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1 石女を理由に離縁されました

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アース・ゼネラル様と政略婚して三年。
私たち夫婦は子供を授かりませんでした。

義母や義父から風当たりが強くなってきて、とうとう夫から離縁されてしまいました。

そんな彼等に対して私は「不幸になればいいのに」と願ってしまう。これは私の悪い癖です。

出ていくため少ない私物を荷造りしていると、声をかけられました。

「アイリス様……道中お気をつけて。ご自愛下さいませ」

ゼネラル家の侍女が自分の外套と水筒を私に持たせてくれました。彼女はミリー。年齢は私よりひとつ下の17歳で、赤毛の美しい女性です。ゼネラル家で唯一私によくしてくれた人でもありました。

「ええ。本当に……今までありがとう」

私にお金や権力があれば、ミリーを実家に連れて帰りたかったです。もっとも、私は実家にも見離されているので、到底無理な望みですが。


離縁後に実家に戻ってきて、屋敷には入らず自分の部屋へ向かいました。敷地内にある物置部屋です。私は父に冷遇され、屋敷ではなくここに住んでいました。ドアを開けると、弟のクルーヤがいました。

「姉さん、おかえりなさい」

クルーヤは両親の実の息子ですが、私は母が不貞を犯した時に授かった子でした。冷遇されるのは当然のことです。しかしクルーヤとは半分血が繋がっています。そのお陰で子供の時から弟は私が飢えないよう、食べ物を持ってきてくれたり、私が凍えないよう、毛布や服を持ってきてくれたり、今まで幾度となく助けられてきました。私の家族はクルーヤだけです。

「会いたかったよ。ずっと心配してたんだ」

実家の屋敷を見ても、物置小屋を見ても、なんの感情もわきませんでした。しかし母譲りのクルーヤの優しい笑顔を見て、ああ家に帰ってきたのだと感じます。

私はクルーヤに歩み寄り、微笑み返しました。

「……ありがとう。そんな風に言ってくれるのは貴方だけよ。あと、実家に戻ってくるよう馬車を手配してくれたわね?  貴方にだけは迷惑をかけたくないから、話を聞いたら出ていくわね」

離縁先の家まで迎えにきた顔馴染みの御者が「坊ちゃんがアイリス様に話があるそうです」と言っていました。クルーヤのことだから、きっと私を庇って実家に留めておこうとする筈です。嫁ぐ前も何度も酒に酔った父に胸ぐらを掴まれ、外に放り出されそうになりました。その度にクルーヤに助けられました。
しかし当主となるクルーヤにこれ以上迷惑はかけられません。それにこんな姉がいては、クルーヤの未来のお嫁さんとなる方にも迷惑をかけてしまいます。

「出ていく、って……なんで?」
「15歳で嫁いで……今は18歳になったわ。出来る仕事もあるし、私のことは心配しないで」

出来る仕事……。
それは娼婦です。
貴族でも女は18歳から娼婦になれると、元義親からそう言われました。石女には天職だとも。……確かにそうなのかもしれません。

「…………出ていっては駄目だよ。だって姉さんはカトレン伯爵家の本当の娘なのだから」
「…………え?」


泣きそうな顔をしたクルーヤに手を引かれ、屋敷の中へと連れていかれました。
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