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本章
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柊にやられっぱなしでいるわけにはいかないから。
わたしはその想いを。
かつての憧れを。
与えてくれたものへの感謝を。
なるべく大袈裟にならないように気をつけながら伝えた。
「ほら、そういうとこー」
柊は言う。想いを照れや喜怒哀楽の影響で曲げたりぼやかしたりせず、正しく、且つ、伝わってほしい意図で伝わるように伝えられるところ。
がんちゃんだって素直だと。その上頭が良くて、感情もコントロールできていて、相手に配慮もできているから、素直が捻くれずにちゃんと伝わるのだと。
だから、素直レベルはわたしの方が高いとか言い出したあたりで、この話は褒め合戦のお礼言い合いの埒のあかないことになるから、お互い「ありがとう」で終わろうと言うことになった。
このまま続けてたら、きっと明日学校であっても、お互い赤面してしまって会話にならない。
もう、使って良いよね。世間では使われすぎて陳腐化してしまったその言葉。それを、真の意味で使って良いと思えたのだから。
「親友」と充分に語って暖まった心は、深い眠りという安らぎをくれた。
荷造りは進まなかったけれど。
親友との他愛のない話でも一時間など一瞬で消えたのだ。
その日を迎えるための日々だって、あっという間だった。
「がんちゃん、いける?」
「うん」
荷物はできている。
学校から急いで戻ったわたしは着替えを終え、通学用のカバンに入れていたもののうち、財布やスマートフォンなど最低限の手荷物を身につけたベージュのサコッシュに移した。既に準備しておいた荷物の確認はしていないが、昨晩リストを見ながらの見直し確認はしたから、忘れ物などはないはずだ。
十九時過ぎに発つ飛行機に乗るためには、あまりゆっくりはしてられない。
「もう出れるよ。え、帽子かぶってくの?」
祷はブラックのワンピースにオリーブ色の軽そうなステンカラーコートを羽織っている。オーバーサイズで大きなフード付きのものだ。
腰には細いブラウンのベルトがアクセントになっていた。
ワンピースと同じカラーのリュックには淡い緑色のカエルのピクルスがくっついている。「無事帰る」のお守りがわりらしい。
シンプルで動きやすく、暑さや肌寒さなど気温の変化にも対応できそうで、長時間乗り物に乗っていて苦しくなることもなさそうなファッション。それでいてちゃんとおしゃれだ。
ブラックのベレー帽はそんな祷をよりおしゃれに演出していた。
おしゃれさ、いる?
わたしなんにも考えてない。
わたしの服装はかぎ針編みのブラウンのロングスカートにオフホワイトのロンT、茶系二色に白黒灰の配色のアーガイル柄ニットカーディガン。別にださいとは思わないけど、普通だ。
なんて思っていたら、祷が「今のがんちゃんのファッションにも合うね」と、ベレー帽をわたしに被せてくれた。「キャップもかわいいかも」と、探しに行こうとしていたので、「ありがとう! これ、すごく気に入ったからこれで行きたい」と、祷を止めた。
あまりゆっくりはしてられない。祷、意外と無邪気なところあるからな。
ちなみに祷が被せてくれた帽子が気に入ったのは本当だ。
「あと、これも」言いながら祷は、芥子色のカエルのピクルスについているカラビナをわたしのサコッシュに接続してくれた。
わたしがピクルス好きなの、言ってあったっけ?
