上 下
66 / 84
2章 竜騎士団編

58.兄弟げんか

しおりを挟む
「ラドゥ?ラドゥがコーネリアスを?……そんな……何かの間違いだっ!」
 ユリウスが叫ぶ。
「兄貴。落ち着け。俺だって信じたくはないさ」
 エドガーがなだめる横でクロードが僕を見守っている。目が会うと小さくうなづいてくれた。
 僕の好きにさせてくれるようだ。ありがたい。

 僕らの周りを囲む兵士たちのようすを見ると目の焦点が合ってない者が多い。
 これは間違いなくオスマンの人を操る力のせいだろう。
 かなり長い時間あやつられてるのではないだろうか?
 しかしこれだけの人数を長時間操るのなんてかなりの無理をしてるに違いない。
「オスマン、もうやめよう。それ以上力を使い切ったら君は本当に命を亡くすよ」 
「うるさいっ私の命などは関係ない!あの方の言葉が私の真実なのだ」
「だからって命を削ってまで魔力を使ってはいけないんだよっ」
「このチカラが必要だと言われるなら差し出すまで」
 この頑固ものめ!これ以上言っても埒があかない。
「僕が何を言っても聞いてくれそうもないね。もうとめないよ。でも僕らをラドゥさんの元へ連れていって。きっとだから」
「……わかりました」


 連れていかれたのは玉座だった。
 王が座るはずの椅子にラドゥは座っていた。
「おかえりなさい」
 ラドゥは以前とかわりない優しげな表情で僕らを出迎えた。
「……ただいまもどりました」
 僕が答えるとユリウスが前に出た。
「ラドゥ!お前は何をやってるんだ?何故そんなところに座っている?!」
「何故?兄上が公務を放棄したので仕方なく私が代行しているのですよ。それの何が悪いのですか?」
「俺は放棄などしていない!お前が俺を追い出したのだろう?!」
「追い出してなどしておりませんよ。罪人に加担されたので牢屋に繋いだだけです」
「やはり、お前だったのか……?何故だ?何故だラドゥ?」
 ユリウスの声が震える。その声には哀しみと怒りが入り混じっていた。

「ラドゥ兄貴、何があったんだ?」
「ああ、エドガー。しばらく見ないうちにたくましくなりましたね。やはり伴侶を娶ると責任感がでるのでしようか?」
 ラドゥの受け答えはどこかズレている。美しい横顔に影が落ちる。
「エドガーが気に病むことはないのです。王都の事はわたしたちに任せて貴方は竜騎士団を束ねる事だけに集中してください」
 言葉だけを取れば正論に聞こえる。しかしやってることは狂気に近い。
「この現状を見てしまったからにはこのまま黙って帰れねえ!俺にわかるように説明してくれないか?」
「仕方ありませんね。少し前に反乱分子がこの城にやってきました。それをコーネリアスが匿い、私を襲わせてこの城を乗っ取ってクーデターを起こそうとしたのです」
「たった3人でクーデターなんてありえないだろ!」
「城の中と外で待機させていたのです。私はすぐに結界をはりました。外から入ってこれぬように」
「人柱の結界をですか?」
 クロードが隣に立って僕の腰に尻尾を絡ませながら棘のある発言をした。
 ラドゥが眉を寄せ綺麗な顔をゆがませ、小声で呟いた。
「……この獣め本当に気に障る」

 今のはクロードに向けて行った言葉なのか?僕の伴侶を獣だって?ひどいっ。でも……。
 僕はぐっと手のひらを握り込んだ。だめだ気を静めなきゃ。一呼吸してラドゥに話しかけた。
「お願いです。コーネリアスさんを解放していただけませんか?」
「アキト。罪人にはそれなりの罪を償ってもらわないと王政をまとめることは出来ないのですよ」
「コーネリアスを罪人呼ばわりするな!ラドゥ!お前こそどうなんだ!?」
「どうとは?兄上こそ、私に王位を取られそうで焦っているのではないのですか?」
「何を言うっ?!俺が王になってもお前と共にこの国を守るつもりでっ」
「ついに本音がでましたね?!俺が王になる?つまりは王になって当然だと?何も手を下さずとも生まれた時からなんでも手に入ると思い込んでるところが甘いのですよっ!!」
「っ!そんなことはない。俺は……」
「いや甘いっ。相手の獣人は尻尾だけでなく腰も一緒に振っていたのでしょ?いい様に欺かれてたのだ!」
「何だとぉ!!俺のコーネリアスを馬鹿にするなっ!!」
 ユリウスがラドゥに片手を向けると力を発動させた。

 バゴォン!!と音を立て玉座が破壊される。しかしそれよりも早くラドゥの身体は宙にういていた。
 一瞬にして台座ごと木っ端みじんに吹き飛んだ。攻撃が早すぎて僕には動きがわからなかった。
 ふわりと僕の前に着地すると困ったようにラドゥは首を振る。
「兄上はひどいですね。いきなり狙い撃ちですか?」
「ラドゥ様っ!!」
 オスマンが駆け寄る。
「下がっていなさい。ケガをしますよ。お前が来ると足手まといです」
「……かしこまりました」
「アキトもこちらへっ!!」
 クロードに腕を引かれ部屋の隅に連れていかれる。

 ユリウスが放つチカラは念動力のようで、モノを自在に動かすことが出来た。
 重い彫像や甲冑などを次々とラドゥの上に落としていく。
 しかしラドゥは俊敏な動きでそれを回避していく。
 特に跳躍力は高く軽くジャンプするだけで楽に天井近く飛び上がれた。
 
 ゴォンッ!!バァアンッ!!ドドンッ!

「うぐぅっ!!」
 突然ラドゥがしゃがみこんだ。
「兄貴!やめろ!!」
 エドガーがすぐさまラドゥの前に立ち塞がった。
「っ!!。エドっどけ!!」
「馬鹿やろ!部屋を見ろ!城を壊す気か!?」
 壁や扉は壊され玉座の間は荒れ放題と化していた。
「ぁ……。すまない」
 ユリウスが我に返ったように攻撃を止めた。やりすぎたと気づいたようだ。
 その傍でラドゥが瞠目している。
「エド……何故私を庇うのですか?」
「ラドゥ兄貴っ。あんたわざとユリウス兄貴を怒らしてるだろ?」
 俺を見くびるなよとエドガーは睨みつけた。



~~~~~~~
 つづきは明日の晩。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美醜逆転の世界で推し似のイケメンを幸せにする話

BL
異世界転生してしまった主人公が推し似のイケメンと出会い、何だかんだにと幸せになる話です。

処理中です...