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13 食べ物がおいしい

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「美味しいっ! おかわりください!」
 宿屋の主人はとても優しい人で医者の話から食べやすいリゾットを作ってくれた。シンプルな味わいで野菜も柔らかく煮込んでくれていてとっても食べやすい。こんな美味いもん久しぶりに食べた。
「胃腸が弱っているときはスパイシーなものや固形物は控えた方がいいんですよ」
 明日の朝はパン粥を出してくれると言う。この宿最高。

「じゃあ俺が買ってきた肉串がよくなかったのか……」
 ユージナルが凹んでいた。
「違うよ。凄い美味しかったよ。今まで屋台で買い食いなんてしたことなかったもの。はじめて食べられてうれしかったんだ」
 あの肉串も美味しかった。今までルミエールは城の中で生活をしていたからお金というものを知らない。だから屋台で買い食いなんてしたことなかったし、いつかは食べてみたいと思っていた。オレからしたら考えられないけど元々王子様だからそういうものなのかもしれないなぁ。
「ルミエールは良い子だなあ」
 ユージナルがオレの頭を撫でまくる。くそ~。子供扱いしているな。確かにユージナルの方が身体はデカいけど。俺だってまだまだ成長期のはずだ。あっという間に追い越してやる。
「俺も気づかなくて悪かった。これからは今以上に気を付けるから何かあったらすぐに言うんだぞ」
 イスベルクがユージナルの手をペシッと叩いてオレを抱き込んだ。よしよしと言う様にオレの背中を撫でる。やっぱり子供扱いしてる。だけどイスベルクに触られるのは嫌じゃない。なんていうか凄く安心できるんだ。この腕は裏切らないって思わせてくれる。

 オレの体調を見るために数日この宿屋で滞在することになった。ここの主人はロマンスグレーでとっても紳士的。料理も家庭的で美味しい。オレに会わせて素材の大きさや煮込み具合を変えてくれているみたいで本当にありがたい。
「今日は体調も良いようだし少し買い物に行くか?」
「え? 本当? 行きたい!」
 やったぁ。買い物だ。この街にはどんな店があるのかな? ってここはどの辺りなんだろうか? 
「ここは氷の国から近いの?」
「いや、まだ距離はあるが。ここは春の街だ」
 春の街? ああ。そういえば小説幻想奇談シリーズの中で出てきたことがある。穏やかな気候で一年中春なんだ。たしか妖精の国の入り口があったはず?それに中立国である。この国で争いごとは起こせない。妖精たちが邪魔をするらしい。

 街は活気があふれていた。おいしそうなお菓子もたくさん。中でも気になったのがマカロンに似たお菓子。丸くて中にクリームが挟まっていて。いろいろな味がある。旨そうだなあ。
「買ってやろう」
 オレが言う前にイスベルクが動いてくれた。さすが気が利くぅ~。いろいろな味を買ってくれたみたい。
「ありがとう!」
 優しいなあ。イスベルクのどこが冷酷なんだろう? きっと氷魔法を使うからだな。
「喉が渇いたろう?飲み物買ってきますよ」
 ユージナルが買いに行ってくれている間に近くのベンチで休むことにした。オレのペースに合わせてくれているんだな。必ず休憩を入れてくれるようになった。ありがたい。
「イスベルクが買ってくれたお菓子食べても良い?」
「ああ。かまわないぞ」
 オレはマカロンを一つ齧った。ベリーのような果実の味がする。ん~おいしい!久しぶりの甘味!
「美味いか?」
「うん。イスベルクもどうぞ。はい。あ~ん」
 俺が口元にマカロンを持っていくとおずおずと言った感じで口をあける。
「ん……あまいな」
「甘いもの苦手だった?」
「いや。ルミエールの手から食うと旨いぞ」
「ふふふ。何それ」
「はいは~い。俺が居るの忘れてないですかぁ」
 ユージナルが不貞腐れた顔でジュースを配ってくれた。ごめんよ。ユージナルにもマカロンを渡すとイスベルクが睨んでいた。あれ?もっと食べたかったのかな。

 美味しいマカロンは宿のご主人にも買って行ってあげようかなと残りを確認すると。あれ?ひとつ足りない?何かが動く気配がして茂みの辺りを見るとマカロンが浮いている?え?なんだあれ?
「ここから先は徐々に寒くなっていくから羽織れるコートとか買ったほうがいいですよ」
「我が国に戻ればいくらでも厚手のコートや毛皮があるのだがな」
「イスベルク様。この後は速度を落として迂回していく予定でしょ。自足で走る方が速いのはわかっていますがこの子はだと言うのは忘れないで下さい」
「じゃあどの経路で行く……」
 イスベルクたちは忙しそうだから。ちょっとだけ覗きに行ってみよう。オレはその場をそっと離れて足元の茂みに視線を巡らす。小さな茂みの中でマカロンが消えたり隠れたりしている。じっと目を凝らして見るとふわふわしたものが見える。妖精なのか?そういえば小説の中の妖精は甘いものが好きだった。
「全部上げるよ」
 オレは持っていた袋からマカロンを出して茂みにそっと置いた。もそもそと何かが動いて声がする。
((イツモアリガトウ))
「どういたしまして」
 ん?いつもって?前もあったことがあったのかな?
((ココナラアゲレル。ソウダアゲヨウ。アゲヨウ))
「何かくれるの?」
((イイヒト。ナマエ))
「名前?僕の名前はルミエールだよ」
((ルミエール。イイヒト。ルミエール))
 ピカッと何かが光ってふわりと全身を覆ったような気がした。なんだ今の?
「ルミエールどうした?何かいるのか?」
「え?あ、いえ。なんでもないよ。マカロン全部食べちゃったのでまた買いにいってもいい?」
「おういいぞ。そろそろもどろうか?」
 バイバイ。妖精さんたち。


「明日ここを発つ予定なんだが、馬車に乗ってみるか?」
「馬車? 乗ってみたい!」
 乗りたい。乗りたい。オレが城で寝どこにしていたのも馬小屋だったし、馬車とか馬に乗ってみたかったんだよね。
「……となるとまた追手がくるかな?」
「ですね」
「こんなとこまで追ってくるなんて暇なやつらだな」
 なんで追いかけてくるんだ? よっぽど城から抜け出されたのが嫌だったのか? 王様が言ったんだよな。オレを貢物にするって。じゃあいいじゃんか。オレだって喜んでいるし。
「くくく。奴ら気づいたのだろうな」
「そうでしょうね。まったく」
「気づいたって何を?」
「ルミエールを俺に嫁がせるというのは王に一筆書いてもらったが、俺が書いた契約書は肝心な部分が抜けているのさ」
「肝心な部分?」
「ああ。ミスリルという鉱物を炎の国に届ける。だが献上するとも、継続的に届けるとも書いてない。それに戦時に援軍を出すのはこちらに余裕があるときのみ。文面は難しくしてあるから王はそこまで読み解けてなかったのだろう」 
「まあ最初の一回ぐらいはご祝儀がわりにミスリルを送ってやってもいいでしょうね」
 オレは難しいことはわからないが二人が凄く悪い顔になっていた。

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