せばすぐに見つけられるだろう。
 サークルで言えばフラダンスやベリーダンス、フラメンコなんかも珍しいとまでは言えない。
 同等、あるいはそれ以上の知名度があるはずのサンバに関しては、ほとんど見当たらない。
 同じルーツを持つカポエイラの方がもしかしたら多いのではないかと思うくらいだ。

 そんなサンバを、お祭りに呼ばれがちなよさこいやマーチングバンドなどと同列に扱ってもらうためには、まず担当が認識していなくてはならず、ほとんどの場合に於いてスタートラインにすら立てていないのがひとつ。

 そんな貴重なイベントである。
 サンバチームはたいてい地域密着型だ。その地域にあるサンバチームのイベントの機会を奪うわけにはいかない。

 サンバを呼ぶための相場を崩しても行けない。

 それだけ、狭い業界であるということを示している。
 それはそれで改善したいと思う要素だが、それは別途長期の計画が必要だろう。


 日本に於けるサンバという文化の特異性と改善点については一旦置いておき、まずは目先の案件獲得についてだ。

 とにかく、むやみやたらな営業はできないのだ。
 その辺りをクリアした上で、ようやく営業がかけられる。


 あらかじめハルには相談をしてあった。
 決まっている対象。提案の構想。伴う課題。


 承認だけではなく、手順や役割分担なども含め、『ソルエス』としても動いてくれるところまで話はできていた。

 ハルは本当に嬉しそうに、プレーヤーとしてだけでなく、『ソルエス』に機会をもたらす行動をとってくれるメンバーへの最大の賛辞と後援を惜しむつもりはないと言ってくれた。

 これはもはや、チーム案件である。

 無論、チームからの後押しがあるとしても、案件獲得の難易度が下がるわけではない。
 とは言え、ごりごり営業をかけているようなサークルは少ないだろうから、本気で取り組めば一定の成果は見込めると思っている。
 順序立てて着実に進めれば確実に至れる着地地点である。

 ただ、今回は早急に成果が欲しい。

 ターゲットはあらかじめ定めてあり、獲得への道筋も整えてあった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら
現代文学
 文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。  周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。  しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。  そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。  二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。  いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。 ※表紙はaiで作成しています

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンバ大辞典

桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。 サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。 誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。 本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

スルドの声(交響) primeira desejo

桜のはなびら
現代文学
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。 高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。 ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。 出会ったのは、スルド。 サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。 姉のこと。 両親のこと。 自分の名前。 生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。 ※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...