上 下
48 / 84
2章 竜騎士団編

40.喧嘩両成敗

しおりを挟む
「お帰りなさいませ。お着替えは各お部屋のクローゼットに収納しました」
 部屋に戻るとバレットが待っていた。
 エドガーの部屋は団長室のため、執務室があり、その奥が寝室となっていた。
 間取り的には王宮でのエドガーの部屋と変わらない。バレットには従者用の控室があるらしい。
 アキトとクロードの部屋は別だった。こちらは洗面所とクローゼット、セミダブルベットがある。ベット脇には机と小さなソファ-もある。
「結構良い部屋じゃん」
 以前ネットで見た、ランクの高いシティホテルって感じ?。アキト自身は引きこもり派だったので実際には泊まった事はないが、いつか行ってみたいと思っていた。


「おい、アキト。夕飯を食べに行こうぜ」
 城の内部は広かった。外から見た外観と中身が違う。ただ単に広いだけでなく空間魔法も使われていて、更に広く感じられた。他の騎士たちの宿舎や訓練場、会議室や食堂もある。
 食事は三食。食堂で食べる事になっている。各々好きなものが選べるビュフェスタイルだ。
「よかった。これならクロが食べれそうなものもあるみたい」
 黒猫のクロは僕の襟元から顔だけ覗かしている。首に耳があたってくすぐったい。
 僕がひとつずつおかずを見せるたびにぴょこぴょこと耳が動く。
「アキト。ここに来てからずっとクロ。クロってさ。俺がそばに居るのにさ」
「あ!ごめん!そういうんじゃないんだよ!その。心配で」
「わかってるって。俺も猫に妬くなんてどうかと思うけどさ。そいつはクロードだ」
「うん。そうなんだよ……」
「だから、二人で考えよう。この先もしもこのままでも、俺達3人で伴侶だろ?」
「うん……そうだね」

 エドガーと僕は隣同士に座った。もくもくと食べているとチラチラとこちらを見てくるのがわかる。
  やっぱり皆んな新しい団長のことが気になるよなぁ。僕も早く打ち解けるようにならないと。
「あ。、あの初めまして。アキトといいます。よろしくお願いします」
   斜め前にすわってる団員に話しかけてみた。
「わっ。声も良いじゃん」
「へ?」
「俺フランク。こっちはジャン」と後ろを指差した。二人とも赤茶色の髪をしていた。
 ジャンはそのままアキトの前に座った。
「アンタ魔女って本当かよ?」
「え?はい?そうみたいですね」
「なんだそれ?他人事みたいだな。アンタ頭弱いのか?」
「おい!ジャン!お前失礼だぞ!」 フランクが慌てる。
 襟元から顔を出しているクロがグルルッと唸っている。
「お前、アキトが俺の伴侶とわかって言ってんのか?」
 エドガーがドスのきいた声で睨む。
「なんだよ、声かけたぐらいでキレるなんて。団長さんよぉ。アンタは自分に自信がないのかい?」
「なんだとおっ!」
「おう!やんのかコラァ!」
「ジャン!やめろ!」
 エドガーのリーチがジャンに向かって繰り出され、それを避けたジャンが机をひっくり返してきた。ジャンはそのままエドガーに襲いかかり、止めに入ったフランクの顔を直撃した。
「てめえ!やりやがったな!」
 あっという間にその場は、乱闘騒ぎになってしまった。
「え?エド!エドガーッ」
 僕も加勢に入らなきゃと思ったとき、誰かに腕を引っ張られた。

「コバルトさん?」
「ダイジヨウブ。いつもの事」
「へ?そうなの?」
「そう。ケンカして仲良くなる」と少し離れた所に連れていかれると周りの皆んなも笑いながら見ている。そっか。さっきはワザと怒らすような事言ってきたんだ?。
 エドガーがどう反応するか様子見してるってことか?

「はは。レッドやられた」
 コバルトが楽しげに笑う。僕はギョッとして乱闘に目をやると赤毛の美丈夫が参戦していた。
「え?!レッドさんも?」
 散々暴れて殴りあった後、白いコック服を着たグリズリーが、いや、熊獣人がやってきた。
「おい!机と椅子をまた壊したな?お前ら給料から天引きね。あと、皿洗い1週間だ!これは団員も団長も関係ねえぞ!わかったら片付けろ!!」
 この人は料理長のルースさんでこの食堂の献立を一斉に賄ってるという。
 大きな身体に似合わず、頭の上に丸い小さな耳がピクピクしていた。
「えー?俺もかぁ?しようがねえな」
 腫れた顔のまま、頭をポリポリかいてエドガーが笑う。
 それを見て団員達も笑いあった。
「喧嘩両成敗だからな!はっはっは!」ジャンが横で笑う。
 僕はポカンとその場面を見ていた。なんと清々しいんだ。さっきまで殴りあってたのに。
「お前のパンチ。なかなかだな!」
「へっへへ。アンタもすげえな。まだヒリヒリするぜ!」
 何人かの男達が腫れた顔のまま笑い合っている。
 なるほど、荒くれ者の集団ってよばれるわけだ。
 でも案外悪い人達ではないようだ。

