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1章 僕は魔女?

9.竜の秘宝。

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 エドガーは少し困った顔をしたがため息を一つ吐いてまっすぐにアキトを見た。
「親父が竜に呪われたんだ」
「え?! エドガーのお父さん? 」
「あぁ。俺は親父の呪いを解きたくって冒険者になったんだ」
 エドガーは呪いを解くためにいろんな国を訪ねて回ったが結局どんな薬も回復魔法もお父さんには効かなかったそうだ。そんな時に何でも屋のツッツファーレが竜の秘宝の事を教えてくれたという。
 そうかエドガーが筋肉隆々なのは冒険者だったからなんだな。身体を鍛えないと魔物達とは戦えないもんな。 
「竜の呪いとは厄介ですね」
 クロードが眉を寄せていた。
「あぁ。それでいろいろと竜の秘宝について調べたら魔女が関わってるってのがわかってさ」
「……それでアキトに近づいてきたのですね?」
 クロードの目つきが変わる。エドガーを牽制してるようだ。

「そうだ。最初はなかなか居所がわからんなくてやっと見つけたんだ。でも実際そいつに会ってみたら全然魔女らしくなくってさ、妙に色っぽいしめちゃめちゃべっぴんだし……。そうかと思うとすぐ身体壊しちまうし、危なっかしくって……俺はもう途中から秘宝なんてどうでもよくなっちまうくらいそいつに嵌ってしまって……」
 エドガーが真っ赤な顔をしてこっちをチラチラとみてくる。

 そんな綺麗で色っぽい子が近くにいたのだろうか?僕の同級生の子か?!だから僕に近づいたんだな?
「エドガーもっと早く言ってくれたら僕がその子を紹介したのに」
「はあ? 何言ってんだよ! アキトお前の事だよ! 」
「え?! な……何だよそれ……僕は綺麗じゃないし……色っぽくもないよ」
「アキトは渡しませんよ! 」
 クロードが僕を抱きしめる。尻尾だけでなく腕まで僕の腰に回してきた。
「何してんだよ! アキトはまだ誰のモノでもねえぞ!! 」
「わわっ! 馬車の中で暴れるなよ。クロもその腕どけてくれ。頼むよ」
 クロードが黙って腕をはずしてくれた。だが尻尾は腰に巻きついたままだ。

「その……エドガー人違いじゃないのか? 僕は男だし女の子じゃないから魔女じゃないよ」
「アキト。それは違います。魔女とは名称なのです。」
「名称? 呼び名みたいなものなの? 」
「そうです。それにこの世界には女性はいないのです」
 そうだった。雌がいないと聞いたばかりだった。つい自分がいた世界と比べてしまっていた。でもなんで僕が魔女だと言われるんだ? 祖母ちゃんが魔女だったから――――――? 

「アキト。マリー様が魔女なのは間違いありませんよ。アキトは魔女の末裔なのです」
 クロードなんで貴方はそうやって僕が知りたい答えをだしてくるんだ。
「……じゃあ僕は魔女になってしまうのか? 」

「―――――貴方が望むのなら」

 それはどういう意味なんだ? 望まなければ魔女にはならないのか? 
「マリー様もこちらの世界の方でした」
「そうだったんだ。祖母ちゃんも……え? クロさっき女性はいないって! 」
「はい。そうです」
 なんとびっくり! では祖母ちゃんにはナニがついてたのか? 祖母ちゃんってのも名称だったのか?また僕の頭の中は混乱状態だ。クロードっ。そういう事はもっと早く言ってくれ。衝撃事実すぎるよ。

「話を元に戻しましょうか。町に着く前には聞き終わりたいので」
 ひゃあ~クロードさん、いきなり話をバッサリ切りましたね? 急に事務的な口調になったのは町が近くなってきたから? それとも祖母ちゃんの話をこれ以上突っ込まれたくないから? 後者のような気がする。

「それでエドガーの話をまとめると呪いを解くために竜の秘宝が必要。それには魔女の力がいる。そのためにアキトにストーカーをしているという事ですね? 」
「ちっがーう! ストーカーじゃねえっ! なんだよ俺たち仲間じゃねえか? 」
「私もアキトもいつあなたの仲間になったんですかっ!? 」
「はいはい。仲良くしようよ。その秘宝とやら一緒に探してあげるからさ。クロードもついてきてくれるよね? 」
「アキト。貴方って人は……」
「おお!さすがはアキト! やっぱり俺の事が好きなんだな! 」
 エドガー。その冗談は面白くない。クロードさんの顔が怖いです。

「茶化さないで! 肝心なこと聞いてないよ。どうやったら探せるかだよ! 」
「それが現時点で分かってることは竜の秘宝とやらはどこかに隠されてるという事だ」


 
 かなり昔。この世界では異種間同士の戦争が行われていたらしい。種族同士がぶつかり合うたびに野は焼かれ、食物は奪い合い、いがみ合い憎しみあっていた。それを見て普段は大人しく友好的な竜が、長引く戦に怒りを覚え暴れ狂った。竜が暴れると川や湖は干上がり、作物は枯れ果て、この世界は破滅に導かれそうになったという。
 あるとき、勇者と魔女と賢者の3人が現れその竜の魂を鎮め、その時に竜が流した涙が秘宝となったらしい。

 まるでゲームの中のお話のようだ。ちなみにエドガーはその勇者の子孫。僕が魔女の末裔ならあとは賢者を探すのかな?

