石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き

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6 元夫は呪いで種無しにされていました

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「ばっかじゃないの!  種無しでもまともな人間なら考えなくもないけど、女を家畜のように扱うあんたみたいな男、こっちからお断りよ!」

私を庇ってくれたミリーが睨みをきかせると、アース様は前屈みになって苦しみだしました。
ミリーは異能者です。
まさか今、アース様に呪いをかけているのでしょうか?

「フッ、ふっははは……あ、いや。これはまた凄惨な棘だな。玉が縮みそうだ」
「お祖父様、お願いだから姉さんには聞こえないようにして」

だから聞こえています。
そっとミリーの肩を掴むと、ミリーは振り返って私の胸に顔を埋めました。

「アイリス様。全部お話します。だからどうか……私を忌み嫌わないで下さい。私はカトレン家の一員になれて、とても嬉しいのです。異端な私は……ここでしか生きていけないのです。だからどうか……嫌わないで……」
「ミリー……どんな事情があろうとも、私がミリーを嫌うわけないでしょう?」

ミリーは身をていして私を庇ってくれた命の恩人です。例え私がアース様の種で身籠った時に子を始末する気だったと言われても、それは王家から命じられていたからこそです。そんなミリーを責める気はありません。
私はミリーの柔らかな赤毛を撫でながら、安心させるようにそう伝えました。



苦しみだしてついには気を失ったアース様は私兵達が連れて帰りました。
その後、屋敷に戻って事情を聞いたところ、ミリーには人を呪い殺すまでの力は無くとも、人の繁殖機能を呪いで奪う力がありました。子を宿す前に、種や卵を殺す異能なのでしょう。

アース様が種無しになったのも、ミリーの異能を受けたからでした。

しかしミリーは何故私ではなくアース様の繁殖機能を奪ったのでしょう?

「私はもしもの場合に備えて大公王弟殿下からアイリス様が身籠らないようにしろと指示されておりました。ですがどちらの繁殖機能を殺すかは、指示されておりません」
「……でも、そんな……私が不貞を犯した場合にも備えて、女としての機能を殺す方が簡単だったでしょう?  そのことで後で大公からミリーにお咎めはないの?」
「うふふ。アイリス様、侯爵家よりもカトレン家の方が王家に優遇されておりますよ。どちらの機能を殺すかなんて、指示されなくとも解りきったことでした」

そうなのかしら?
そう思ってお祖父様を見ると頭を撫でられました。

「倅は王家の判断を待つことなく、勝手にお前を嫁がせたからね。ゼネラル家も異能を持たぬ不貞の子だとしても、お前を嫁にすることでカトレン家と縁を繋いで異能の呪力にあやかるつもりだった。長年王家に尽くしていたが、奴等が侯爵位を不満に感じているのは、有名だったからね。三大公爵家に成り代わろうと、暗殺計画も企てていると噂も立てられていたのだよ。お前を嫁がせた倅は、その手助けをしなかったのがまだ不幸中の幸いだ。でも王家の懐刀とあろう者が、愚かな真似をしたものだ」

……ならきっと父は、もう私の顔も見たくなかったのでしょう。私の顔は母にそっくりだったから、出来るだけ遠くに嫁がせたかったのでしょうね。

それかもしかしたら父は、母とお祖父様の関係に気付いていたのかもしれません。だって母の肖像画を一枚だけ残すくらいです。父は母を愛していたのでしょう。人は愛する人の変化にそれとなく気付くものです。

そして母も、嫁いだ義務を果たす為とはいえ肉体関係を持ったことで父からお祖父様に心を移していたのかもしれません。この国は女でも家督を継げます。それなのに私を生んだ後も、お祖父様からクルーヤを授かったのですから。

考えていてもキリがありませんね。真実を知りたくとも当人である父と母はもういないのですから。出戻った私もそろそろ前を向かなければ。

「あっ……そうだわミリー。どうしても貴女を側に置きたかったから、貴女の意思も聞かずクルーヤの妻にしてしまったのだけれど、それに関しては嫌ではなかった?」
「?  とくには……クルーヤ様が私をお嫌いでしたら、アイリス様の侍女として生きていきます。それに異端な私と子を設けるにも、嫌悪感があると思いますので」

ミリーのその言葉に紅茶を飲んでいたクルーヤが噎せて、カップを置きました。

「……あらかじめ言っておくけど呪力はこちらの方が上だからね。異能者にしか認識できないようなそんな脆弱な力で呪ってもこちらは痛くも痒くもないからね。それにその点に関しては、嫌悪感も何も無いよ。なんせ同じ異能者だ。姉さんが私を忌み嫌わないのと同じことだよ」
「……でしたらやっぱり私、カトレン家に引き取られて、今とても幸せです。これからは、普通に生活できますね!」

どういう事でしょうか?
クルーヤが立ち上がって「これからよろしく」とミリーと握手をかわしました。

「ふ、二人とも夫婦喧嘩とかしないようにね?  クルーヤも、ミリーを蔑ろにしたらアース様みたいに呪いを受けるかもしれないからね、ねっ?」
「……はぁ。うん。わかった。その点は本当に大丈夫だから、心配しなくていいよ」

それならよいのですが。
私は今まで助けてくれたクルーヤとミリーになんの恩返しも出来ていません。これからは二人が幸せになれるよう、姉としてその手助けをしていこうと思います。

……そう思っていたのですが。
しばらくするとお祖父様から縁談の話をもらいました。それも王家と関係のある男性で、そんな方が出戻りの私と結婚したいでしょうか?

とりあえず会うだけ会ってみなさいと言われ、私はお見合いをしました。


「…………初めまして。ハリーと申します」


お会いした男性は、赤い髪と瞳のとても美しい殿方でした。なんとなく、ミリーにも似ているような。そのせいか、初対面にも関わらず胸に暖かい気持ちが込み上げてきました。
クルーヤに抱き締められた時や、お祖父様に頭を撫でられた時に感じる安心感とはまた違った、良い意味で胸が締め付けられるような、不思議な気持ちでした。


「ハリー様……わ、わたくしはアイリスと申します。もしよろしければ、お庭に歓談場を設けましたので、ご一緒に茶でも……」
「……は、はい!  僕なんかでよければ是非ご一緒させて下さい!」
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