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1章 僕は魔女?

14.疑わしきは

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「さて。 ――――――ここからはこちらの本題に入らせてもらおうか」
 ユリウスが真面目な顔になった。

「こちらに来る途中で襲撃されたらしいな? 」
「ああ。そうだ。何故か俺が帰ってくるのかがわかってたようにタイミングが良かった」
「……そうか。まずは無事でよかった」
「ユリウス兄貴の差し金じゃねえだろうな? 」
 張り詰めた空気が流れる。僕は息をを飲んだ。エドガーそれはあまりにもストレート過ぎるよ。クロードも僕の隣で緊張してるのがわかる。
「……俺ではない」
 しばらく間をとってからユリウスが答えた。背後に立つコーネリアスは存在感を消してしまった。

「エドガー……様。私が少し話させていただいてもいいでしょうか? 」
「なんだ? クロード、いつもどおりエドガーと呼べ。言いたいことがあるなら言えよ」
「では、ユリウス様。王宮に居て身の危険を感じられてるのではありませんか? 」
「どうしてそう思うのだ? 」
「まずこの部屋に入ってから一度も執事やメイドを見かけてません。紅茶もコーネリアス様がお入れになった。これはあきらかに毒などに警戒されているという事ではないでしょうか? 」
「…………」
 無言というのは肯定と受け取った方がいいんだろうな。
 クロードはさすがだ。僕なんかコーネリアスさんが執事も兼ねてるのかと思ってたよ。ラドゥさんも口を閉ざしてしまった。そういえばラドゥさんの顔色があまりよくない。

「ラドゥ兄貴、顔色がよくないが体調が悪いっていうのは本当なのか? 」
「お前にも心配かけてるのか? 悪いな……」
「そうだ。アキトに治してもらおうよ。」
 急にエドガーが思いついたように僕の方を見る。なんだその期待を込めた眼は? 
「へ? エドガー急に何言いだすんだよ? 」
「だってお前の治癒魔法凄いじゃん! 馬車が襲われた時フォクシーの怪我を一瞬で治したんだぜ! 」
「一瞬でか? 腕がいいのだな? この目で見てみたい」
 ええ? ユリウスさんまでそんなこと言うんですか?

「では、この方は本当に魔女様だとおっしゃるのですね? 」
 口を挟んできたのはさっきからラドゥの後ろに立っっていた側近だ。わわ。大ごとになってきたんじゃない? エドガー恨むよ。緊張しちゃうじゃないか。
「なんだ?お前アキトを疑うのか?」エドガーが睨みつける。
「失礼しました。私はラドゥ様の側近のオスマンと申します。魔女とは珍しいと思いましたので。」
  オスマンは側近らしく黒のスーツでラドゥのすぐ後ろに控えている。髪はブラウンで7:3にぴっちりと分けている。瞳はエメラルドで綺麗だが何か人を惑わす力を持っていそうだ。銀縁の眼鏡をしていて神経質っぽい。
「今日はエドガー様が戻られるということで起き上がれてますが、普段はベットに寝ておられます」
「オスマン。そのくらいにしておいてくれ。今日は本当に体調がいいんだ」

 あぁ。もうこうなったら引くに引けないよ。大丈夫かな? クロードの方を見るとこくりと頷いてくれた。これは僕に出来るという事か? ええい、もうイチかバチかだ。
「ラドゥ様。手をかしてくれますか? 」
 僕はラドゥの両手を握って元気になりますように。身体から有害なものはすべて消えますようにと願った。するとポウッとラドゥの身体が光に包まれて元に戻った。
「あれ? 楽になった。身体が軽い。頭痛もなくなったよ」
 ラドゥの顔色が良くなった。目をぱちぱちさせている。
「アキト。治癒魔法のレベルが上がったようですね」クロードが笑顔で喜んでくれてる。
 そうなの? 今のでレベルアップできたのかな? 

