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3小説の中の人

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 俺が読んでいた小説。幻想奇談シリーズはオムニバス形式でいくつもの単独な話が書かれていてそれが最終的にひとつにまとまっていくという作風だった。その中のひとつに炎の国で虐げられる皇子の話や、また別の話として北の氷の国の冷酷な皇太子イスベルクの話も載っていた。

 これって。幻想奇談の小説の中の世界って事? わわわ。ひょっとして俺って「中の人」になっちゃったの? ほらよくある「〇〇の中にいる人」って言うやつ。
 こうしていても徐々にルミエールの記憶と俺の陽向ひなたとしての記憶が融合していく。
 小説の中のルミエールってさ。炎魔法が使える父親や兄達に憧れてたんだな。だからうとまれて気弱になっていったみたい。物語の内容を知ってる今なら外の世界を知らなかったせいだと思う。屋敷に閉じこもって本ばかり読んでたから知識があるのに経験値が0に近い。魔力量も誰よりも多いのに炎属性だけがまともに使えなかったんだ。絶望したルミエールは魔力が暴走し国を滅ぼしてしまうってバットエンドのお話だった。
 ひゃあ。俺ってヤバかったの? あのまま行っていたらこの国が失くなってた? 気付いて良かった。さて、これからどうするかな? 前世の俺は腕に自信があったが骨と皮の今の身体じゃ戦えないだろな。


「く、くくく。ルミエールは面白いな」
 傍で座っていたイスベルクが急に笑い出す。
「ほへ? 何がですか?」
「ふふふ。百面相していたぞ」
 ユージナルも笑顔でいる。しまった。考え事に集中していたのが顔に出ていたようだ。
「すみません。ちょっと考え事をしていたので」
「やはり、俺の言葉を聞いてなかったのだな?」
 苦笑するイスベルク。くそっ。俺と違ってイケメンだな。なんかオーラが凄い。
「はい。えっと、どんなお話でしょう?」
「まずは俺を助けようとしてくれた礼を言おう」
 イスベルクが軽く頭をさげた。うっわー。顔だけでなく紳士なの? 欠点ないんじゃない? 俺みたいな格下にもお礼言ってくれるんだ? 噂はあてにならいないね。だってこの人冷酷な……。
「ぁ。いえ。その。とんでもないです」
 なんだか申し訳ない気がした。だって俺が勝手に突っ込んで階段から落ちたんだもの。俺が居なくてもユージナルが助けたかもしれなかったし。代わりに落ちてケガして看病までしてもらって。なんか俺カッコ悪いしなぁ。
「……珍しい。貴方が頭を下げるなんて……」
 ユージナルが瞠目しながらイスベルクを見ている。
「うるさい。お前は黙っとけ」
 イスベルクがユージナルを睨みつけると部屋の温度が下がった。うぉ? やっぱり噂は本当だったのか?

「こほん。あ~。なんだ、その。俺を庇って落ちた前後の事は覚えているのか?」
「あんまり……。たしか3番と4番が兄弟喧嘩をしてた……ような?」
「あれが喧嘩ってわけないでしょう?」 
 ユージナルが不服そうに言う。
「ああ。故意に狙ってきたのではと思っている」
 ええ? そうなの? なんで? お客様なんでしょ? 
「だいたいお忍びで来てるってことでこちらは断りを入れてるのに城に軟禁するつもりなんでしようかね?」
 ユージナルがぷんすか怒っている。
「お忍び?」
「まぁな。ちょっと訳があってな」
「ええ。そうなんですよ……おや? ルミエールは今3番と4番と言ったな?」
「はい」
 まだ頭痛はするし記憶があいまいなところはあるが、直近の出来事は鮮明に覚えてるぞ。あれは第三王子のグロウと第四皇子のヴァンだったよな? 間違ってたっけ?
「使用人が主人となる王家にそんな言い方をしてもいいものなのか?」
「は? ……ああ。俺……僕は一応第五王子なので」
「「ええっ! 第五王子?!」」
 二人とも仲良しだな。声がそろってたぞ。めっちゃ驚いた顔でこっちを見てる。あちゃ~。そうだよね。こんなボロボロの格好でひょろひょろだもんね俺。使用人と思われていたのかあ。まあ以前のルミエールならそれもありかと凹んだのかもしれないな。
「炎の国の王子は四人までしかいないと聞いていた」
「……っ。四人って……」
 そういう事か。よほど父王は俺の事を嫌っていたんだな。チカラのない側室の子は数えるにも価しないってことか? 胸が痛い。長い針で突き刺されたようだ。きっとこれは俺の中のルミエールが傷ついているんだ。こんのやろう! 怒りで握った手が震えた。ちくしょう! 王家なんぞぶん殴ってやりてぇ! 俺の目から悔し涙があふれた。

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