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ある日の会話(後日譚)
込められた意味
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さて、情報は揃ってきた。
いよいよ本丸に切り込もう。
「それで、なんで読み方を『めがみ』にしたの?」
「響きが可愛いでしょ? それに女神ってみんなから信仰されるし、豊穣とか司るから、みんなに愛され、豊かな人生送れそうじゃない」
んー、まあ、ねぇ。
恐怖とか欺瞞とか破滅とかを司る女神もいるけど? まあそういうことではないのか。あくまでもその言葉単体でイメージされるもの、としてならあながち外れてもいない。
普通の名前だって、漢字の意味をひとつひとつ探っていけば、良い意味と悪い意味両方を持つ字だって多い。
でも、どんな読みにしても良かったなら、選択肢は無限だ。
そんな中でなんで『めがみ』だったのだろう?
一番好きな言葉だった、とか?
「一番好きな言葉は『アクイレギアブルガリス』よ」
なにそれ⁉︎
お母さんにによると、花の名前らしい......花の名前って、好きな言葉の括りに入れるもの?
いやいや、え? 下手したらこの名前になってたかもしれないの?
あ、危なかったぁ......。
と思ったが、どうやら名前の候補には上がっていなかったらしい。
「名前として使われている名前じゃないと」
お母さんなりに、読めないことによるリスクについて、少しは考えに及んでいたようだ。世の中に存在している読み方なら、読めないのは読めない側の問題で、堂々とその名を名乗れると言った考えに基づいている。
無茶苦茶だ。けど、まあ、他にもその名前のひとがいるという事実は、名前の正当性(なんてものがあるのかはわからないが)を大上段で主張できるほどではないとしても、控えめに言い訳に使うことくらいはできるのかもしれない。
それよりもわたしを驚かせたのは、この名前が母のオリジナルではなく、先人がいたというところだ。
唯一無二の名前を誇って生きているひともいるのかもしれないが、わたしは同じ文字で同じ音を発する名前の人物がどこかに存在している(或いは存在していた、なのかもしれないが)という事実に、なにか不思議な心強さを感じていた。
そのどこかの誰かが、唯一無二の名前としてその名を大切にしていたとしたら、後追いさせてもらってしまって申し訳ないが。
「それに、美しいでしょ? 『ねがい』と同じ『音』なの。『めがみ』は」
え? 韻ってこと? ラッパーの価値観じゃん。
「......ちなみに『ゲーテ』は?」
もしわたしが男の子だった場合、付けられていた願太という名の読み方だ。
「ゲーテはそのまま、ゲーテよ。多才であること。そこに知性と品性と精神性を備えた人間性をを身につけたひとになるようにと」
そのままって?
ドイツの詩人で劇作家で小説家のゲーテ?
確か科学者であって政治家でもあって法律家でもあるのだったっけ? なるほど、多才だ。
お母さんというものに対する解像度が高くなると、言っていることが理解できるようになってくる。
男の子はお母さんが好みそうな、高い能力と成熟した人格を持った人物。
お母さんが好みそうな人物に。
女の子は周りに愛され豊かで不自由のない人生を送れる人物。
お母さん自身がそうで在った、またはそう在りたかった人物に。
という意図が込められていたのだろう。
男の子と女の子に関する考え方も、お母さんらしい価値観だ。
ただ、枝葉に過ぎなかったゲーテのくだりで、お母さんから聴いたゲーテの言葉が、なぜか抵抗なく身体に入ってきたような気がした。
幼い頃、寝食を共にし、いついかなる時もずっと抱きしめて歩いていた、ボロボロになったぬいぐるみ。気付かぬうちに手放してしまっていた、我が半身だった存在が、ふと手元に戻ってきたような安心感があった。
「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと、生きる道が見えてくる」
いよいよ本丸に切り込もう。
「それで、なんで読み方を『めがみ』にしたの?」
「響きが可愛いでしょ? それに女神ってみんなから信仰されるし、豊穣とか司るから、みんなに愛され、豊かな人生送れそうじゃない」
んー、まあ、ねぇ。
恐怖とか欺瞞とか破滅とかを司る女神もいるけど? まあそういうことではないのか。あくまでもその言葉単体でイメージされるもの、としてならあながち外れてもいない。
普通の名前だって、漢字の意味をひとつひとつ探っていけば、良い意味と悪い意味両方を持つ字だって多い。
でも、どんな読みにしても良かったなら、選択肢は無限だ。
そんな中でなんで『めがみ』だったのだろう?
一番好きな言葉だった、とか?
「一番好きな言葉は『アクイレギアブルガリス』よ」
なにそれ⁉︎
お母さんにによると、花の名前らしい......花の名前って、好きな言葉の括りに入れるもの?
いやいや、え? 下手したらこの名前になってたかもしれないの?
あ、危なかったぁ......。
と思ったが、どうやら名前の候補には上がっていなかったらしい。
「名前として使われている名前じゃないと」
お母さんなりに、読めないことによるリスクについて、少しは考えに及んでいたようだ。世の中に存在している読み方なら、読めないのは読めない側の問題で、堂々とその名を名乗れると言った考えに基づいている。
無茶苦茶だ。けど、まあ、他にもその名前のひとがいるという事実は、名前の正当性(なんてものがあるのかはわからないが)を大上段で主張できるほどではないとしても、控えめに言い訳に使うことくらいはできるのかもしれない。
それよりもわたしを驚かせたのは、この名前が母のオリジナルではなく、先人がいたというところだ。
唯一無二の名前を誇って生きているひともいるのかもしれないが、わたしは同じ文字で同じ音を発する名前の人物がどこかに存在している(或いは存在していた、なのかもしれないが)という事実に、なにか不思議な心強さを感じていた。
そのどこかの誰かが、唯一無二の名前としてその名を大切にしていたとしたら、後追いさせてもらってしまって申し訳ないが。
「それに、美しいでしょ? 『ねがい』と同じ『音』なの。『めがみ』は」
え? 韻ってこと? ラッパーの価値観じゃん。
「......ちなみに『ゲーテ』は?」
もしわたしが男の子だった場合、付けられていた願太という名の読み方だ。
「ゲーテはそのまま、ゲーテよ。多才であること。そこに知性と品性と精神性を備えた人間性をを身につけたひとになるようにと」
そのままって?
ドイツの詩人で劇作家で小説家のゲーテ?
確か科学者であって政治家でもあって法律家でもあるのだったっけ? なるほど、多才だ。
お母さんというものに対する解像度が高くなると、言っていることが理解できるようになってくる。
男の子はお母さんが好みそうな、高い能力と成熟した人格を持った人物。
お母さんが好みそうな人物に。
女の子は周りに愛され豊かで不自由のない人生を送れる人物。
お母さん自身がそうで在った、またはそう在りたかった人物に。
という意図が込められていたのだろう。
男の子と女の子に関する考え方も、お母さんらしい価値観だ。
ただ、枝葉に過ぎなかったゲーテのくだりで、お母さんから聴いたゲーテの言葉が、なぜか抵抗なく身体に入ってきたような気がした。
幼い頃、寝食を共にし、いついかなる時もずっと抱きしめて歩いていた、ボロボロになったぬいぐるみ。気付かぬうちに手放してしまっていた、我が半身だった存在が、ふと手元に戻ってきたような安心感があった。
「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと、生きる道が見えてくる」
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