「ただ単に三人そろえばいいというわけではなく竜の秘宝を悪人の手にいれさせないために3つの封印を解く品がそろわないといけないらしい」
 その封印を解く品もお互いの大事なモノに呪文をかけ、更に勇者は賢者へ。賢者は魔女へ。魔女は勇者へと手渡したというのだ。それだけ互いを信頼し強い絆で結ばれていたのだろう。

「ふむ……なかなか手強い謎解きですね」
 クロード。考え込むときに‟ふむ”っていうの口癖だよね? 真剣な顔つきがカッコいいよ。

「だろう? だから俺も段々と諦めてきて、もう駄目なのかなって自暴自棄になりかけてたんだ。アキトに会えただけでもういいかなって思うようにもなっていた。だからさっきアキトが探してくれるって言ってくれて本当に嬉しいんだっ! そんなに俺に惚れてくれてるなんてっ!! 」
「貴方の頭の中はお花畑ですか? アキトの親切心に乗っかる気ですね? 」
「そうだ。乗っかって何が悪いっ! 地位でも名誉でも欲しいものはなんでもくれてやるぞ」
「でましたね本性が。これだから王族は手に負えない」
「え? 王族ってどういう事? 」
「!!っ クロードお前わざと俺を煽っただろう!!! 」
「エドガーはこの国の皇太子なのですよ」

「皇太子って……エドガーは王様の息子なの? 」
  だったら次期国王とかなの? 偉い人なんじゃ?  じゃあ一般人の僕なんか側にいてはいけないんじゃないかな? どうしよう。僕エドガーって呼び捨てにしちやったよ。
「えっとエドガー王子様? 数々のご無礼をお許しくださ……」
「やっやめてくれ! そうなるんじやないかと思ったんだ。お前の事だからどうせ身分違いとか考えて俺と距離をとったりするんだろうなって」
  その通りである。王族なんか今まで会った事はないが気安く声をかけれる相手ではない事ぐらいは僕にでもわかる。だけど……。

「エドガー様……なんでそんなに泣きそうな顔するんだよ」
「エドガーでいい。様なんて言わないでくれ。俺は……アキトと一緒にいたいんだ。小さい頃から俺の周りには打算で近づいてくる奴らばっかりだった。せっかくできた友達も俺が王族と知った時点で皆離れて行っちまった。だから俺は王族を嫌った。冒険者になったのだって王家に未練なんぞなかったからなんだ」

 こいつの泣き顔なんて初めて見た。いつだって笑ってて男らしくって強さの塊のように思っていた。でも本当は僕と同じように孤独だったのではないのか? 傷つくのが怖いから強がってたんじゃないのだろうか?
 なんだかすごく可哀そうになってきた。

「アキト。難しく考えなくてもいいのでは? エドガーが王族だとしてもあなたが友人と思いたいならそれでいいのではないですか? 」
「……そうだな。クロの言う通りだね。」
「ほんとか? 友達のままでいてくれるのか? 」
「あぁ。でも今度隠し事したらもう知らないからね」

「……ということでこれ以上隠してることはないですね? これから一緒に旅をするのです。面倒はごめんですよ。先に言っておいてくれた方がこちらも対処ができるのでね」
 クロードったら、やはり彼は面倒見がいいんだな。すごく頼りになる。
「おう!! もう何もないっ」
 げんきんなものでエドガーはもう満面の笑みだ。

