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162 調査報告

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 魔導王国イルーム、王都の冒険者ギルドでギルドマスターとの会談を終えたルリ達。
 冒険者たちの声援を受けながらギルドを出ると、宿へと向かっていた。

「まず調べたいのは、王女が実在するのかどうかね」
「その上で、王女がどうなったのかも……」
「それによって、シェラウドの狙いがわかるかも、という事ね」

 ギルドマスター、アプトロの話では、国王ラグマンには優秀な姉がおり、その姉を追放したのが導師シェラウドとされている。
 詳しくは話されなかったが、アプトロも裏事情を知ってそうだった事を鑑みれば、他にも知っている者はいると推測される。

「ユニコーンの話も、興味深かったわ」
「昔の王女の影響でユニコーンが魔導王国を敵視している可能性があるのよね?」
「同じ王女だからミリアに反応したのかなぁ?」
「でも、別に恨まれているような殺気は感じなかったけどなぁ」

 好意的とは言えないものの、殺気と言うよりは卑猥な視線を感じたというミリア。
 事実、戦いは起こっておらず、交戦の意思があるとは考えにくい。

「あの角に、薬効があるとはねぇ。どうやって病を治したのかしら?」
「砕いて粉にして飲んだとか?」
「角で触れれば治るって事もあるかも知れないわよ?」

「いずれにしても、角に魔力があるのじゃない? 伝説の魔物なんだし……」
「それって、立派な魔道具よね……」

 ユニコーンの角を魔道具として利用した、その仮説は、この国であれば十分に成り立つ。

「はぁ、分からない事だらけね……」
「とりあえず、早く宿に戻って兵士の調査報告を聞きましょう」



 宿では、調査に向かっていた兵士が結果の報告にと待ち構えていた。

「ミリアーヌ様、早速ですが、ご報告いたします」

 まず、国王ラグマンの噂。
 10歳で国王の座につかされ、以来8年間、国に対して何かを行う訳でもなく、文字通りのお飾りとして君臨している。

 ここ数年は、街に出てくる事も増えたらしく、その際に女性を物色したものだから、街での噂は最悪だ。女好きの無能なデブ……そう言われているらしい。
 そんな噂話を抑え込む目的もあり、街の警備は日増しに強くなっているとの事だった。

 国を取り仕切る12人の導師については、まだ情報が不足だった。
 ただ、最初から今の12人が国を治めているのではなく、商売で成功した者や軍部で頭角を現した者が、権力を握り、導師となった。

 12人の導師という枠があるというよりは、たまたま、今は12人という事で、多くなったり少なくなったりする事もあるらしい。

 シェラウドは、先代の国王の時代からの重鎮で、貴族の出身だ。
 クローム王国のレドワルド王と会っているのも先代の頃らしい。その後、何かしらの政変、クーデターがあり、現在の体制になったと考えるのが妥当だ。

「でもさぁ、そんな事件が起きたら、もっと広まっているはずじゃない? それこそ、隣国のクローム王国にも……」

「そうよねぇ。それに、他の王族とかは何してるのかしら?」

 仮にクーデターのような事件があったとすれば、もっと騒ぎになっているはずである。また、他の王位継承者だって居て然るべきだ。
 少なくとも、クローム王国では、王族の血筋は大勢いる。

「水面下で実行された……。事実は捻じ曲げられた……」
「かなりの策略家がいるって事ね……」

 シェラウド一人で全てを為したとすれば、もっと独裁者になっているはずである。
 綿密な策略を張り巡らせ、事実を隠せるだけの組織と策士が裏にいる。そう考えるのが、妥当だ。



「あの、皆さん、ちょっと待ってください。目的が変わってますよ……」

 メアリーの言う通り。いつの間にか、魔導王国の闇に挑もうとしていたルリ達であるが、本来の目的はそこではない。

「そうだった。目的は、今の偉い人達と仲良くなることよね」
「確かに……。裏事情に口出したり、真実を暴く必要は無いのよね」

「でも、困ったわ。信頼できる導師を見極めて国交を進展させるつもりだったけど、今の状況だと、誰も信頼できないわね……」
「国王は論外だしねぇ……」
「かと言って、冒険者ギルドや商業ギルドと話しても、何も変わらないわよ」

