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第二章:辺境伯は溺愛中

27突入

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「ここには自警団がいるらしいからな」
「はッ自警団?そんな田舎の素人の集まりに何ができるってんだ!」
「領主も若い息子に変わったところっていうじゃねえか!」
「なんじゃ?お、お前らまさか本気で謀反を起こす気なのか?」
 ノワールが焦りだす。
「くくく。今ごろ気づいたのか伯爵さんよぉ?」
 さっきまで腰が低かった何でも屋が急に口調を変えた。
「王都で武器を集めるのは目をつけられるからな。辺境地の離れた場所に目を付けたのさ。少しづつ荷の中に武器を隠し入れ送り込む。もっともあんたは武器を隠し持つのも貴族のステータスだと思い込んでいたようだがな」
「武器も財宝の一つだと言ったのはお前ではないか!」
「そうさ。戦に必要な武器はもしもの時には金より役に立つお宝だからな!」
「それにもし失敗したとしても首謀者は伯爵だ。俺たちは金で雇われただけだと逃げおおせる」
「なっなんだと!このっ」
 ノワールが男に掴みかかろうとして逆に引き倒され殴られる。
「ぐぁあっ。痛いっ。やめてくれぇ」

「あん?そこの女っ、さっきから俺らを睨みつけてやがるが何か文句があるのか?」
「……結局何がしたいというの?」
「同胞たちの無念を晴らしたいのだ」
「同胞って貴方たちは隣国との戦の生き残りなの?」
「そんなのリーダーだけさ。すでに代替わりしてる俺たちは暴れたいのさ!」
「暴れるにしても辺境地なんてたかが知れてるのでは?」
「だが、王都と同時にならどうだ?そこに混乱に紛れて隣国が攻めてきたら?へへへ」
「そうか。それなら大ごとになる……」
「こらっ……お前らしゃべり過ぎだ!」
 何でも屋と呼ばれる男が怒鳴る。
「お前教育係とか言ったが身のこなしに隙がないな?」
「ええ。護身術も教えてますから」
「ふっ。気の強い女は嫌いじゃねえ」

「ノワール様。ブルーノです。隣国からの使いがいらしてますがいかがいたしましょうか?」
 ノックの音と共にブルーノの声が聞こえる。
「何?使いだと?」
 周りにいた男たちがおおっと声をあげる。
「わ、吾輩が隣国に文を出しておいたのじゃ。……まさか本当にこのようなことになるとは」
「ありがたい!ふはは。これであんたは本当に首謀者だ!」
「吾輩はなんと愚かな事を……」
「ブルーノさん。伯爵はお疲れのようでしてお休み中です。今からわたしが代理でそちらに参りますので少し扉から下がっていただけますか?」
 何でも屋が声色をかえて丁寧に扉の向こうに話しかける。
「かしこまりました。では扉を開けずにお待ちしております」
「くくく。あんたのとこの執事はよくできているな。今この部屋を見られるわけにはいかねえ。おい!お前ら伯爵を逃げない様に見張っておけよ!」

 扉が開いた途端に閃光弾がバチバチっと放たれた。
「今だ!」
 は叫んだ!
「うっがああ!」
 部屋の隅で目立たないように背を丸めていた熊のような大男がいきなり立ち上がり周りの男を押し倒す。
「くそっ!やっちまえ!」
 剣を抜き男たちが構えるとマントを羽織った男が狭い部屋の中を駆け巡る。
「このやろ!ひ、人質だ!こっちには女が……うぎゃ!」
 の腕を掴んでいた男があっという間に吹っ飛んだ。

