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2章 竜騎士団編

57.その人の名前

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「とにかく早くここを出ようぜ!」
 エドガーがユリウスの鎖に触れると火花が散った。

 バリバリバリッ!

「ぐっぅう……」
「エドガー!!」
 クロードがエドガーの脇を支えた。
「な?何今の?エド大丈夫??」
「ユリウス様、その鎖はどうにも厄介な代物のようですね」
「そ……のようだな。魔力を封じるだけなのかと思っていたが……」
「なんでえ!今バリバリって来たぜ!電撃か?!」
  エドガーが両腕をさすりながらユリウスの鎖を睨む。
「誰かが外そうとするとその相手に攻撃が向かう魔道具のようですね。恐らく、ユリウス様の魔力もそれによって封じられてるかと考えれます」
 クロードが考え込む。しかしここから逃げ出すには鎖は外した方がいろいろと動きやすい。
「その鎖は外せないの?」
「ふむ。同じ質量でこちらからも魔法攻撃を与えれば相反してはずれる可能性も……」
「よし!でえええい!!!」
 エドガーがクロードの言葉を最後まで聞かずに剣でユリウスの鎖をたたっ切ろうとする。

 バリバリバリッ!ガンっ!バリリ!ガッ!ガキンッ!  

「はあはあっ!どうだ!外れたぞ……」
 ふらりと足元から倒れ込むとクロードが支え回復魔法をかける。
「……エド!無茶すぎる」
「ぐぅっっ!」
 ユリウスにも苦痛が伝わったようで鎖が外れた腕を抑えてしゃがみこんだ。
 僕はすぐさま傍に行って治癒を流し込む。
「アキトすまないな。お前も顔色が悪いのに」
「僕の事は気にしないでくだ……さい」
 ふらりと目の前がかすむ。
「アキト!!無理しすぎです!」
 クロードに抱き込まれるとかぶりつくように口をふさがれる。
 熱い舌に蹂躙されるがまま暖かい力が流れ込んでくる。
 魔力だ。そうか、僕はまた魔力を使い過ぎそうになったのか。
 擬態魔法はまだ使いこなせてない。それを補うために必要以上に魔力を使っていたんだろう。

「ん……ふっ……もっ……」
 心地よさにねだるようにクロードの首に手を回し口づけを深くした。
「こらっ。そのくらいにして変わってくれ」
 エドガーに引きはがされるとユリウスと目が合い正気に戻る。
「わわ!す……すみません!義兄さんの目の前で……むぐっ」
 今度はエドガーに深く口づけされる。荒々しいが力強い魔力が循環する。
「ユリウス様すみません。魔力が枯渇する前に補充をしとかないといけないので」
 クロードが謝罪を口にする。
「あぁ。わかっている。弟の痴態をみるのはちょっとアレだが」
 ちゅっと音を立ててエドガーがアキトから離れる。
「痴態とか言うなよ。兄貴だってもっとコーネリアスとすげえことしてるんだろ?」
「……そうだな。またシたいな」

 ばか!エドカー!こんなときにそんな話!アキトが小声でたしなめる。
 クロードもさすがに冷たい目でエドガーをみる。
「悪かった。今のは俺が悪い?悪いよな。兄貴ごめん」
 今コーネリアスは城壁の外で結界を張るためにくし刺しにされている。
 ユリウスにその話をするのは酷だったはずだ。



 暗い地下牢の階段を上がると視界が広がり光が目に入ってくる。
「まぶしっ」
 思わず目をつぶると前方から声が聞こえた。
「脱獄する気ですか?」
 出入口は兵士に囲まれていた。やはり人型で移動するには目立ったか。
 でもこれ以上擬態魔法は使えそうもないからしょうがないか。
「お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
 兵士達の一番前に立っていた人物が話しかけてきた。
 頬は削げ落ち痩せこけて骨ばったガリガリの身体がガイコツのようだった。
 ブラウン色の髪もまばらで、ところどころ抜け落ちてしまった感じがする。
「へ?……誰?」
「少し会わぬ間に貴方は、さま変わりしましたね?」
 クロードが皮肉気に答える。
「お前!オスマンだな!!!」
 エドガーが怒鳴る。

「え?うそっ!オスマン?オスマンなの?!」
 僕は驚いた。だって青白い顔に目は落ち込みひどい隈だ。
 オスマンはきっちりとした黒のスーツで7:3分けで理知的な紳士だったはず。
 なのに今目の前にいるのはよれよれの上着に銀眼鏡のミイラのような容姿だ。
「大丈夫なの?寝てないでしょ?どこが悪いの?」
 僕は捕まってしまう事よりもオスマンの体調の方が心配になった。
「なっ??!!」
 オスマンはひるんだようで、よろよろと後ずさりする。
「危ないっ。何があったの?僕は君のエメラルドの瞳が好きだったんだよ」
 これは本音だ。最初に会った時、オスマンの人を操る怪しい綺麗な瞳に見惚れた。
「こんな時にも……貴方って人は本当に……」
 オスマンは困惑したように眉間にしわを寄せると少しだけその濁った瞳が揺れる。
「アキトダメだ!目を見るな!そいつにそれ以上近づくな!」
 エドガーに腕を引っ張られ、抱き込まれた。
「なるほど、これがぽよよんなのか?」
 ユリウスが場違いなアキトの感想を言い出した。
「恐らく魔女の淫蕩な部分が出てしまったのではないかと。アキトは魔女です。自分と相性が良いものに惹かれてしまうのを私たちは止めることが出来ません」
 クロードが自分に言い聞かせるように言葉を吐き出した。

「ごめん。つい。」
 あ~、ほんとに。僕ってチョロいんだな。こんな場面でオスマンが気になるなんて。
 でも、彼をこのままにしてはいけないんだと頭の隅で警告音がなるんだ。
「俺の事を考えろ!」
「エド?」
「俺の事を。クロの事でもいい。お前を愛してる者の事を考えろ!」
 ハッとした。僕がこんなにふわふわしてたらエドガーやクロードを悲しませてしまう。
 それにオスマンの事が気になったのは彼が僕に対して憎悪を見せないからだ。
 その答えは一つだ。
「ありがとうエド。愛しているよ」
 僕はエドガーの頬にキスをすると前を向きなおした。
「オスマン。僕達をどうするつもりなの?」

「もちろん捕まえます。王都で謀反を起こすなどもってのほかです!」
「誰が謀反を起こしたって言うの?」
「コーネリアス様です。彼は忠実な配下のフリをしてたのです」
「それは本人が告白したの?」
「罪人は本当のことを言いません」
「じゃあ誰がそう言ったの?」
「それは……」
「ユリウス様はどうして地下牢に入ってたの?」
「コーネリアス様に加担しようとしたからです」
「それは誰が言ったの?」
「ぐっ……それは」
「同じ人なんだね?コーネリアス様とユリウス様を反乱分子だと告げたのは」

「う……うるさいっ!うるさい!!あの方は私を救ってくれたのだ」
「そうだね。でも君も本当は二人がそんなことしないって気づいてるでしょ?」
 オスマンが瞠目した。
「これは魔女のチカラか?私を篭絡するつもりか?」
「ん~?それは誘惑するのかってこと?残念、僕が愛してるのはエドとクロだけだよ。でもオスマンの事は好きだから助けたいんだ」
「なにを。そんな世迷言をっ」
「だって君がこのまま命を失ったら後悔するのは……ラドゥさんだから」

 僕はついにその名前を口に出した。


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