「では最後に私が疑問に思った事をお聞きします」

「なんだ? 言ってみろ? 」
「貴方の父上は王様ですよね? 守られてるはずの方がどうして竜になぞ呪われたのですか? 」
「それなんだが、親父は王である前にドラゴン騎士団の団長なんだ。だから竜になにかあれば親父が動く」
「でも竜は滅多なことでは私達の前には現れないのでは? 」
「そうなんだ。どうやらつがいをなくした竜が暴れ狂ったらしく、それを鎮めるために親父が出て呪われちまったらしい」
「ふむ。竜は仲間意識が強い生き物でもありますからね。ましてや番を失くすなど耐えられないでしょう。調べてみてもいいかもしれませんね」


~~~~~~

 話がまとまったところで町にたどり着いた。
「さあまずは美味いもん食いに行こうぜ! 」
 馬車の中で当面の資金はエドガーが出すと言ってくれた。自分の為にアキトとクロードを巻き込んだのだからこれくらいはさせてくれと自分から言い出したのだ。一文無しの僕らにとってはありがたかったのでその言葉に甘えることにした。

 町は魔族除けの結界の白い壁に囲まれていた。しかし中に一歩踏み込むと獣人達で活気づいていた。ちらほらと人間もいる。昼時だったせいか美味そうな匂いであふれていた。
「わあ~いい匂い。ねえココの名物料理ってなに? 食べてみたいよ! 」
「そうだなあ。アキトはもうちょっと筋肉つけた方がいいから肉料理にするか? 」
「あぁ。だがあまり脂っこいものはアキトが腹をこわすのであっさり目の味付けにしてやってくれ」
 はい、クロードさん、僕の健康管理はしっかりしてくださってますね。さすがです。

「じゃあそこの店に行こうぜ。蒸し肉の専門店! 」
 お支払いはエドガーなのでどうぞどうぞ。僕は黙って貴方について行くだけです。
 店内はちょっとチャイナっぽい雰囲気だった。円テーブルに椅子が3つある席に座る。
「俺適当に注文してくるからちょっと待っててな」
 エドガーがカウンター越しにあれこれ注文している。

「アキト。本当によかったのですか? これからしばらく3人で行動になりますよ」
「うん。いいよ。それにここがクロ達のいる世界なら僕もいろいろ見てみたいし」
「そうですか。そういってもらえるのは嬉しいですが、私は貴方と二人っきりに慣れなくて残念です」
 クロードったらまたそんなド直球投げてくるんだね。僕の心臓は跳ね上がりすぎて血圧上がって鼻血がでそうだよ。
「飯食い終わったらさ旅の準備をしにこの先の道具屋にいくぞ」
 エドガーは注文だけでなく近くに買い物ができるところがないかなども聞いてくれてたらしい。
「ありがとう。僕あんまり外出したことなかったからさ、足手まといになったらごめんよ」
「大丈夫だ。歩けなくなったら俺がおぶってやるさ! 」
「私が抱いていきますよ」
 二人ともなんだかバチバチ火花飛んでる。せめて食べ終わるまでやめてくれ。

 運ばれた料理はどれも美味しかった。蒸篭せいろのような容器に野菜が下に引いてありその上に薄きれの肉が何枚も乗っており蒸してあった。2種類の甘辛いたれにつけて食べるスタイルだ。
「すごく美味しいっ」
 久しぶりに食べたごちそうに僕は美味しい美味しいって何度も口に出していた。
「そんなにうちの料理を褒めてくれるなんて嬉しいぜ。デザートおまけしとくよ」
 お店のクマによく似た獣人がにこにことメロンに似た果実を3人分切ってくれた。
「ほんとですか! わあ! ありがとうございます! 」
「あんたみたいな綺麗な子が褒めてくれただけでもうちの評判があがるってもんだぜ」

 ははは。店主さん、客を褒めるのが上手いなあ。
 僕も笑顔でお礼を言うとクロードと視線が合う。エドガーはすごい早さでおかわりを言いながら食べ進めている。やはりこれだけの筋肉を維持していくにはたくさん食べないといけないんだな。

 テーブルの下の僕の膝先にクロードが指先を当ててくる。とんとんって。何気に手をやるとクロードの手に握り込まれた。僕らはテーブルの下で手をつなぎあう格好になる。自分の顔が熱くなるのがわかる。何すんだよクロード。エドガーに見つかったらまたケンカになっちゃうんじゃないの? 
「あれ? アキト顔が赤いんじゃないのか? 大丈夫か?」
 エドガーが心配そうに声をかけてきた。
「そうだな。エドガー、先に宿をとらないか? アキトは環境が変わって体調がついてきてないのかもしれないぞ」
「なんだって? そうだな。昨日も床の上で寝たしな。」

 あれれ?クロードなんかわざとじゃないか? 手をつないだのは僕の顔が赤くなるのがわかってたからじゃないのか? もしかして僕がクロードに触られるとドキドキするって気づいてるのか?
 
 店を出て少し歩くと上品な宿屋が見つかった。こちらの宿の主人は人間だった。
 なんだか渋い。ロマンスグレーのような紳士だった。
「いらっしゃいませ。3人さまですか? シングルですか? それともトリプルですか? 」
「トリプルって? 三人部屋? 三人一緒がいいです」
「アキト。一人にしたほうが貞操は守れるぞ! 」
 エドガーが真面目な顔で言ってくる。意味が分からない。どういう意味だ? 
「いえ、夜中にエドガーが夜這いに行きそうですので三人部屋で! 」
 クロードも何を言ってるのやら……。

 
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