「俺のアルに触るな!」

 地を這うような低い声が響いた。男を素手で殴り飛ばすと僕を抱きしめる。ああ。これは怒ってるな。いや激怒だな。やはりサミュエルは凄いな。化粧で顔を隠して女装もしているのにすぐに僕だとわかっちゃうんだもの。
「ご、ごめん」
「後でお仕置きだ!」
「ひぇ……何されるのだろ……?」
 チュッと僕の頬にキスを落とすとサミュエルは戦いの中に飛び込んで行った。
「来るな!こっちには銃があるんだぞ!」
 別の男が傍に居る男たちに銃を渡し始める。
「だが弾丸はない!」
 僕の声に銃を手にした男が驚く。
「はん!こっちには弾丸の箱が……中身は石だとぉ?」
「私めがすり替えておきました」
 ブルーノがすっと脇から短刀を飛ばす。ワァオ!ブルーノってナイフ投げの達人だったりするの?
「凄いっ!」
 すると今度は僕の手に剣を握らせる。早業だぁ!ブルーノって手品も出来るのかも?
「昔、アレーニア様と二人で追手を倒したことがありまして……」
 正面から突っ込んでくる敵に今度は蹴りをくらわす。
「あの時のアレーニア様と貴方は本当に瓜二つです」
 横から来る敵に僕が斬り込む。
「こんな風に?」
「ええ!まさしくそのとおり!」

「アル!俺以外の男と絡むな!」
「ひゃい!ご、ごめんっ……なさい!」
 サミュエルが鬼面のまま素早くこちらに戻ってくる。ガッと頭を掴まれ噛みつくようなキスをされた。ついでに顔をゴシゴシとふかれ化粧も落とされてしまう。
「中にいるとわかった時の俺の気持ちがわかるか!」
「ぅっ……はい」
 周りはほとんど倒されていた。何でも屋と呼ばれた男は縄で縛られている。
「サミュエル様。そのぐらいで。それにアルベルト様のおかげにこいつら結構ぺらぺら喋ってくれたし」
「ヴァイス。アルはそんな危ないことをしていたのか?」
「おわっと。あ~、そのなんだな。きっと女性だと思って気を抜いて話したんだと思うんだ。男に話しかけられた方が警戒したんじゃねえのかなぁ?」
 今までヴァイスはノワールの傭兵に扮していたのだ。こんなに大きな体なのに綺麗に存在感を消していた。本当に強い男って違うんだと思った。でももう一人気になる人がいるんだな。

 マントをかぶった男がノワールに手を貸し抱き起こしていた。
「うむ。よくやったぞ!おぬしには褒美をやろ……ぶぎゃ」
 マントの男がノワールの頬をぶん殴った。
「この!馬鹿者めが!お前という奴は!この!」
 もう片方の頬まで思いっきりぶん殴る!勢いでマントがズレ、顔があらわになった。
「あのときの老兵?」
「あの人はノワールの父親だ」
 サミュエルが僕の耳元で囁く。どきどきするじゃん。でもあの時新領主に会いたいって感じだったのは、やはり残した家族が気がかりで戻って来たって事なのじゃないのだろうか?
「え?じゃあ、この家の主?」
「いや、家督はすでに息子に譲ってこの家を去っていたのだ」

「ち、父上なのですか?」
 ノワールが瞠目している。両頬が腫れてハムスターのような顔になっていた。
「この地が狙われてると聞いて戻ってみればなんとも情けない事か」
「それは……だが吾輩を捨てた貴方に言われたくないわ!」
「……それについては悪かったと思っている。だが、領民を守り領地を護るのが領主の務めだぞ!」
「吾輩なりに守ってきたわ!それに自分の領地だ、好きにして何が悪いのだ!」
「それが思い上がりだというのだ!傲慢すぎる!」
「そこまでだ。ノワール伯爵。お前には王都から沙汰が降りるまでこの地で幽閉となる」
 サミュエルの言葉にノワールが驚く。
「な!何故吾輩が幽閉されなくてはならない!」
「それだけの事をしようとしたではないか!」
「こ、これは……そうだ。そいつらにそそのかされたのだ。主犯は平民だ!貴族の吾輩ではないぞ!」
「貴様あ!この期に及んで!」
 老兵が剣を抜いてノワールに向けた。
「ひぃいいっ」
 ノワールはその場で腰を抜かしてしまった。
「だめだ!切ってはいけない!ノワールは自分の罪をあがなわなくちゃいけない」
 僕は必死で止めた。だって息子じゃないか。手にかけるなんて悲しすぎる。
「しかし、こやつは性根が腐っておる!」
「なら更生させてあげてよ。アンジェリカが悲しむよ?」
「……わかりました」


 
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