上 下
1 / 10

1 婚約解消されたので若返りました

しおりを挟む
セラス・ヴァートン男爵令嬢は24歳の時ハンス・ロッセン卿から婚約を解消された。

「すまないセラス。騎士として世話になった子爵にうちの娘の婿にならないかと言われて、断れなかった」
「……そんな。ハンス様がどうしてもわたくしを妻にと望んだから、医師の道は諦めて騎士の妻になる為、今まで奮闘してきましたのよ?」

それを承知の上で今さら婚約を解消するのかと、セラスはハンスに詰め寄った。だが返ってきたのはため息と共に言われた酷い言葉だった。

「仕方ないじゃないか。それにこの5年で君は老けただろう。エルフの血を引く君は、確かに今も美しい。しかし美少女が美女に成長すると……なんというか、普通だ。新鮮味や魅力を感じなくなった」
「…………え?  まさか見た目の事を言っているのですか?  エルフの血を引く、このわたくしに?」
「傲慢だな。それに君は美貌に陰りが出始めた24歳……18歳のローズ子爵令嬢の方が若いし肌に張りがある」

セラスは呆れてものが言えなかった。
ハンス様は馬鹿なのかもしれない、とさえ思った。

「そんな顔をしないでくれ。余計老けて見えるぞ。あと、この事はヴァートン男爵も了承済みだ。慰謝料を払ったら、もう二度とセラスを私に近付けさせないと誓約書まで書いてくれた」

確かに、進路変更までして婚約を受け入れて、その5年後にこんな不誠実なことをするハンス様に対してお父様ならそうするでしょうね、とセラスは納得した。

「そうですか」
「ああ、だから今更君がどこに抗議してもこの事実は変わらない。変な噂など流そうと思うなよ。わざわざ法的にも正式な手続きを踏んで解消してやったんだからな」

そう言ってハンスは立ち去っていった。

ため息をついたセラスも踵を返した。

「ローズ嬢は18歳かぁ……男にとったら、見た目だけじゃなく年齢も大事なのね。お父様は20歳も年上のお母様を凄く溺愛していたから……今までは気付きませんでしたわ」

それにしても見た目や年齢、そんな理由で婚約を解消するだなんて……とセラスは落ち込みつつも、次の瞬間、とある目的の為に見た目と体の年齢を16歳に戻した。

騎士のハンスに嫁ぐならとセラスも同じく騎士道を辿った。才能はあったようで、めきめきと芽を伸ばしていった。そのため、日々の鍛練で肌は日焼けしていた。それも透き通るような艶肌に戻り、縮れていた白い髪は絹のようにさらりとした白銀の髪に戻った。女性らしくも引き締まった肉体美はお人形さんのようにほっそりとした手足に戻った。

セラスは見た目が不老のエルフの血を引いていた。寿命は人間と同じく百年前後しかないが、その血の力で年齢を自由に操作できた。6つ年上のハンスに合わせて今まで見た目を実年齢にしていたのにと不貞腐れながらも、セラスは年齢操作により気持ちを新たに家路を辿った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

【完結】エブリン、君を愛してる

おもち。
恋愛
俺とエブリンの婚約は、昔から折り合いが悪い王都派と辺境派が良好な関係なのだと周囲に印象付け、婚姻する事でその印象付けをより決定的なものにする完全な政略だった。 だけど俺はひと目見た時からエブリンを愛してる、それは昔も今も変わらない。 幼い頃から仲睦まじく過ごしてきた俺たちだが、王都派の令息達からの侮蔑や蔑みの視線に日々心がすり減っていくのを感じた。 父からはこの婚約は政略だと何度も釘を刺され、次第にエブリンにも政略相手だと思われているように感じて心が憔悴していった。 王都派と辺境派のために仲良くしろと言われ、俺はエブリンを愛しているのに誰にも思いを分かってもらえない不安と苦しみから解放されたくて、他の女で気を紛らわせた。 その結果が何をもたらすかも考えずに…… ※婚約者がいるのに他の女性に手を出す節操のない男が登場します。 ※不快に思われる方は読むのを控えてください。 ※ハッピーエンドではないので読む際、十分にお気をつけ下さい! ※救いのないお話になってます、ご注意ください。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

恋という名の呪いのように

豆狸
恋愛
アンジェラは婚約者のオズワルドに放置されていた。 彼は留学してきた隣国の王女カテーナの初恋相手なのだという。 カテーナには縁談がある。だから、いつかオズワルドは自分のもとへ帰って来てくれるのだと信じて、待っていたアンジェラだったが──

振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。 自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。 その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。 一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…   婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

初夜に夫から「お前を愛するつもりはない」と言われたわたくしは……。

お好み焼き
恋愛
夫は初夜にわたくしではなく可愛い少年を侍らしていましたが、結果的に初夜は後になってしました。人生なんとかなるものですね。

処理中です...