上 下
36 / 41

35真相

しおりを挟む
 盛大に祝ってもらって嬉しい反面。戸惑う事も多い。一通り挨拶を済ませると外交の話へと切り代わっていく。そうなるとオレはまだ役不足だ。所詮祝いは表向きなのだろう。ここから先は宰相殿に任せよう。来賓の方々はグラソンと会談に入っていった。
「イスベルク。アグニや占い師はどうなったの?」
「アグニは氷像にして送り返した。ミコトは父上に任せたが、気になるのだな?」
 氷像って何?なんとなく予想はつくけど。ミコトって婆さんがミコッティ姫ならちょっと気になる。
「うん。最後まで見届けたいなって」
「わかった。父上のところに行こう。それにしても本当に過去が見えたのか?」
「え?いや、えっと……。なんとなくそんな気がして」
 どうしよう。なんて説明しよう。
「……そうか。また言いたくなった時に教えてくれ」
「うん」

◇◆◇

「本来なら祝い事が終わってからにしようかと思っておったが早めにカタをつけてやるのもいいじゃろう」
「イゴール陛下は玄武の姫をご存じなのですか?」
「ああ。わしがこの手で沈めたからな」
「沈めた?」
「あやつを倒したのはわしじやよ」
「え?」
 どういうことなんだろう?
「いいか。ここで黙って見ておれ。そして二度とこういう悲劇は起こしていけないのだ」


 ミコトは鎖で繋がれたまま引きずられてきた。侍女達は複雑そうな顔でそれを見ている。この中には占ってもらってた人もいるのだろうな。
「年寄りを大事にせぬか!わらわは玄武の子孫ぞ!」
「年寄りの戯言と思うてほっておいたが、これほど思い込みが激しくなっておるとはな」
 憐れむような目線で陛下は老婆を見る。
「自分がなにものだったのかも忘れてしもうたか?」
「何を言う……わらわは」
「何故他の玄武族がいなくなったのか忘れたのか?守るべき主がいなくなったからだろう?」
「な、何を……」
「お前は姫を守れなかった。玄武は吉凶占いができる神獣。姫は自分の未来もすべて占ってわかっておったのだろうよ」
「や、やめろ……やめろ」
「お前は知っているはずだ。あの日、起きたのは反乱ではなくとりかえばやだった事を」
「ぁあああ。そんな。わらわは……悪くないっほんの気まぐれで……姫さまの衣装を一度だけでも着てみたくて」
「両親が亡くなった事を憂いていた姫は幽鬼に取りつかれておった。正気でいるうちに自分を倒してほしい、この地を安住に導いて欲しいとわしを地底から呼び覚ましたのだ」
「知らない。そんなのは。あの時、あの場所には姫の衣装しかなかった!」
「そうだ。姫のむくろは願い通り両親の眠る氷の地の奥深くにわしが沈めたのだからな」
「そんな……姫様を……龍め!」
「何を言う。お前こそ姫の真似をして好き勝手にし放題していたではないか。わしは本当は煩わしい事に巻き込まれるのは嫌だったのだ。また眠りにつこうとしていたのに。地上を騒がせたのはお前だろう」
「皆姫様をうやまい、顔を上げる事なぞせなんだ。だから姫様が戻るまで。ほんの少し。少しだけ真似をしてみたかった……それだけなのに」
「姫の占いは外れたことがなかったという。だからこそ皆、姫を尊び怖れていたのだろう。だが、その衣装を着たお前を見つけ、なおかつ、いつまでたっても戻って来ぬ姫に、玄武の宰相は全てを悟りよった。再びたたき起こされ責任を追及されたわしがどれだけ嫌だったかお前にわかるか?お前は姫が拾ってきた捨て子だったらしい。ましてや姫が可愛がっておった子だ。ゆえに宰相は温情をかけお前は国内追放のみで済んだのだ」
「そんな……わ、わたしは……皆に囲まれて……囲まれていたのは姫だったのか?」
「自分の容姿を見てみろ。玄武は長寿の神獣だ。あれから100年あまりしかたってないのに。何故お前はそんなにも年老いておるのじゃ。それはお前がヒトだからではないのか?」

「わたしはヒトなのか?……寂しかったのじゃ!急にまわりに誰もおらぬようになった。どうしたらいいかわからず。龍を……憎むことしかできなかった……」
「お前が近くまで戻ってきたことはわかっておった。下手な占いをしていることもな。だがそれで稼ぎになって生活ができているのならと見過ごしていたわしも悪かったのだろう」
「……どうすればよかったというのじゃ。難しいことは何もわからぬのに」

「何故学ぼうとしなかったの?」
 オレは言わずにはいられなかった。
「誰に学べというのだ?誰も傍にいてくれなかったのに!」
 老婆はそう叫ぶとヨロヨロと床に座り込んだ。
「貴女は誰かに頭を下げたことはあるの?教えてくださいと頼んだことはあるの?友達は作ったことはある?誰かの為に役に立とうとしたことは?」
「ルミエール」
 黙って傍に居たイスベルクに後ろから抱き込まれる。
はわからないことがあれば周りに聞くよ。過去よりも未来を考えるよ。今日よりも明日。明日よりもあさって。前を向いて今のありのままの自分を受け入れて歩んでいきたい。他人を羨んで恨む暇があるなら自分を磨いていきたい。オレのいう事は間違ってる?」
「そんなのはただの理想じゃ。誰も私の事なぞ必要としていない」
「貴女の占いを聞いて喜んでた人もいるんじゃないの?貴女にも他人を喜ばすことは出来てたんでしょ?」
「……。全部口からデマカセじゃ。わたしには占いのチカラなぞない」
「少しはあったんじゃないの?あったから姫様は自分の身近に貴女を置いていたのではないの?」
「…………すべては幻じゃ」
 老婆はそのまま床に倒れ込んだ。
「救護室へ連れて行ってやれ。もうそんなに長くはないだろう。ヒトの時間は限られている」

 陛下の声だけが部屋に重く響いた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。 しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。 しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生───しかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく……? 少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。 (後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。 文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。 また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。

処理中です...