上 下
96 / 190

96 復興計画

しおりを挟む
 メルダムの街にて、コリダ男爵の反乱の理由を知ったルリ達。
 沈む空気の中、ルリが口を開く。

「ねぇ、アメイズ子爵家の責任も大きいわよね……」

「まぁ、監督者としては責任が付いて来るわね。家名の取り潰しや領地没収って程じゃないだろうけど……」

(政治家なら、部下の責任を取って大臣が辞任、みたいな場面よね……)


「仮に……仮にだよ。
 責任を取って現領主が退任したら、どうなるの?」

「そりゃ、ルリが後を継ぐことになるわね。一人娘なんだから」

「……」

 当然と言えば当然の事ではあるものの、領主就任が現実的に見えてしまうと、さすがに恐ろしくなる。
 今までのように好き放題にやる訳にはいかない。一挙手一投足に、領民の生活が懸かっているのだ。

「まぁ大丈夫よ。まだ未成年だし、お父様が誰か代行者を送ってくるわ。マティアス大臣みたいにね」

「まさか、王族の誰か、送り込んできたりして! 将来の旦那さん候補!」

「えぇぇぇぇ」

 ミリアが言うように、政務の担当者が王宮から任命される確率は高い。
 しかし、その誰かが婚約者として送られる事もあるのだ。ルリは、本気でびびった……。


(笑えないわ……。何とかしなきゃ……)


「状況、理解したわ! 私がやる事はただ一つ。この街の再建計画を立てるわよ!
 誰かの手伝いが無くても出来る事を証明しなきゃ!
 結婚相手は自分で決めるんだから!」

「ええ~? いいじゃない、ルリも王族の一員になりなよ!」

 セイラが茶化すが、ルリはそれどころでは無い。
 時間が……無いのである。



「まだ領主になるって決まった訳じゃないし、仮にそうなるとしても少しは時間があるわ。
 それまでに、できる事はやっておきたいの。みんなも協力お願いね」

「「「もちろん」」」

「まず、現状把握。
 コリダ男爵家の取り潰しは確定だろうから、この街は貴族不在になる。つまり、アメイズ子爵家の直轄になると思う」

 男爵には兄弟や息子がいるが、早々に見切りをつけて他領に移り住んでいるらしい。
 一人残された不満も、今回の事件の要因の一つとなっている。

「男爵本人と、側近の奴隷落ち、少なくとも貴族位の剥奪は間違いないでしょう。
 兵士については、王女と分かった上で亡き者にしようとしたか、単に命令されて戦ったのかで罪の重さが変わるでしょうね」

「そうね。判断は王都の役人が来てからになるけど、後者なら、兵士の身分は解かれるとしても、街に残る人もいるかもしれないわ」

 ルリが現状を整理し始めると、セイラが補足する。
 戦争などでは、戦闘を命令した指揮官が罪に問われる事があっても、戦っただけの兵士に罪はない。今回は戦争ではないが、兵士については同様に扱われる可能性が高い。


「それってつまり、腕っぷしの強い人が、この街で無職の状態で溢れるって事でしょ。だったらいい案があるわ」

「冒険者になってもらおうって事? 冒険者ギルドと職人や商店の誘致を目標にしている訳だから、そのまま冒険者になってもらえば、ってのはいい案だと思うわよ」

「メアリー、まだ甘いわね。もっと、冒険者を集めるための秘策よ。
 冒険者を育てる、学園都市をつくるのよ!」

「「「学園都市!?」」」

「そう。まず必要なのが冒険者を養成する学園。
 武術や魔法の授業とか、冒険者活動に必要な授業に特化した学校ね。
 そして、学園を中心にした街づくり。
 メルダムの街を、冒険者を育てる学園都市にするの!」

 住民のいない廃れた街。
 しかし、逆に言えば、一から街づくりをするには最適な環境だ。

 街の防壁など、街としての必要な機能は既に存在している。
 破棄された住居も多くあるし、更地にすればスペースはいくらでも確保できる。
 学校の建物として、今いる屋敷を使ってもいい。

「王都じゃ、冒険者を育てるには魔物が少なすぎるでしょ。でもここなら、大小様々な魔物がそこら中にいるわ。
 それに、私、疑問だったのよね。今まで出会った冒険者で、強い人なんて見た事ないでしょ。それって、冒険者が育つ環境が無いからじゃないかって」

「言いたい事は分かるけど、ずいぶん壮大な話になったわね!」

「だって、それくらい大きな話にしとけば、仮に婚約者候補がアメイズ領に来ても、拠点をこっちの街にしてもらえそうじゃない」

「「「その理由かい」」」

 閃きの理由があくまで個人的な都合と知って、思わずツッコミを入れるミリア達。
 それでも、冒険者を育てる街という発想自体は、共感を持てるものだった。


「まずは、冒険者ギルドに相談ね。それで感触をつかめたら、第二学園のグルノール学園長にも相談してみましょう。計画が承認されれば、国家プロジェクト並よ!」

 生徒は王国中から集める事になるであろう。
 その勧誘方法はもちろんであるが、優秀な生徒を集めるためには特待生などの制度作りも必要だ。
 さらに、教師を集めたり、そもそも授業の内容を決めたりと、やる事は満載である。

 王都の学園に合わせて、約1年後となる来年の9月開講が望ましいが、その為にはすぐに動く必要がある。

「領兵さんが到着してここを引き継いだら、急ぎアメイズ領都に戻って、ギルドマスターのシャードさんに話をしましょう。それで、王都の冒険者ギルドのウリムさんにつないでもらえば、何とかなると思うわ」