 じゃあ僕は僕のやれる事を始めよう。
「はい。皆さん、怪我を見せてください。まずはエドからだよ!」
 僕はエドガーの腫れた顔に手を当て治癒をした。ぱっと一瞬光ると腫れがひく。
 それを見ていた団員達が一斉に詰め寄ってきた。
「おっ!俺も!ここ!ここが痛えんだ!」
「はい。はい。順番ですよ」一人ひとり手をかざして次々と治療していく。
「お前……アキトは本当に癒しの力をもってるんだな?」
 レッドの腫れた腕を治していると不思議そうに声をかけてきた。
「はい。僕嘘はつきませんよ?」
「悪い。疑ってた。ココは怪我をする奴らも多い。治癒が出来る奴は多いほうが良いんだ」
「そうなんですね?じゃあ僕の力が必要なら言ってください」
「ああ。それなら明日から診療の手伝いもしてくれないかな」
「ひゃ?アランさんいらっしゃたんですね?」
 いつの間にかすぐ隣に副団長のアランさんが立っていた。この人やっぱりすごい。全然気配感じなかったよ!すげ~。この人もエドガーの人となりを見極めようとしてたのかな?
 やったぁ!剣術を教えてもらうだけってのも気が引けてたんだよね。
 団長の伴侶ってだけで特別扱いされるのが嫌だったんだ。
 僕にも出来る事をして皆に認めてもらいたいんだ。
 
「あの子に治してもらったぜ!」
「うっしゃあ。触ってもらった~!」
「あ、あの、俺腹が痛くて……」
「次オレ!俺は歯が痛くて……」
「こらっお前らそれ怪我じゃねえだろ?」
 段々と怪我の内容が怪しくなってきてエドガーが止めに入った。
「あははは!」僕はおかしくなって声をあげて笑った。

「ほぉ。笑顔も可愛いじゃねえか」
 周りの団員達が片目をぱちぱちしてくる。なんだろ?目が痛いのかな?
「お前ら!アキトにアプローチかけてんじゃねえぞ!」
 エドガーが吠える。しかしエドガーの隙をみて他の団員たちが声をかけてきた。
「美味い茶があるんだが今度ごちそうさせてもらえないかな?」
「いやいや、俺の部屋に来たら美味い菓子があるぜ」
 なんだろ?僕がそんなに食い意地張ってるように見えるのかな?
「ふーーーっぶみゃああっ!!」
 今度は襟元から顔を出していたクロが唸りだした。
「クロ?どうした?食べたりなかったの?」
 僕はクロの小さな額に口づけをして頬ずりをした。
「くぅお!猫になりてぇっ!」   
 僕が何をしても珍しいらしい。新人だから皆んな気にしてくれるんだな?
 ありがたいなぁ。でも甘えないようにしなくちや!


 食後、アランさんが言っていた診療所を訪問した。エドガーがどうしても僕が働く場所を見て置きたいと言うからだ。治癒の力は僕の魔力を元にしてるから心配らしい。
 診療所の中は元の世界の病院の診察室のようだ。棚には薬品が並んでいて診察台や簡易ベットなどもある。薬棚には薬草がいっぱい詰まっていた。
「はじめまして。アキトといいます」
「ああ。ワシはダレンだ。専門は治癒と薬学だ。やっと若い奴がきたか」
 ダレンさんはシルバーグレイの長髪で肩からローブを羽織ってて、壮年の魔術師?とおもんばかりの容姿だった。他にも薬師さんや治癒師さんがいて本当に人手が足りないのか皆一応に喜んでくれた。