「ねえアキトくん、今のは治癒魔法? 君って本当にすごいね」ラドゥの顔が輝いている。
「俺もこんなに瞬時に治す治療師は初めて見た。ぜひ専属で俺のところに来てくれないか? 」
「な!? ユリウス兄様っ何をよこからかっさらおうとしてるんですか! 私が治してもらったんですよ! 私の専属にきてくれないか? 」
 この世界には医者がいない。病気やけがは薬草か治癒魔法で治すのだそうだ。これって極めて行けばこのままこの世界で治療師として暮らしていけるのかな? 僕も人の役に立てるんだ。なんか嬉しい。

「兄貴らっ! ほんとに懲りないな! アキトは俺と一緒に旅に出るんだってば! 」
「はははっ。悪い悪い。からかいすぎたかな」
「もぉっ。なんだよ! ラドゥ兄貴も元気になったし。王位継承争いなんてなかったんだな? 」
  エドガーが笑顔で言うとオスマンとユリウスが固まってしまった。これは絶対何かある。
「本当のことを聞かせて頂けませんか? 」たまらず僕は口出ししてしまった。

 オスマンが何か言いたげだ。何か知っているのか? 口を真一文字に結んだまま手を握りしめている。
「兄貴達が言いづらいならオスマンが聞かせてくれ。話せよ」エドガーが声をかけた。
「実は……」 オスマンが口を開くと
「やめろ! エドに心配かけるな! 」ラドゥが止めに入った。
「なんだよ? 俺に隠し事なんかしてくれるなよ。王宮に来た時点で俺にもここで起きてる事を知る権利はあるだろう? 」
「わかった……」
 オスマンの話に寄ると王の呪いが解ける目処がたたないなら早めに世代交代させようという動きが出だしたらしい。今はユリウスとラドゥが代理で公務を分担している。そこへ時期国王はラドゥの方が適任だという声が出てきた。その時期とラドゥが体調を崩し始めた時期が重なるというのだ。

「ユリウス様一派はラドゥ様が邪魔なのでは? 」
 オスマンの言葉にコーネリアスが食いついた。
「それはこちらの言い草だ。お前を含めたラドゥ様派こそユリウス様が邪魔なのでは? 」
「お前らっ滅多なことはいうなよ。俺の兄貴達がそんな非道なことをすると思ってるのか? 」

「エドガー。ありがとう。だが現実にラドゥは毒を盛られた可能性が高い」
「兄上っ。それは内密にとお願いしたではないですか! 」
「いや、エドガーにはきちんと言っておきたい。断じて俺ではない。……ないが、俺達の知らぬところで陰謀が企てられてるかもわからぬ」
「どういうこと? 派閥争いなのか? 本人達が望んでないのにか?! 」
「おそらくはそうだ。やはり父上が公務におられぬのが災いとなっているのだよ」
 
「俺達としてはエドガー。お前にもここに残って欲しいのだ。三人でこの国を守って行きたいんだ」
「いや、やはり親父の身体を治してしまえばすむことだろう? だから俺が旅に出て……」
「治してももう歳だぜ。親父が倒れない保証はないんだ」
 ユリウスが辛そうだ。そうだ確か人間族の寿命は100~120歳だったはず。王様って何歳くらいなのだろう。
「そんなこと言うなよ! 兄貴はそんな弱気を吐く奴じゃなかったはずじゃねえか」

 このままじゃだめだ。話が平行線になってしまう。やっと戻ってきたエドガーを離したがらないお兄さんたちの気持ちもわかる。だけどエドガーのいう事もわかる。だって僕はそのためにここまで一緒についてきたのだから。
 でもなんだかみんな疑心暗鬼にかかってるみたいだ。ちょっと王宮の事も調べてみたい。

「エドガー。とりあえずは落ち着こうよ。王様の容態も見てみたいし、これからどうするかはまず王様に会ってから決めてみたらどうだい? 」
 僕の提案にみんなが賛成した。
「そうだな。そうだ、まずは父上に会ってもらおう」
「あぁ、そうだ。久しぶりだし話もしたいだろう」
 んん? 父親に合わせるって選択肢は今気づいたって感じじゃないか? 普通ならすぐに考えるだろう。さっきの発言もだがなんだかマイナスの感情に皆引きずられてる気がする。なんだろ? この違和感。集団催眠みたいな?  

「とりあえず今日はもう日が暮れます。明日明るい時間から王に謁見の時間をとってもらいましょう」
 コーネリアスが明日の予定をユリウスと相談しだした。
「エド。君たち今夜は部屋からあまり出ないようにね」
 ラドゥが念を押すように言ってきた。
「え? なにかあるのですか? 」僕が不安げに尋ねると
「だって今夜はハロウィンナイトだからさ」
 
 
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