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3 母は不貞を犯していました

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「倅がすまなかったね」

あれから二週間後。
父の葬儀に出席したお祖父様が私の頭を撫でました。父にそっくりなお祖父様に触れられて、胸の中が暖かくなるような、不思議な感覚がしました。クルーヤに抱き締められて感じる安心感とはまた違ったものです。大きな翼の下にいるような、それは酷く落ち着くものでした。

「……いえ。既に引退していたお祖父様に、何から何まで……本当にお世話になりました」

当時、お祖父様は私が晩成型の異能者だと声を上げたことで、既に当主だった父から遠く離れた領地の屋敷に閉じ込められていました。そして先日、憔悴しきっていたお祖父様に再び当主となってもらい、私を籍に戻す手続きをして頂きました。あと数日で私はカトレン家の娘に戻ります。クルーヤが成人するまではお祖父様に頼るしかないのです。心苦しくて自分の不甲斐なさを呪いたくなります。

弱っていたお祖父様は人の手をかりなければ歩けませんでしたが、今は杖を片手に自立しています。この数年、抵抗しつつもずっと父に呪われていたそうです。それが解けたことで、お祖父様は再会した時よりも心なしか顔色がよくなっていました。今は壁に掛けられた母の肖像画を前に、穏やかな顔をしています。

「……すまなかった」

お祖父様が肖像画の母を、触れずに撫でました。

「お祖父様。お母様の味方でいてくれて……本当にありがとうございました」

父に不貞を疑われ、母はどれほど悔しいおもいをしたことでしょう。母の無念を考えると、やはり父を恨まずにはいられません。
誰も味方がいないのは悲しいことです。せめて私にはクルーヤがいたように、お祖父様の存在が母の心を僅かでも救っていたらいいのにと……そう思わずにはいられませんでした。しかし母はもういないのです。母が最後にどんな気持ちを抱いていたかなど、今はもう知るよしもありません。

「アイリス」

呼ばれて顔を上げると、お祖父様は母の肖像画を見つめたまま言いました。

「秘密を教えよう」
「え?」
「倅には子をつくる力が無かった。種無しだったのだ。よって君達は私の実子なのだよ」
「…………」
「だから何も遠慮することはない。アイビーは私の元にきてカトレン家の嫁として後世に異能を遺し、役目を全うした。義務を果たすだけじゃなく、肉体も素晴らしい嫁だった。何度倅から奪い取ろうと思ったことか」
「…………」
「だが倅がアイビーを疑ったのは、予想外だったよ。何も気付いていなかったからね。アイビーと私だけは、アイリスが異能者だと解っていた」


お祖父様の告白に私は何も言葉を返せませんでした。父が種無し?  母がお祖父様と?  私とクルーヤは、お祖父様の実子?
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