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9エピローグ
しおりを挟む しばらくして屋敷の改装が始まった。ウィリアムは使用してない部屋の一部を教室として使いたいらしい。王都から信頼のおける教師も呼び寄せる予定だ。学校が出来上がるまでの措置だという。
今まで養父母たちに搾取されていた遺産もウィリアムが利用できるようになり屋敷の使用人を増やすことにした。
あれからウィリアムには魔力がある事が分かった。
「水と土と光属性か」
潜在的に持っていた力なのか。譲渡によって現れたのかはわからない。
「それを使って農地を開拓して領民達に分け与える手配もできるかもしれないぞ」
「そうか。もしよければ僕にもっと魔術や魔法の事を教えてくれないか」
「もちろん! あぁ。それもわかってて俺を弟子にしたのかもな」
「グレン?」
「いや、師匠は……リアムのおじいさんは偉大な人だったよ」
きっとこの領地は今まで以上によくなるだろう。
「グレンはおじいさまの事をよく知っているんだね?」
「ああ。頭の回転の良く回る人だった。人種の違いなども気にせず、誰とでも分け隔てなく付き合える気の良いじいさんだった。人間でないものにも同じように目をかけてくれる人だったよ」
「凄い。そんな人が僕のおじいさまだったなんて尊敬する」
「はは。その言葉、師匠が聞いたら泣いて喜ぶかもな」
◇◆◇
こちらを伺うような視線をずっと感じる。だが敵意はないようだし、そろそろ尋ねてみてもいいだろう。俺は屋敷の外れの林まで俊足を使い、その場に潜んでる者に声をかけた。
「……ウィリアム様に御用ですか?」
咄嗟に騎士が庇うように前に出てくる。
「よい。その者と話がしたい」
「しかしっ」
「かまわぬ。下がっておれ」
騎士の後ろから姿を現したのは体格の良い美丈夫だった。
「グレンだな? 私の古い友人の弟子よ」
「師匠と友人だったのですね? ……王様」
「なんじゃバレておったのか。だがここではその名は呼んでくれるな。忍んでまいったのでな」
「了解しました」
「お前はどこまで勘づいておるのじゃ?」
「……ウィリアム様が高貴な生まれだという事だけは」
「わたしが今から話すのは単なる独り言だ」
「はい。わたしには風の音しか聞こえません」
「うむ。その昔、わたしと友人はひとりの娘に恋をした。だがな、その娘はわたしの腹違いの妹じゃったのじゃよ。やがて友人と娘との間に子が出来た。しかしそれは王位継承者争いの種となったのだ」
「…………」
「娘は出産と共に亡くなり、友人は残された子を手放した。新たな災いに巻き込まれぬように。それがウィリアムの母親だ」
「っ…………」
「ウィリアムは私の初恋の人の……妹の孫なのだ」
やはり、待遇的に何かしら王族と関連はあるとは思っていたが、直系の血筋が関わっていたとは。だからわざと関係のない三流貴族のモンターギュの元に置いたのか。
相続時に王都にお呼びがかからなかったのもそのせいか。使いだけを寄こすにしては金額や相続品が多すぎると思っていた。だが、何故今になって……?
「成人した姿をひとめ見ておきたかったのじゃ」
もう会えないからなと。消え入るような声が聞こえた。
そうだ。王宮の管理下から外れたのだ。遺産はすべてウィリアムの手に渡った。公務的なことでももう王が関わることはないのだ。
「……ウィリアム様は学校をつくるつもりなのですよ。優れた知識や経験をお持ちの方からいろいろご自身も学びたいそうです。人生の師匠としてたまにはご意見などを聞かせていただければ……」
俺の言葉に王様は目を瞬き苦笑した。
「ふふ。そうだな……いつか。機会があれば……」
◇◆◇
「グレン! お前の姿が見えないとカイルが探していたぞ。何かあったのか?」
「いや。たいしたことはない。……旅の御仁の話相手になっていただけだ」
「そうか。此処に連れて来てくれれば茶ぐらい用意したのに」
「ああ。そうだったな。今度はそうする」
「グレン。領地の未来が見えてきたから今度は森の事を考えたいのだ」
「俺の仲間の事か?」
「お前の仲間は僕の仲間でもあるのだろう?」
「ふはは。そんな風に言うのは師匠とリアムぐらいだぜ。お前は本当に俺の師匠とにているぜ」
「そうか。やはりおじいさまも僕と同じだったのだな。それを聞いて僕の気持ちも決まった。前々から考えていたんだが、できれば僕は人とそうでない者の橋渡しになれたらと思っている」
「リアム。……その考えは甘いかもしれねえぞ」
森の仲間の中には未だに人間に対して敵対心を抱いてる者もいる。皆が俺やカイルのような人間に好意のある魔物じゃねえ。
「そうだな。でも僕にはグレンがいてくれる。そうであろう?」
まっすぐに俺を見つめる瞳には疑いなど何もない。俺の事を心底信じ切ってる純粋で透明感のある瞳だ。こいつの信頼を裏切る事は出来そうもない。
「まったく。お前にはかなわないな」
「ふふ。そう言うな。僕はお前ほど魅力的で男らしくて有能な執事を知らない。僕を助けてくれないか。……でも、二人だけの時は甘やかしてくれ」
「まいったな。ご主人様にはかなわないぜ」
「グレン。愛しているよ」
「俺もだ。愛している」
