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本日二度目の驚き

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(柳沢 望)

 いのりの自宅には簡単なスタジオがあるらしい。すごいな。

 そこでいのりと、彼女の妹でスルドはプリメイラを担当しているがんちゃんに、のんちゃんを加えた三人で自主練をしているそうで、のんちゃんは新人ながら、既に合同練習に参加しても差し支えない状態にあった。
 簡単なパターンでも多少複雑さのあるテルセイラで目立ったミスなく演奏できるのは結構すごいのではないだろうか。

 バテリア・ダンサーに分かれた練習時間が終わり、合同練習のためダンサーの練習場へと移動する。
 のんちゃんにもスルドで参加してもらう。
 ふたりでスルドを持って移動した。のんちゃんのスルドはチームのレンタル品だ。長く続けるなら自己所有のスルドがあった方が良い。彼女の指導係のソータとも相談して、中古も含めていくつか選択肢を用意してあげよう。
 前のチームの伝手も使えば多少心当たりはあるし、新品を買うなら買い物に付き合うのも楽しそうだ。
 マレも誘ったら来てくれるかな? 楽器選びだけだとマレには関係ないけど、ショッピングってカテゴリなら他人の買い物に付き合うことも楽しみのひとつになる。

 
 なんて、後輩の育成から自分の楽しみにシフトしてしまったが、これからのことに想いを馳せながらスローアップのパターンを身に刻む。

 スローアップは、その名の通りゆっくりしたリズムでしばらく演奏し、指揮者のヂレトールが合図を出し、中太鼓のカイシャが切り替えの切欠となる演奏を鳴らしてから、早いリズムの演奏に入る形式の演奏を指す。
 メロディや歌の入らない、バテリアのみの演奏である『バトゥカーダ』に於いて、よく取られる演奏だ。
 ある程度の提携のパターンはあるが、チームごとに工夫した独自のパターンを持っていて、経験者であってもチームにとっては新参者である私は、『ソルエス』の得意パターンを早々に取得する必要があった。
 
 今まで自分が使っていなかったパターンを覚えるのも演奏するのも楽しい。
 テルセイラはテクニカルで自由なスルドだ。興が乗りやすい楽器ともいえるかもしれない。
 今日はソータが不在だが普段イベントではスルドで足りないパートに入っているキョウさんがテルセイラで演奏している。キョウさんのレベルの高い「合いの手」に触発されて、私も前のチームで覚えた複雑なパターンを上手く取り入れて演奏した。テルセイラ志望ののんちゃんも簡易的なパターンながら必死についてきている。
 基礎を鳴らすプリメイラのがんちゃんとチカ、基礎の音に「応え」るいのりとジャックの演奏は安定感があって心強い。一層テルセイラが解放されたような気がした。

 
 ああ、楽しい……!
 
 
 そんな楽しさは、本日二度目の驚きで引っ込んでしまった。

 
「――――」

 
 おそらく何らかの挨拶の声を伴っての入場だがバテリアの音が大きく声は聞こえない。
 すでに着替えは済ませているその男性は、同じ男性ダンサーが練習している場に混ざっていった。

 
 え、まじで……⁉︎
 
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