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15未練はない

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「ルミエール。お前すげえな。イスベルク様相手に……」
 ユージナルがぽかんとしている。何が凄いんだ?もしかして。皇太子って身分が高いから頭って触っちゃダメだったの?
「……ごめんなさい。頭触っちゃダメだったかな?」
「いや。ルミエールはいいんだ。気にしないで触ってくれ」
 俯き加減に話すイスベルクの耳が赤い。まさか照れているの?わわわ。なんかこっちも恥ずかしくなってきた。そうだオレおでこにちゅーしちゃったんだよな。あれ?でもこれはおまじないだからいいのか?あ~なんか顔が熱いっ。
「あの。俺お邪魔でしょうかねえ」
 ユージナルが胡乱気な顔でこちらを見だした。
「え? こ、これはおまじないなんだよ。心が元気になるんだ!」
「そうか。いいおまじないだな」
 イスベルクがほほ笑んでくれた。おお、美形がほほ笑むと破壊力がすげえ。

「っ! ユージナル」
「わかっていますって。ルミエール、少し休憩するぞ」
 急に二人がピリピリしだした。追手が来たのか?御者ぎょしゃに馬車を路肩に止めるように言うとイスベルクに抱きしめられた。
「じっとしていてくれ。すぐに終わらせるから」
 バキッ!ゴキ! にぶい音が馬車の外でする。先に降りたユージナルが交戦しているのだろう。ぎゅっと抱きしめられたと思ったらイスベルクも目の前から消えた。速い。今ここにいたのに。馬車の窓から外を見ると敵が一人ユージナルに押さえられていた。他の敵は?どこ行ったんだ?遠くに投げ飛ばしたの?オレも参戦したかったのに。

 イスベルクが手招きするから馬車から降りて近づいてみる。そこには見たことがある顔の男がいた。オレが虐げられているのをときどきうすら笑いで見ていたやつだ。
「この人、炎の城に居ました」
「やはり追手か。なぜにしつこく追うのだ?」
「そっちが先に攫っていたのだろうが!」
 え?オレがさらわれたことになっているの?なんで?ちゃんと王命とやらをもらったよ。
「どういうことだ?」
「正式な交易の手続きをする前に第五王子を人質に逃げたのだろう!」
「「はああ?」」
 そうか。交わした契約内容が自分に不利だったからしなおす口実が欲しいのか。それにしても。こいつ……。
「僕が第五王子だと貴方はわかっていたのですね?」
「あ?え?お前が第五王子?あいつはもっと小汚いウスノロだったはずじゃ……」
 ピシピシッ!音を立てて男の足が氷ついていく。イスベルクが眉間に皺を寄せている。怒った顔もかっこいい。だけどさ。これってオレに対する侮辱だよね?オレが怒っていいよね?
「ひっぃい」
「待ってイスベルク。僕に……にやらせて」
「わかった」

 オレは手のひらにチカラを込めるとぽうっとろうそくの炎が灯る。
「はっ。ろうそく王子になにができるっていうんだ」
 やはり炎属性はこれ以上出来ないのか。じゃあ他ので行こう。オレ自身も何が使えるか試してみたいものね。
「確か電撃が使えたはず……あとは縛り上げておきたいな……何かないかな」
 バリバリッと男に電撃をくらわせてから、近くの木の枝を伸ばして男をぐるぐる巻きにしてみる。
「ほぉ。面白い魔法だな」
「ええ。初めて見ましたよ」
「へへ。初めてやってみたんだ。あんまり戦いには向いてないかもしれないけど」
「いや。これは使い方次第ではないか?」
「そうですね。訓練次第でいろいろ使いこなせるようになるでしょう」
「ほんと? ぜひ!是非訓練してください!」
「おう。だが俺らの戦闘訓練は厳しいぞ」
「がんばります!イスベルクと一緒に戦いたいんだ!」
「……ルミエール。その気持ちは嬉しいが血なまぐさい場所にお前を連れて行きたくはない」
「でもっ!オレも役に立ちたいんだ!」
 オレはイスベルクの服の裾を掴んでその目をじっと見つめた。頼む。オレも戦える男になりたいんだ。
「わかった。だがお前に何かあれば俺は自分が許せなくなる。だから俺が良いと言うまでは連れて行かない」
「うん。ありがとうイスベルク。オレ頑張る」
「ふふ。何事も前向きなところがルミエールは素晴らしい」
 ぎゅっと抱きしめられて頬にキスをされた。
「さっきのお返しだ。俺からのおまじない」
 うおっ。さりげなくちゅーするなんてカッコいい。オレも出来るようになりたい。 
「あ~。はいはい。まずは体を鍛えような」
 ユージナルがオレの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

「むぐむぐぅ!」
 足元でぐるぐる巻きの男が暴れていた。
「お前はこのままにしておく。仲間がそのうち来るだろう。俺がそちらの王と交わした契約は正式なものだ。サインと捺印もあるぞ」
「今まで居なくてもいい扱いをされていたんだ。オレが居ようといまいと炎の国には損はないはず。つまらない我欲のために周りを振り回すことはしないで欲しいと王に伝えろ!」
 まったく腹が立つ。父親になるのかもしれないがなんでこんな王様のもとにルミエールがいたのかがわからないよ。チカラがすべてじゃないのにな。

「ルミエール。お前本当に王子だったんだなあ」
 ユージナルが感心したようにしみじみという。だから前から言っているじゃん。第五王子だってば。いや、もう王子ってのに未練はないなあ。

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