例え一生かかったとしても俺はお前の望みを叶えてやるよ。
だからいつまでも俺の傍で笑顔でいてくれ。
終わり
今まで養父母たちに搾取されていた遺産もウィリアムが利用できるようになり屋敷の使用人を増やすことにした。
あれからウィリアムには魔力がある事が分かった。
「水と土と光属性か」
潜在的に持っていた力なのか。譲渡によって現れたのかはわからない。
「それを使って農地を開拓して領民達に分け与える手配もできるかもしれないぞ」
「そうか。もしよければ僕にもっと魔術や魔法の事を教えてくれないか」
「もちろん! あぁ。それもわかってて俺を弟子にしたのかもな」
「グレン?」
「いや、師匠は……リアムのおじいさんは偉大な人だったよ」
きっとこの領地は今まで以上によくなるだろう。
「グレンはおじいさまの事をよく知っているんだね?」
「ああ。頭の回転の良く回る人だった。人種の違いなども気にせず、誰とでも分け隔てなく付き合える気の良いじいさんだった。人間でないものにも同じように目をかけてくれる人だったよ」
「凄い。そんな人が僕のおじいさまだったなんて尊敬する」
「はは。その言葉、師匠が聞いたら泣いて喜ぶかもな」
◇◆◇
こちらを伺うような視線をずっと感じる。だが敵意はないようだし、そろそろ尋ねてみてもいいだろう。俺は屋敷の外れの林まで俊足を使い、その場に潜んでる者に声をかけた。
「……ウィリアム様に御用ですか?」
咄嗟に騎士が庇うように前に出てくる。
「よい。その者と話がしたい」
「しかしっ」
「かまわぬ。下がっておれ」
騎士の後ろから姿を現したのは体格の良い美丈夫だった。
「グレンだな? 私の古い友人の弟子よ」
「師匠と友人だったのですね? ……王様」
「なんじゃバレておったのか。だがここではその名は呼んでくれるな。忍んでまいったのでな」
「了解しました」
「お前はどこまで勘づいておるのじゃ?」
「……ウィリアム様が高貴な生まれだという事だけは」
「わたしが今から話すのは単なる独り言だ」
「はい。わたしには風の音しか聞こえません」
「うむ。その昔、わたしと友人はひとりの娘に恋をした。だがな、その娘はわたしの腹違いの妹じゃったのじゃよ。やがて友人と娘との間に子が出来た。しかしそれは王位継承者争いの種となったのだ」
「…………」
「娘は出産と共に亡くなり、友人は残された子を手放した。新たな災いに巻き込まれぬように。それがウィリアムの母親だ」
「っ…………」
「ウィリアムは私の初恋の人の……妹の孫なのだ」
やはり、待遇的に何かしら王族と関連はあるとは思っていたが、直系の血筋が関わっていたとは。だからわざと関係のない三流貴族のモンターギュの元に置いたのか。
相続時に王都にお呼びがかからなかったのもそのせいか。使いだけを寄こすにしては金額や相続品が多すぎると思っていた。だが、何故今になって……?
「成人した姿をひとめ見ておきたかったのじゃ」
もう会えないからなと。消え入るような声が聞こえた。
そうだ。王宮の管理下から外れたのだ。遺産はすべてウィリアムの手に渡った。公務的なことでももう王が関わることはないのだ。
「……ウィリアム様は学校をつくるつもりなのですよ。優れた知識や経験をお持ちの方からいろいろご自身も学びたいそうです。人生の師匠としてたまにはご意見などを聞かせていただければ……」
俺の言葉に王様は目を瞬き苦笑した。
「ふふ。そうだな……いつか。機会があれば……」
◇◆◇
「グレン! お前の姿が見えないとカイルが探していたぞ。何かあったのか?」
「いや。たいしたことはない。……旅の御仁の話相手になっていただけだ」
「そうか。此処に連れて来てくれれば茶ぐらい用意したのに」
「ああ。そうだったな。今度はそうする」
「グレン。領地の未来が見えてきたから今度は森の事を考えたいのだ」
「俺の仲間の事か?」
「お前の仲間は僕の仲間でもあるのだろう?」
「ふはは。そんな風に言うのは師匠とリアムぐらいだぜ。お前は本当に俺の師匠とにているぜ」
「そうか。やはりおじいさまも僕と同じだったのだな。それを聞いて僕の気持ちも決まった。前々から考えていたんだが、できれば僕は人とそうでない者の橋渡しになれたらと思っている」
「リアム。……その考えは甘いかもしれねえぞ」
森の仲間の中には未だに人間に対して敵対心を抱いてる者もいる。皆が俺やカイルのような人間に好意のある魔物じゃねえ。
「そうだな。でも僕にはグレンがいてくれる。そうであろう?」
まっすぐに俺を見つめる瞳には疑いなど何もない。俺の事を心底信じ切ってる純粋で透明感のある瞳だ。こいつの信頼を裏切る事は出来そうもない。
「まったく。お前にはかなわないな」
「ふふ。そう言うな。僕はお前ほど魅力的で男らしくて有能な執事を知らない。僕を助けてくれないか。……でも、二人だけの時は甘やかしてくれ」
「まいったな。ご主人様にはかなわないぜ」
「グレン。愛しているよ」
「俺もだ。愛している」
例え一生かかったとしても俺はお前の望みを叶えてやるよ。
だからいつまでも俺の傍で笑顔でいてくれ。
終わり
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