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132 グルメクラブ

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「戦闘準備!! まずは遠くから魔法攻撃で様子を見ましょう!」
「「「はい!」」」

 フロイデン領の漁師町に到着し、冒険者ギルドで受けた討伐依頼の、キングクラブに相対するルリ達『ノブレス・エンジェルズ』。
 想定外に巨大な蟹を前にして、緊張が走る。

火球ファイヤーボール!!」
氷槍アイスランス!!」
火の鳥フェニックス!!」

 ボン
 パキン
 ボシュン

 ミリア、ルリ、メアリーがそれぞれの得意魔法を放ち様子を見る。
 セイラは突進された時の事を考えて大盾を構えている。

「うん、思った通り、何も起こらないわね……」
「気付かれてすらいないかも……」
「まぁ、怒って襲ってこなかっただけ良しとしましょ……」

 通常の魔法では、硬い甲羅に傷を付ける事すら出来なそうである。
 だからと言って、接近しての近接戦闘は、無謀であろう。


「ルリとメアリーは離れててくれる?
 どうせ美味しくないんでしょ、燃やしてみるわ!!」

 ミリアが大魔法を放つらしい。
 何が起こるか分からないので離れて待つルリとメアリー。
 セイラは、ミリアを護衛しつつ、魔法が放たれ次第、下がって合流する。

火炎旋風フレアストーム!!」

 ごぉぉぉぉぉぉぉぉ

 だんだん見慣れてきたミリアの大魔法。
 火炎の竜巻がキングクラブの軍団を包み込み、辺りに轟音が響き渡った。
 煙でよく見えないが、直撃した事は間違いない。



「殺ったの!?」
「そ、……それは言っちゃダメ!!」

 ミリアの盛大な死亡フラグを合図にして、燃え盛る火の中からキングクラブがゴソゴソと向かった来るのに気付く。

「ちょっと! 燃えてるのに動いてるよ!」
「より凶悪になったような……」
「とにかく、氷壁アイスウォール!!」

 消火も兼ねて氷の壁を展開。
 少し時間を稼ぎつつ、必死に逃げるルリ達。


「移動は遅いから、逃げるのは問題ないわね……」
「でも何の解決にもならないわ! 私たちは冒険者、あれは討伐対象!!」
「アレを倒して、美味しいグルメクラブをゲットするのよ!!」

 50メートルほどの距離まで離れると、再び戦闘態勢をとる。

「少しはダメージあるのかしら?」
「どうでしょ? 完全に敵認定でこっちに向かって来てるけど……」

 竜巻で巻き上げられた泥にまみれて汚れているのは分かるが、傷ついているようには見えない。

(やってみるしかないか……)

「私に任せて。試したい事があるの!」
「何? 作戦でもあるの?」
「作戦と言うか……。女神の魔法の話、したでしょ。白銀装備全部を装備すれば、使えそうな気がするのよ」
「ピンチの時にしか使えないって魔法? そう言えば兜被ったらチカラが溢れるとか言ってたわね」
「うん、普段でも似た事は出来たのだけど、装備中なら、より強い魔法になると思う」

 一歩前に出ると、装着そうちゃくの魔法で白銀の女神装備に着替えるルリ。
 頭の中に、リミット一部解除の声が聞こえ、魔力が強まるのを感じる。


絶対防御バリア

 試しに、ミノタウロスとの戦いで使用した防御魔法を呟くと、ミリア達をドーム状に覆う膜が出来る。

(うん、理屈のわからない魔法でも使えるみたいね……。これは便利だわ!)

「ルリ、大丈夫?」
「うん、魔法、使えるみたい!」

 絶対防御バリアで覆われた事を感じ、心配そうに声を掛けるミリア。
 ルリは笑顔で答えると、キングクラブに向き直った。


(硬い甲羅かぁ。硬いものを砕くには、温めて冷やす。ならば、やる事は決定ね!!)

「じゃぁ行くわよ!! 獄炎の灼熱エクスプロージョン!!」

 ミリアの魔法の影響でまだ熱が冷めないキングクラブに、さらに強力な炎が襲い掛かる。
 伝説級の魔物ですら一撃で倒す炎魔法。
 見渡す限りが灼熱に包まれた。

「次は、冷やすわよ!! 絶対零度アブソリュート!!」

 ぱきぃぃぃぃぃぃぃぃん

 灼熱の真っ赤な大地が、一瞬で白く染まる。
 全てのエネルギーを奪う絶対零度アブソリュート
 遠慮なく広範囲に放たれたので、突然氷河期に襲われた様な状況だ。

「どうよ、マイナス273度で生命は存在できないの!! 私の勝利よ!!」

 ドヤ顔で振り向くと、ミリア達の顔は、……蒼白になっていた。



 魔法が収まると、辺りには何も残っていなかった……。
 草木は消滅し、キングクラブは粉々に砕け散っている……。

「これが……本気のルリ?」
「見事に、何もなくなったわね……」
「討伐の証明も出来ない程にね……」

「それ、もう少し軽くできないの?」
「う~ん……。力加減がわかんないのよね……。もっと強くは出来ると思うけど……」
「「「……」」」

 凶悪としか言えない超魔法を、生活魔法でも使うかのように簡単に放ったルリ。
 何があっても敵にならないようにしようと、ミリア達が本気で思ったのは……間違いない。
 そして、声を揃えて叫ぶのであった。

