上 下
12 / 39
高天暁

かつての職場の後輩

しおりを挟む

 時計を見ると、そろそろ向かう時間になっていた。暇と言っても、毎日予定がないわけではないのだ。
 とは言っても、これも「仕事」なのだが。

 
「あ、高天主事! こっちです」

「あぁ、お待たせ」

 指定されたカフェに行くと、佐田都市開発で営業事務として俺の仕事を助けてくれていた八木さんが既に店内にいて手を振っている。

「この席狭いですよね。さっきまで混んでて......もう余裕ありそうですので移動させてもらいますね」

「俺が頼むよ。ちょっと待ってて」

 ホールにいたスタッフに声をかけ、席移動をさせてもらう。
 荷物を持って付いてきた八木さんの椅子を引いてやる。これはマランドロっぽいだろう。

「あ、ありがとうございます。高天主事ってそんな気遣いする人でしたっけ?」

「俺もう主事じゃないよ。八木さんは相変わらずはっきりものを言うよな。それじゃ、俺も何か買ってくるよ。八木さんはおかわりかなにかいる?」

「あ、コーヒーはまだあるので大丈夫です。奢ってくれるんですか? でしたらコーヒーゼリーご馳走になります!」

「了解」コーヒー飲みながらコーヒーゼリーいくのか? などと余計なことは言わない。
 俺は荷物を置いてカウンターに行った。


「それで、わからないところってゼネコンからの見積もりの項目? 大上課長には訊いた?」

 ドリンクとコーヒーゼリーを乗せたトレーをテーブルに置き、コーヒーゼリーを八木さんの方に渡しながら早速切り出した。


 先日八木さんからわからないことがあって困っていると連絡を受けた。
 電話じゃ分かりにくいしメールとデータでやり取りするのも面倒だ。どうせ時間ならあるからと、会社に行くと言った。俺は既に外部の人間ではあるが、佐田の事務所の入った自社ビルの一階には簡単な打ち合わせができるフリースペースがあり、社員を伴っていれば誰でも入ることができた。
 しかし八木さんからは、流石にそれは申し訳ないと固辞されてしまい、会社の近くのカフェで待ち合わせることになったのだ。
 距離的には会社に行くのとほぼ変わらないのだが、俺の心情的に会社には行きにくいと思っているのではと配慮してくれたのだろうか。別に行きにくくは無いのだが、気持ちはありがたかった。

「久しぶりってほどでもないですけど、少しは雑談とか近況報告とか。やっぱり高天主事は高天主事ですねぇ」

「あー、だって八木さん休憩時間使ってるんだろ? あまり時間ないんじゃ?」

「猿渡主任には高天主事に助けてもらうって言ってあります。
仕事ですから時間はいくら使っても大丈夫です。大上課長は一週間出張でいませんから、ごちゃごちゃ言われませんよ。
まあそんな状況なので課長に訊けなくて困っているんですけどね」

 佐田は地域密着ではあるが年に何件かは地方の案件を動かしている。状況次第で一週間程度の出張を課される場面は職位問わず発生していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スルドの声(交響) primeira desejo

桜のはなびら
現代文学
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。 高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。 ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。 出会ったのは、スルド。 サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。 姉のこと。 両親のこと。 自分の名前。 生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。 ※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
 日々を楽しく生きる。  望にとって、それはなによりも大切なこと。  大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。  それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。  向かうべき場所。  到着したい場所。  そこに向かって懸命に突き進んでいる者。  得るべきもの。  手に入れたいもの。  それに向かって必死に手を伸ばしている者。  全部自分の都合じゃん。  全部自分の欲得じゃん。  などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。  そういう対象がある者が羨ましかった。  望みを持たない望が、望みを得ていく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...