「みゃあ」クロが襟元から顔を出してきた。
「アキトと呼んでいいかな?そいつはお前さんの使い魔かい?」
 ダレンさんが猫のクロを指さして聞いてきた。
「いえ、その。本当は僕の伴侶なんです」
「なんと? その猫にはアキトからの魔力が感じるぞ」
 僕はこの人なら何か解決策を教えてもらえる気がして本当の事を伝えた。
「ん~。おそらくだが、相手の魔力を最小限に抑制するようにアキトが望んだことで、元々に結ばれていた契約が発動したんじゃなかろうか?」
「元々の契約ですか?」
「ああ。この猫の御仁は魔女と契約を結んでたのではないのかな?そしてアキトはそれを承継したのでは?」
「……はい。承継してるのかはわかりませんが……」
「自覚なしか。徐々に魔力が強くなってるという自覚はあるかな?」
「はい。それはあります」
「では、引き継がれているのだろう。今まで発動しなかったのはアキト自身がそれを願ってなかったからだ」
 ハッとした。そうだ。確かにこの城に入る前に僕は強く願った。
【クロード。僕はお前を魔物にはしない。お前の魔力を僕が制御してみせるよ】と。

「では僕は強く願うと相手に呪文をかけてしまうのですか?」
「普通はそんなことにはならないが。アキトの持つ魔力量はかなり高いのかもしれないのぉ」
 そうだ。王都を出る前にこちらにきたら魔力についていろいろとクロードに習う予定だった。
 だが、その肝心なクロードがこの姿なんて。どうしたらいいんだろう?
「クロを元の姿に治せますか?」
「契約を解けばいいだけの話だ。解いておあげなさい」
「えっとぉ。どうやって?」
「これは難儀じゃのぉ」
 
 あぁ。本当に自分が情けない。ダレンさんが言うにはこの城には魔女の部屋がある。そこから契約解除魔法を調べるといいという。だが、その部屋はどこにあるかはわからないという。レッドさんも確かそんなことを言っていた。
「アキト。あまり思いつめるな。俺も一緒に探すからよ」
 エドガーが心配げに覗き込んでくる。
「うん。ありがとう。でも僕のせいだったなんて。ごめんよクロ」
「みゃあ~お」
 気にするなって感じでクロが僕の頬をなめた。ザラっとした感触がくすぐったい。
「とにかくかなり暗くなってきたし、バレットも心配するから部屋に戻ろうぜ」



~~~~~~~~~~~~~~

次の更新は土曜日0時 次はR18 えっちっちの予定
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お祭 ~エロが常識な世界の人気の祭~

そうな
BL
ある人気のお祭に行った「俺」がとことん「楽しみ」つくす。 備品/見世物扱いされる男性たちと、それを楽しむ客たちの話。 (乳首責め/異物挿入/失禁etc.) ※常識が通じないです

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

そんなに私の婚約者が欲しいならあげるわ。その代わり貴女の婚約者を貰うから

みちこ
恋愛
小さい頃から親は双子の妹を優先して、跡取りだからと厳しく育てられた主人公。 婚約者は自分で選んで良いと言われてたのに、多額の借金を返済するために勝手に婚約を決められてしまう。 相手は伯爵家の次男で巷では女性関係がだらし無いと有名の相手だった。 恋人がいる主人公は婚約が嫌で、何でも欲しがる妹を利用する計画を立てることに

兄さん覗き見好きなんだね?

かぎのえみずる
BL
弟×兄。双子の弟である枯葉の情事を、兄・柚はカメラを仕掛けておかずにしていた。 それがばれて要求されたのは、カメラを仕掛けて覗き見倶楽部の会員たちに覗かれながらの弟とのえっち。 更には覗き見倶楽部のオーナーからも狙われてしまい、オーナーにも抱かれる羽目に。 パフォーマンスから始まるえっちが、本物の恋になるまでの物語。 ※R-18作品です。基本は兄弟の溺愛ですが、モブ攻め/複数姦/3Pなど突発にでてくるのでご注意ください。

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

その杯に葡萄酒を

蓬屋 月餅
BL
陸国の酪農地域と鉱業地域を隔てる大通り。その少し奥まったところには 夕食を提供するための食堂と、その食堂に隣接している一軒の酒場がある。他とは違う、独特な雰囲気が漂う酒場だ。隣接する食堂の方の常連である黒髪の男『夾(こう)』は理由も分からないままその酒場に心惹かれていたのだが、その独特な雰囲気の中に踏み込めるだけの勇気は持つことができず、いつも食堂の方から酒場の様子を気にしているだけだった。 きっとこの先もずっとこのままだろう。 そう思っていた『夾(こう)』だったのだが、ある日の出来事を境にすべてが変わり始める。 「あいつらのことを悪く言うなら…許さないからな」 「っ…!」  酒場の主たる『赤銅色の髪の男』の瞳に射抜かれ、やがて『夾(こう)』はそれまでに感じたことのない感情に深く取り込まれていく…

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

処理中です...