つけてもらったピクルスはかわいくて単純に嬉しかったが、それ以上の暖かさが心の中を遠赤外線が暖めるように拡がっていった。
祷に背負われたリュックで。
わたしが掛けているサコッシュで。
色違いのお揃いのカエルが、笑顔でそっと揺れていた。
帽子をわたしに譲った祷は、「私はこれで行こー」と、アイボリーのツイストターバンをつけている。
姉妹のやりとりに気づいたお母さんが「気をつけて行くのよ」と見送りに来てくれた。お父さんはまだ仕事だ。
「いってきます」
わたしたちはふたりで家を出た。
イベントを観に来て、とは言えなかった。
わたしはその想いを。
かつての憧れを。
与えてくれたものへの感謝を。
なるべく大袈裟にならないように気をつけながら伝えた。
「ほら、そういうとこー」
柊は言う。想いを照れや喜怒哀楽の影響で曲げたりぼやかしたりせず、正しく、且つ、伝わってほしい意図で伝わるように伝えられるところ。
がんちゃんだって素直だと。その上頭が良くて、感情もコントロールできていて、相手に配慮もできているから、素直が捻くれずにちゃんと伝わるのだと。
だから、素直レベルはわたしの方が高いとか言い出したあたりで、この話は褒め合戦のお礼言い合いの埒のあかないことになるから、お互い「ありがとう」で終わろうと言うことになった。
このまま続けてたら、きっと明日学校であっても、お互い赤面してしまって会話にならない。
もう、使って良いよね。世間では使われすぎて陳腐化してしまったその言葉。それを、真の意味で使って良いと思えたのだから。
「親友」と充分に語って暖まった心は、深い眠りという安らぎをくれた。
荷造りは進まなかったけれど。
親友との他愛のない話でも一時間など一瞬で消えたのだ。
その日を迎えるための日々だって、あっという間だった。
「がんちゃん、いける?」
「うん」
荷物はできている。
学校から急いで戻ったわたしは着替えを終え、通学用のカバンに入れていたもののうち、財布やスマートフォンなど最低限の手荷物を身につけたベージュのサコッシュに移した。既に準備しておいた荷物の確認はしていないが、昨晩リストを見ながらの見直し確認はしたから、忘れ物などはないはずだ。
十九時過ぎに発つ飛行機に乗るためには、あまりゆっくりはしてられない。
「もう出れるよ。え、帽子かぶってくの?」
祷はブラックのワンピースにオリーブ色の軽そうなステンカラーコートを羽織っている。オーバーサイズで大きなフード付きのものだ。
腰には細いブラウンのベルトがアクセントになっていた。
ワンピースと同じカラーのリュックには淡い緑色のカエルのピクルスがくっついている。「無事帰る」のお守りがわりらしい。
シンプルで動きやすく、暑さや肌寒さなど気温の変化にも対応できそうで、長時間乗り物に乗っていて苦しくなることもなさそうなファッション。それでいてちゃんとおしゃれだ。
ブラックのベレー帽はそんな祷をよりおしゃれに演出していた。
おしゃれさ、いる?
わたしなんにも考えてない。
わたしの服装はかぎ針編みのブラウンのロングスカートにオフホワイトのロンT、茶系二色に白黒灰の配色のアーガイル柄ニットカーディガン。別にださいとは思わないけど、普通だ。
なんて思っていたら、祷が「今のがんちゃんのファッションにも合うね」と、ベレー帽をわたしに被せてくれた。「キャップもかわいいかも」と、探しに行こうとしていたので、「ありがとう! これ、すごく気に入ったからこれで行きたい」と、祷を止めた。
あまりゆっくりはしてられない。祷、意外と無邪気なところあるからな。
ちなみに祷が被せてくれた帽子が気に入ったのは本当だ。
「あと、これも」言いながら祷は、芥子色のカエルのピクルスについているカラビナをわたしのサコッシュに接続してくれた。
わたしがピクルス好きなの、言ってあったっけ?
つけてもらったピクルスはかわいくて単純に嬉しかったが、それ以上の暖かさが心の中を遠赤外線が暖めるように拡がっていった。
祷に背負われたリュックで。
わたしが掛けているサコッシュで。
色違いのお揃いのカエルが、笑顔でそっと揺れていた。
帽子をわたしに譲った祷は、「私はこれで行こー」と、アイボリーのツイストターバンをつけている。
姉妹のやりとりに気づいたお母さんが「気をつけて行くのよ」と見送りに来てくれた。お父さんはまだ仕事だ。
「いってきます」
わたしたちはふたりで家を出た。
イベントを観に来て、とは言えなかった。
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