「「「ルリ、その魔法は使用禁止です!!」」」

 明らかなピンチでもない限り、女神魔法の使用禁止が言い渡されるルリ。

「ねぇ、絶対零度アブソリュートは許して。出力下げるように頑張るから。瞬間冷凍、便利なのよ!!」

 便利な魔法を手放すわけにはいかない。
 絶対零度アブソリュートならば多少調節できると、何とか使用を認めてもらえるように食い下がる、ルリであった。



「ねぇ、グルメクラブ探しに行こうよ!」
「そうね、この状況で生き残ってるとは思えないけど……」

 目の前には完全な更地。
 生物が生き残ったとは思えない光景が広がっている。

 諦め半分でグルメクラブを探しに歩き出すルリ達。
 すると、セイラが何かを探知した。

「ん? 何か来る、海から……」
「セイレン?」
 海から顔を出したのは、『人魚』のセイレンだった。

「ちょっと! 急に冷えたんだけど、何かした?
 って……。ここ、どうなってるのよ!?」

 陸上で起こった熱気と冷え込みは、海の中にも伝わったらしい。
 海で遊んでいたセイレンが、文句を言いに来た。
 事情を説明し、蟹を探している事を伝える。


「ふ~ん、あのデカい蟹は好きじゃないから、まぁいいわ。
 それより、グルメクラブ? 名前はわかんないけど、美味しい蟹が欲しいのね! だったら、海の底にいっぱいいるわよ!」

(そう言えばそうね。タラバガニも毛ガニも、海の生き物だわ。何で陸を探してたのかしら……)

 陸上で巨大化したキングクラブが異常なのであり、普通に考えれば蟹は海の中にいる可能性の方が高いのである。
 滅多に見つからないというのも、単に、滅多に陸に上がってこないというだけなのかもしれない。


『みんな聞いて~。私のお友達が、蟹食べたいんだって。手伝ってくれる?』

 セイレンが歌声に乗せて海へ語り掛けると、海がざわざわと揺らぎ始めた。
 しばらくすると、海から多数の人魚が現れる。
 仲間の人魚を呼んで、蟹を集めたらしい。



「あれ!? 見て!! 海から蟹が上がってくる!!」
「大漁、大漁よ!!」

「持って行っていいわよ。ラミア姉さんたちにも御馳走するんだからね!!」

 海で遊んで上機嫌なのであろう。ツンデレなセイレンが、今日は妙に優しい。
 マリーナル領にいた人魚と同じなのか不明だが、仲間と会えた事も、セイレンを元気付けているのであろう。

「「「「セイレン、人魚の皆さん、ありがとう!!」」」」

 大声でお礼を伝えると、人魚たちは去って行った。
 最初からセイレンに蟹の捕獲をお願いすれば今の惨劇がなかったのだが、それは言わないお約束である。



 捕らえてくれと言わんばかりに陸に上がってくる蟹の群れ。
 新鮮さを重視という事で、生きたまま袋詰めしていく。

「ちょっと、馬車取ってくるわ。生きたままじゃ収納に入れられないからね。
 小さい蟹だけど、この量はさすがに持ちきれないわ……」
「わかった。私たちは袋詰めしておくから」

 セイラが漁師町に向かって走っていく。
 ルリ達は、せっせと蟹の袋詰めを行った。『人魚』の魔法でもかかっているのか、不思議と蟹が逃げる様子はなく、自ら袋に入ってくる勢いだった。

 小さいとはいえ、あくまでキングクラブを基準とした場合である。
 平均して、甲羅だけでも20センチ以上、特大タラバガニのサイズはある。
 よく見ると、何種類かの蟹がいるようで、正直どれがグルメクラブなのかは分からない。
 セイレンのおすすめなので、全て持ち帰る事にする。



 ガサガサ
 遠くで音がする。

「何かいる?」
「あ、キングクラブだ、まだ残ってたのね!」
「さっきの魔法から逃れたのかな?」

「ラッキー!! 絶対零度アブソリュート!!」

 見つけるや否や駆け寄り、魔法を放つルリ。
 ぴゅんぴゅんぴゅんと指先を動かすと、一瞬で3体の巨大な蟹を氷漬けにした。

(最初からこれで良かったのよね。熱と組み合わせたりするから、何も残らなくなっちゃった訳で……)

 ルリは、学習する生き物である。
 単純に瞬間冷凍にすれば、原形は残る。周囲を荒らさず、素材が傷つく事もなく、すぐ終わるのだ。

絶対零度アブソリュート、やっぱこの魔法は便利だわ……)

 改めて、便利すぎる女神魔法の威力に、心酔するルリであった。
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