上 下
10 / 41

9王と対面

しおりを挟む
 王命って何? 絶対ってこと? 逆らうなよってことだよね?
「ありがたく喜べ! 役立たずのお前が、やっと我が国の為に役にたつのだぞ!お前はあの冷酷皇太子への貢物として結婚が決まったのだ」
「もっとわかりやすく説明してもらえますか? 国を代表して嫁ぐことに意味があるってことですよね?」
「お、お前そんなに長く話すことができたのか?」
 こいつオレをなんだと思ってやがる!

「まあ今のお前の容姿をみれば、あんな冷酷皇太子の元に嫁がせるのはちともったいないが」
 こりゃダメだ。聞き方を間違えた。
「氷の国の何が欲しいのですか?」
 単刀直入に聞けば良かった。
「そりゃあミスリルだろう! あれさえあれば魔法効果が倍増する! 本当はあの王子を人質にして氷の国に攻め入るつもりだったがあいつの服はミスリルで出来ていた。だから強すぎて手が出せないのだ!」
 バカだ。脳筋の集まりだと思っていたがバカすぎる。おそらくイスベルクはミスリルの服を着てなくても強い。
「それだけではないでしよう?」
「あとの難しいことはわからん! 父上に聞け! 今から連れて行く」
 オレが王に会うの? なんか嫌な予感がするんだけど。

 第一王子エリュプシオンに連れられて城を移動する。行き交う使用人達がオレを見て驚く。なんだ、一応オレがルミエールってことは皆んな理解していたってことか? わかってて見て見ぬふりをしていたのか。下手に手助けしてバカ兄達に目をつけられたら困るもんね。へー。そうか。ここにはオレの味方はいなかったんだな。……ルミエールは諦めていたから悲しくはない。ないけど虚しいな。こんな場所に未練はないな。早く出て行こう。

 謁見の間に入ると筋肉お化けのようなデカい身体に真っ赤な髪の大男がいた。うっすらと見覚えがあるからきっとオレの父親。つまりは王様だろうな。
 その向かいにはイスベルク達がいた。なんだここにいたのか。二人ともオレをみて驚いている。ちゃんと着替えたからね。ちょっとは王子らしくなったかな? にっこりと笑ってみせるとイスベルクがオレを睨みつけてくる。ああ、きっと王から無理難題をなすりつけられたんだろうな。ごめんよ。オレまで押し付けられて。申し訳ない思いでいっぱいになる。ちょっとオレ今泣きそうだよ。この際冷遇される覚悟を決めよう。ここから出て行けるだけまだマシだ。それからご飯は一日二回は食べさせて欲しいなぁ。

「……マリアージュ」
 王様がルミエールの母親の名前を呼びやがった。覚えていたのか。なんか嫌だな。
「マリアージュに似ておるな。大きくなった。もっと近くに寄れ」
「お久しぶりです。ルミエールです」
 ぺこりと頭をさげると王がにたりと笑った。なんか気持ち悪い。
「昨夜の晩餐会でイスベルク殿と会談したところあちらはお前が気に入ったようだ。両国の国交のためにお前は氷の国へ行け」
「それで王様は僕を差し出す代わりに何を手にするのですか?」
 今すぐ教えろ。オレが大人しいルミエールのふりをしているうちにな。
「ほう。わしに直接質問するとはなかなか度胸があったのだな。よかろう。聞かせてやろう。まずはミスリル。それと貴重な鉱物の数々。また戦時には援軍を寄こす契約を結んだ」
 やっぱりな。つまりは政略結婚ということか。それでイスベルクは何か得ることはあるのだろうか?
「氷の国には食料や様々な交易品が届くことになる」
 オレの視線に気づいたユージナルが答えてくれた。

「最後に抱きしめさせてくれるか」
 王が手を差し伸べてきた。へえ。息子だと思ってくれていたのか? ルミエールへの最後の思い出にと気を許して近寄ると肩を抱かれ耳元で囁かれた。
「お前には特別な仕事を用意した。隙をみて皇太子の寝首をかいてこい。ワシのもとにその首を持参しろ」
 こいつ! どこまで腐ってやがるんだ? 何でも自分の思いどおりになると思うなよ。

「嫌だっ! 離せっこのくそジジイっ!」
 堪えきれずに本音を言っちまった。ぶわっと殺気広がったと思ったら一瞬目の前が炎に包まれ、すぐにオレの半身が冷たくなっていた。な、なんだ? 何が起こった?
「大丈夫か?」
 心配そうなイスベルクの声がする。いつのまにかオレはイスベルクの腕の中にいた。速い。助かった。オレの暴言に腹を立てた王は俺を焼こうとしたのだろう。それをイスベルクがすぐさま止めてくれたのだ。速すぎて見えなかったけど。王にとってはルミエールという存在はその程度なのだ。またオレの中のルミエールが泣いている気がする。泣くなっ。こんなやつのせいで泣くな。涙がもったいないだろ。

「炎の国の王よ。平和的に交渉に及んだ俺をないがしろにするつもりか?」
 イスベルクのこめかみに青筋がぴくぴくと立っている。
「ぶぁははははは。冗談だよ。冗談。ただの親子喧嘩ではないか」
 親子だと思ってないくせに……。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

処理中です...