上 下
21 / 41

20好きと言う感情 Sideイスベルク

しおりを挟む
「イスベルク!見て!なんか凄いよこの服」
 目の前でルミエールがくるりと回って見せると裾がふわりと広がる。ボトムがスリムな形に対してトップスが淡い色彩のふんわりとしたブラウスだ。手触りのよい光沢のある生地でストロベリーブロンドのルミエールの髪によく似合う。
「キャンベルが送ってきてくれたんだ」
「さすが。あいつやるなあ。今夜は何かお披露目があるんじゃないかと急いで仕上げてくれたらしいぜ」
 ユージナルが俺より先にこの部屋に来ているのが気に入らないが、妖精のような出で立ちのルミエールが可愛いから許してやろう。

 会場にはすでに大勢の側近たちが集まっていた。
「わあ。人がいっぱいいるね。皆偉い人達なの?」
「父と俺の側近達だ。何か事が起きた時に顔をあわせることが多い奴らだな」
「そうなんだ。わかった。なるべく顔を覚えておくよ」
「そうしてくれるとありがたいが無理はするなよ」
「うん。でも必要なことでしょ?頑張るよ」
 なんて健気でいじらしいのだろう。ルミエールが可愛いくて堪らない。仕草も表情も声も。そして性格もすべてが好ましい。前向きでいて物怖じしない。素直だし明るくて思いやりがある。俺の事を想って馬車の中で俺の頭を撫でてくれたのも。あんな風にされたのは幼いころ母上にしてもらったきりだ。誰かにあんな風に甘やかされた事なぞ久しい。心に小さな温かい炎が灯ったような、とても心地よいものだった。


「皆の者。今宵はルミエールの歓迎会だ。存分に楽しんでくれ」
 父上の掛け声でざっと一斉に頭を下げる。ルミエールもマネをして下げているな。つむじが見えて可愛いぞ。
「ルミエール。一言挨拶をしてくれ」
 俺がそっと耳元で囁くと緊張した面持ちでこちらを見た。ああ可愛い。なんど可愛いと言ったかわらかないほどかわいい。
「ルミエールと申します。今日からこの城でお世話になります。よろしくお願いします」
 パチパチと拍手が聞こえる。何人かは様子を伺ってる奴もいる。そいつらの顔は覚えた。後で締め上げてやろう。俺のルミエールの挨拶に拍手をしないなんて!

「わあ。凄い。ごちそうがいっぱい。これボルシチっぽい。こっちはクリームシチュー?わあ。このお肉は皮がぱりぱりしてる。お肉が柔らかい。凄い!シャーベットだあ。幸せ~~」
「くくく。慌てずゆっくり食べろよ」
「うん。美味しいよ。ごはんが凄く美味しい!」
 美味しそうに小さな口をモグモグ動かして食べる仕草がほほえましい。口元についたシチューを舐めてやりたいとじっと見つめていると俺の口元にひとさじすくって持ってくる。食べたいと思われたらしい。
「はい。あ~ん」
「うん。美味いな」

「おい……イスベルク様がほほ笑まれているぞ」
「なんと本当にイスベルク様なのか?」
 外野がうるさい。俺だって笑うときは笑うのだ。ほっておいてくれ。

 食事が一巡したところで家臣たちが交互に挨拶にやってきた。最初のうちはにこにこと答えていたルミエールだがそのうちこくりこくりとやりだした。
 長旅だったからな。疲れが出たのだろう。カクンと首が倒れたのを片手で支え、そのまま膝の上に乗せる。腹もいっぱいになって眠くなったに違いない。年齢に対して少し小さめの身体は栄養が足りてなかったせいだろう。食事に気を付け運動をさせれば健康的になるに違いない。
 
 健康的でないと子供も産むのが大変だろうな……子供。ああ、父上が余計な事を言うから妄想が。子供も可愛いが。まずはルミエールを可愛がりたい。柔らかい髪をそっとかきあげるとおでこにキスを一つ落とした。上気したバラ色の頬をすり寄せると小さな唇が目に入る。うっすらと開かれた唇に舌をこじ入れてみたい。指先で下唇をなぞるとふにゃっと笑う。
「くくく。可愛いな……」

「コホン! あ~。イスベルク様。ルミエール様がお疲れのようでしたらお部屋に連れて行かれてはどうでしょうか?」
 ユージナルに声をかけられるまで俺は周りの視線を集めてる事に気づかなかった。しまった。つい。
「わかった。少しの間席を外す。皆はそのまま歓談しておいてくれ」
 そそくさと立ち上がるとルミエールを横抱きにしてその場を立ち去る。
「頭の固い頑固な連中に仲が良いところを見せつけるためにわざとやってるなら良いんだがよ。無意識だとこっちの目のやり場に困るってばよ!」
 いつの間にか俺の横にいるユージナルが文句を言う。
「すまない。つい、可愛すぎて」
「あ~。もう。やっぱ無意識だったかあ。まあいいんじゃない。こうなったら溺愛してますって姿勢で突っ走ったほうがいいかもよ」
「突っ走るとは?」
「反対派がいるんじゃねえか?お前の縁談とか目論んでたやつらもいるだろうしな」
「俺にはルミエールしか見えないぞ」
「はいはい、ごちそうさま~。とりあえず寝かして来いよ。俺は扉の前で待っているから」

 寝室のドアを開けそっとベットに降ろすとむにゃむにゃと俺の服の裾を掴む。
「くぅ~。……」
 ああ可愛い。可愛すぎておかしくなりそうだ。離れたくない。こっそりと唇を奪う。やわらかな唇に理性が飛びそうになる。長いまつげを舌先で舐め、かわいい鼻先を軽く甘噛みした。まだ起きない。そっと下半身を撫でる。ああもうこのままいっそ……。
「ん……もぉ食べれない……」
「ぷっくくく」
 はあ。あぶなかった。寝言に救われたかもしれない。深呼吸を繰り返し、そっと掴んでいる指を外す。


 これが好きという感情なのだろうか?番に固執してしまう竜人とは厄介なものだと思っていた。戦いで勝つために洞察力も身に着け、人を威圧することも覚えた。だが、感情だけが置き去りになっていると周りからは言われた。自分ではよくわからない。感情とはどういうものか?戦いには必要ない。なくても良いとさえ思っていた。

 だけど今は違う。日に日に思いばかりが募ってしまう。早く。早くこの手にしたい。誰にも渡したくない。俺のものにしてしまいたいんだ。だが、怖がらせたくない。普段は冷静さに努めているがルミエールから触られると欲望があふれそうで固まってしまう。ユージナルが傍に居てくれてよかった。あいつがいなければ俺は襲い倒していたかもしれない。傷つけたくはないのだ。蕩けさせて俺なしでは生きていけなくしたいんだ。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。 しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。 しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生───しかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく……? 少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。 (後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。 文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。 また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。

処理中です...