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本章

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 どこか別世界の出来事のようなパレードはあっという間に過ぎて行った。
 過ぎて行った柊を追いかけながら写真を撮ったりしようかなと思っていたが、その後も大きいスカートのダンサーが団体でくるくる回っていたり、大きな旗を持った王子様とお姫様のようなダンサーがペアで踊っていたり、三人の男性ダンサーがキレのあるダンスで、女性ダンサーとはまた異なる印象のパフォーマンスを披露したりしていて、目が離せなかった。

 弦楽器やボーカルのひととスピーカーを載せた山車が目の前を通る頃、周囲の空気は全て『音』そのものになった。
 夢見心地だったわたしは、音により呼び戻され、一面が音そのものとなった世界の中で、音に塗り潰されていた。
 例えばすぐ隣のひとに話しかけたとしても、その声は全て音に塗り潰されてしまうだろう。
 
 甲高い音、低い音、早い音、たくさんの音の中で、低く大きくゆっくりだが間隔は一定で、すべての音を支えるような音が、わたしの心音さえも飲み込むように響いている。いや、同調か? 心音のようなリズムで大地と大気を揺るがしている音と、一体になったような感覚だ。
 その音は、今目の前を通り過ぎて行った大太鼓のひとたちが鳴らしていた音だった。
 大太鼓のひとたちの人数は五人。
 これがサンバ隊の構成として多いのか少ないのかはわからないが、たった五人で分厚い音の層をつくり、空間を包んでいるようだった。
「すごい」と、安直な感想しか出ない。本当にすごいものを見た時は案外そのようなものなのだろう。
 そしてそれ以上にすごかったのは、同じタイミングで鳴らしているときの音が複数人の手によるものでも、ひとつの音として聴こえたことだ。感動すら覚えた。
 同調した心音が打楽器の音に呼応したのか、妙にドキドキしている。心臓を直接掴まれたようだった。
 
 打楽器隊が遠ざかる。
 音も遠ざかるがずっと響き続けている。
 大地を揺るがし、大気を震わせている音は、天にも届きそうだ。

 パレードが去って、パレードを追いかける者、撤収してお祭りに戻る者、すごかったねなどと感想を言い合う者様々だ。
 それは喧噪であるはずなのに、遠くに聞こえる打楽器の音を際立たせる静寂のようだった。
 そういえば、小学校の頃習った俳句にセミの鳴き声を静けさと表現しているものがあったっけ。
 この騒めきは、遠ざかるパレード、終わりゆく祭りの余韻だ。
 もうとっくに見えないパレードなのに、名残はいつまでもわたしの身体のなかに残っていた。
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