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23母の思い出

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 急に慌ただしくなった。イゴール様が氷の国皇帝陛下として各国にイスベルクとオレの婚儀が決まったと通達を流したのだ。そのため問い合わせやご祝儀が殺到したのである。
 肝心の式のほうはイスベルクとしてはすぐにでもあげたかったようだが、宰相のグラソンとキャンベルが待ったをかけた。グラソンはオレがまだ王族教育を終えてないこと。キャンベルは式服が間に合わないという理由からだった。

「ごめんなさいね。バタバタしちゃって。各国からお祝いが先に届いちゃって」
 にこにこと笑うネージュ様の前でオレは今お茶を飲んでいる。目の前には美味しそうなケーキもある。
「いえ。その。僕こそあまりこう言うのに慣れてなくて。……は、はは」
 イスベルクやイゴール様の忙しい時間帯にあえて一人だけ呼び出されたのだ。
「ふふふ。マリアージュの話を聞きたくって」
「ええ。僕が知っていることなら何でもお答えします」
 と言ってもルミエールの記憶の中から探し出すって感じなんだけど。いまだに自分の事だけど自分でない感じがして慣れない。今のオレは陽向ひなたとして生きてきた時の性格の方が強く出ているからかもしれない。
「私たちはここからもっと北東の小さな村にいたの。その村では女の子が生まれると「ジュ」の字をつける習わしがあってね。私がネージュ。貴方のお母さんがマリアージュ。ふふ。響きが似ているでしょ」
「ええ。似ていますね」
「だけど。村のすぐ裏山でミスリルの鉱石が見つかってね。そこから戦になり私たちは生き別れになってしまったの。村も焼かれ。生き残った者は南に連れて行かれそうになって。銀髪の白い肌って北国特有らしくて南では珍しいそうなの。そんな時イゴールが現れて助けてくれたの」
「そうだったんですね」
「ええ。助かった者たちともバラバラに別れて。いくところがないならうちにおいでと誘ってくれたの」
 う~む。それはナンパというのではないのかな?
「僕の母のマリアージュは……気の強い人でした。炎の国の側室でしたが度胸がある人で周りを言い負かして離れの屋敷に住む権利を勝ち取っていましたよ」
「まあ。ふふふ。マリアージュらしいわ」
「はは。昔からだったのですね」
「ええ。私の事もよく助けてくれたの。大好きだったわ」
「ありがとうございます。母の事をそう言ってくれて」
 そう言ってもらうとなんだか嬉しい。やっぱりオレはルミエールでもあるんだなと胸がじわっと熱くなった。オレはその頃の暮らしぶりや思い出などを語った。ネージュ様はずっと笑顔で聞いてくれた。

「ルミエールも苦労したのね」
「……もう過ぎたことなので。それよりも前に進んで行きたいのです」
「強いのね。貴方はイスベルクが怖くないの?」
「はい。どうしてですか?」
「イスベルクが12歳から戦に出ていたのはご存じ?」
「はい。本人から聞きました」
「そう。それは、私のせいなのよ」
「え? イゴール様が番を溺愛していて離れたくないからと聞きましたが」
「あ~、それも本当なのだけどね」
 しまった。相手は皇后さまだった。イゴール様は皇帝陛下だ。陛下の悪口を言ったことにならないかなあ。
「イゴールが私を溺愛してくれているのは本当だと思うわ。とても感謝しているの。でも、それだけが理由ではないのよ。私は村で戦があったときにひどいケガを負ってしまって魔力の機能が上手く働かない身体になってしまったの。だからイスベルクを産んだ時にかなりの魔力を奪い取られてしまって。特にあの子はイゴールのチカラを受け継いだチカラの強い子だったから。上手く調節ができなかったの」
 イスベルクが母親に会えなかったのは理由があったんだ。父親の溺愛だけじゃなかったんだ。

「それでもあの子が11歳頃まではなんとかイゴールがそのチカラを抑えてくれていたのだけど。フロワが出来て私の魔力が更に低下してしまって。私はイゴールから魔力を分けてもらわないと動けない身体になってしまったの」
「そうか。だから離れられないんですね」
「ええ。そうなの。逆にイスベルクは強すぎるチカラに翻弄されがちになって。ある日暴走してしまったの。城の一部を壊して……。このままではいけないとチカラを発散させることにしたの」
「それで戦に出るようになったのですか?まだ12歳なのに?」
「最初のうちはこっそりイゴールがついて行った事もあるのよ。すぐに帰って来たけど」
「でもだからと言って12歳はまだ子供ですよ!」
「ええ。でも竜人は成長が速くて見た目はもう大人だったのよ。それにあの子は初陣で敵を全滅させてきたの」
 
 竜人?そうだ竜人族!小説の中で北の国の竜人族の話があった。容姿は人と同じだけど人よりも生命力が強くて体が丈夫な種族の話。……だからか。砂漠の中を車並みに駆けずり回る事が出来る体。鍛えていたからじゃなかったのか。

「怖かったわ。イスベルクは私の子供なのに……なのに12歳で敵を全滅させたあの子を私は怖がったのよ。イゴールはそれをわかっていてあの子を私から引き離したの。我が子なのに。私は母親失格なのよ」
「失格だなんて。言わないで下さい」
「いまだに怖いと思う時があるわ。あの子は無表情で何を考えてるかわからなくて」
「それは違います。始めは僕も嫌われてるのかと思っていたのですが。最近は笑ってくれる時もあるんです。きっと感情の出し方が分からないだけだと思うんですよ」
「あの子が笑顔をみせるなんて。よほど心を許してるのね。お願いよ。何があってもルミエールだけはあの子を怖がらないで欲しいの」
「イスベルクを怖くは思ってはいません。僕はイスベルクのモノなのです。」
「ふふ。そうなのね。純愛なのね」
「僕は彼への貢ぎ物ですから」
「……え? 貢ぎ物?」
「ええ。僕は炎の国からの貢ぎ物なんです」

「え?」
「え?」

 あれ?なんかオレ間違っている??

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