 クローム王国としては、東で隣接する魔導王国との信頼関係を結び、西の帝国の脅威に集中したい。
 しかし、現在得られた状況から判断すると、むしろ魔導王国も危険な状況にしか見えない。


「無理に媚び売る必要はないわよ。本音は、信頼できる人だけと話して、あとは、無難に!」

「そう言えば、商業ギルドのシブルセは、どうだった? 信頼できそう?」

「その件ですが、導師シェラウドと直接的なつながりは薄そうです。ただ、シェラウドと協力関係にあると思われる3人の導師が、商人出身となっております。その3人の導師を通じて、実質的には、シブルセはシェラウドに逆らえない状況があると推測されます」

「という事は、シブルセ自体は、そう悪い人では無いのかな? でも、弱みか何か、握らされていると……?」

「おっしゃる通りでございます」

 兵士の報告によれば、商業ギルドと導師の癒着は、可能性が低いらしい。
 ただ、商業ギルドに物言える立場の導師が3人おり、シェラウドと繋がっていると。

「ありがとう。引き続き調査をお願いね。あと、冒険者ギルドのアプトロについても、念のためお願いするわ」


 ひと通りの調査報告を聞き、兵士を下がらせる。
 部屋には、ルリ達『ノブレス・エンジェルズ』の4人と、同行している文官だけが残った。


「先日のルリとの話も、筒抜けと考えた方がいいわね」
「明日の職人たちとの勉強会も、情報は伝わると考えた方がいいわ」
「誰かが接触してくる可能性もあるか……」

 今回厄介なのは、クローム王国の使者として王女ミリアや文官が対応するケースと、冒険者ルリが対応するケース、2通りの接触が存在している事だ。
 ルートが複数存在するため、いつ、誰が、どのように接触してくるかわからない。

「とにかく、明日の勉強会ね」
「注意しましょう……」

 勉強会は、冒険者ルリとして開催するので、ミリアとセイラ、メアリーは護衛の立場で同行する事になる。
 その際に導師が接触するような事があれば、文官同席での会談を行うように求める事にした。

 単純に魔道具の話を聞きたいというだけなら難しいが、交易に関わる話があるとすれば、王家の庇護下にある事を理由に、文官の立ち合いを求める事も可能だ。


「では明日、頑張りましょう」

 ひと通りの情報交換、そして今後の方針。
 クローム王国の今後を左右する話し合いを終え、夕食にする。


「熊と牛、宿の人にも渡していいかなぁ?」
「いいけど、変なことしないでね。この宿だって、導師の誰かと繋がってると思うから」
「ふふふ、大丈夫よ!」

 宿の従業員の胃袋を掴む。それがルリの狙いだ。
 信頼できるかどうかは微妙だとしても、好意的になってくれれば、話も伝わりにくくなるかもしれない。

「アルナ、イルナ、行くわよ~。ジビエ鍋、伝授しましょう!!」

 他国の闇に巻き込まれつつある事を感じているルリは、敢えて明るく振舞いつつ、厨房へと向かっていく。

(私、緊張してるのかなぁ……)

 明日に控えた勉強会。
 なんとかして、魔道具作成の秘密を入手したい。

 既に2年近くなる異世界の生活で、魔法……魔力に関しても、少しは理解できてきた。
 地球の、科学的な知識と組み合わせれば、解き明かせるかもしれない。

(ダメダメ、心を強く持たなきゃ……。
 決めたんでしょ、ルリ! 便利のためなら自重しない、それが私……)

 勉強会で話す内容、それによって、世界が変わる可能性がある。
 何より、魔道具の製造方法を解き明かしたとして、それが広まると事だけでも、世界を変えてしまう。

(歴史が変わらないように慎重に。でも、結果は求めていこう!)

 決意新たに。
 気を引き締めるルリ。

 歴史に残る勉強会が開催されるまで、あと半日……。
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