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テルセイラ

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 いのりちゃんと。ついでに言えばめがみちゃんとも。なにか一緒にやりたいというものが、わたしがスルドを始めたきっかけで、動機だ。まあ緩い。
 そんなわたしだが、今わたしには、『テルセイラ』をやってみたいという明確な意志がうまれていた。

 それを察知したのか、いのりちゃんとめがみちゃんは少し真剣な顔をして考え込んでいた。正確には、わたしのために考えを巡らせてくれていた。

「うーん、わたしたちでも教えられたらこういう自主練もテルセイラの練習になるんだけど……」

「私にちょっと心当たりあるんだ。今ハルと調整しているんだけど」

 ハルというのは『ソルエス』の代表だ。
 
「元々別のエスコーラにいて、大学受験に集中するため一時休会していたんだけど、大学に入ってまた復活したいって子がいて」
 
 サンバのチームの中で、カーニバルに出場するチームは『エスコーラ』という。
 カーニバルはコンテスト形式で、サンバの様式だの格式だのも審査される。エスコーラは由緒正しい印象があった。

 その人はいのりちゃんの大学の後輩らしい。
 進学を機に引越しをして、前のエスコーラには通いにくくなってしまった。
 一方、なんと今住んでいるのは『ソルエス』の本拠地近くだという。しかも、まだそこに住むことになる前にこちらの方で通えるエスコーラを探していた時から、『ソルエス』は好印象で候補に挙がっていたそうだ。更に偶然にも、『ソルエス』のメンバーであるいのりちゃんが同じ大学の先輩だった。

 そんな縁もあり、彼女は『ソルエス』への入会を希望しているらしい。

 サンバのチームは大抵は趣味の個人サークルで、チームとメンバー間で厳密な契約だのは結ばれていないだろう。
 それでも、エスコーラ同士のつながりもあるため、メンバーがエスコーラから別のエスコーラに移動したい場合は、双方の代表同士で筋を通し合って移動するのが暗黙の慣例となっている。もちろんすべてがそうというわけではないが。
 自由意思は尊重されるべきなので、基本的には問題になることは無いが、一応体裁としてそのような手続きを取ることが多い。

 既にハルは希望者とは面談が済んでいるらしい。
 今後ハルと先方の代表で簡単に話し、その後、入会の手続きに入るという段取りのようだ。

 いのりちゃんの一歳年下の後輩ということは、彼女もまた十代だ。そして、前のエスコーラではスルドでテルセイラをやっていたという。
 中学に入ってサンバを始めたそうで、サンバ暦はおおよそ五年に及ぶ。

 即戦力足る彼女に、テルセイラを教えてもらうのはどうだろうというのが、いのりちゃんの提案だった。
 いのりちゃんは、同じ大学に通うその人と最近仲良くなり、『ソルエス』に転籍する橋渡しをしているそうで、エスコーラの活動外でも会う機会が増えているそうだ。自主練に誘えば乗ってくれるだろうし、妹の友達への手解きをお願いすれば、快諾してくれるだろうと言った。

 
「少しおっとりした感じの優しい子だけど、スルドはテクニカルで速さや音量の緩急のつけ方も上手な実力ある奏者だよ」

 
 年が近くて歴の長い上手な人に教えてもらえるのは楽しみだった。
 
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