「それと、この街を支えてくれている商人さん達にも話をしましょう。学園が出来るとしてもまだ先だわ。その前に街が崩壊してしまっては元も子もないから」

「そうね。この後、街に出ましょうか」


 そうこう話していると、メイドのアルナがやってきた。

「リフィーナ様、ご来客です。商人のサジ様という若い男性なのですが、お通ししますか?」
「おお、ちょうどいいタイミング。ぜひお通ししてください」

 絶妙なタイミングで、昨日話をした商人のサジが訪ねてきた。

「リフィーナ姫様、昨日は、突然お声がけをしてしまい、申し訳ございませんでした。
 あれから、すぐに男爵の屋敷に乗り込んでいただいて……」

 出会うとすぐに、サジが頭を下げる。
 平民の訴えにすぐに対応する貴族。ルリ達の行動は、賞賛に値するものであった。

「……まさか、交渉ではなく武力解決とは思わなかったのですが……、とにかくお礼を伝えたいと参上いたしました……」

 ……この商人、一言多い。

「……。
 私の責を全うしただけです。礼を言われる様な事ではありませんわ。
 それよりも、私からも話があるんです」

 この街の再建、学園都市構想について話しをする。
 そして、構想が実現するまで、街を守ってほしい旨をお願いする。

「壮大な計画、楽しみです。この街は、何とか維持していきますのでご安心ください」
「維持するだけではダメですわ。もっと発展させないと。時間が無いのですから!」
「はい。努力します。何なりとご命令ください」

(やっぱり……。貴族と平民、この問題は根強いわね。でも、そこから変えなきゃ、街も変わらないわ!)


「サジ、あなたは、この街を良くしたいですか?」
「そりゃ当然です。その想いが無ければ、昨日のような無茶は致しません」
「では、この街、あなたに託します。あなたが、街の再建を主導するのです!」

「は……はい!?」
 突然託すと言われて、どう返答したらいいかわからなくなっているサジ。
 ルリは、言葉を続ける。

「今、この街に、直接的に統治する貴族はいません。もちろん、方針の決定や街の護衛など、アメイズ子爵家が全力でサポートしますが、住民の生活水準を良くする為には、街の皆さんの協力が不可欠なのです。
 だから、街の皆さんにも、一緒になって、再建を手伝って欲しいのです。わかりますか?」

「いや、でも、俺たちは平民で……」

「そんなのは関係ありません。貴族だろうが平民だろうが、この街を良くしようとする想いがあるのであれば、街の運営に関わるべきですわ」

 この街で、サジという人物がどの程度の影響力を持っているのかは不明だが、その行動力は買っていた。

「明日の午後、街の主だった者に、ここに集まるように伝えていただけますでしょうか。そこで、私から説明をさせていただきます。
 あ、学園都市の話は、まだ未確定部分が多いですので、まだ内密でお願いします」

 領都で行ったのと同じように、街の住民の代表に、直接説明する事にした。
 サジも、一人で街の再建を任される訳ではなく、街の代表の一人として、多少の権力をもって活動できるという話に、納得したようだ。



 翌日。
 屋敷の前には、100人を超える人だかりが出来ていた……。

(ちょっ、代表者呼べとは言ったけど……。サジ君? どうしてこうなった……?)

 頭を抱える、ルリであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! 更新予定:毎日二回(12:00、18:00) ※本作品は他サイトでも連載中です。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

異世界転移したら~彼女の"王位争い"を手助けすることになった件~最強スキル《精霊使い》を駆使して無双します~

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ とある大陸にあるローレスト王国 剣術や魔法、そして軍事力にも長けており隙の無い王国として知られていた。 だが王太子の座が決まっておらず、国王の子供たちが次々と勢力を広げていき王位を争っていた。 そんな中、主人公である『タツキ』は異世界に転移してしまう。 「俺は確か家に帰ってたはずなんだけど......ここどこだ?」 タツキは元々理系大学の工学部にいた普通の大学生だが、異世界では《精霊使い》という最強スキルに恵まれる。 異世界に転移してからタツキは冒険者になり、優雅に暮らしていくはずだったが...... ローレスト王国の第三王女である『ソフィア』に異世界転移してから色々助けてもらったので、彼女の"王位争い"を手助けする事にしました。

まもののおいしゃさん

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
まもののおいしゃさん〜役立たずと追い出されたオッサン冒険者、豊富な魔物の知識を活かし世界で唯一の魔物専門医として娘とのんびりスローライフを楽しんでいるのでもう放っておいてくれませんか〜 長年Sランクパーティー獣の檻に所属していたテイマーのアスガルドは、より深いダンジョンに潜るのに、足手まといと切り捨てられる。 失意の中故郷に戻ると、娘と村の人たちが優しく出迎えてくれたが、村は魔物の被害に苦しんでいた。 貧乏な村には、ギルドに魔物討伐を依頼する金もない。 ──って、いやいや、それ、討伐しなくとも、何とかなるぞ? 魔物と人の共存方法の提案、6次産業の商品を次々と開発し、貧乏だった村は潤っていく。 噂を聞きつけた他の地域からも、どんどん声がかかり、民衆は「魔物を守れ!討伐よりも共存を!」と言い出した。 魔物を狩れなくなった冒険者たちは次々と廃業を余儀なくされ、ついには王宮から声がかかる。 いやいや、娘とのんびり暮らせれば充分なんで、もう放っておいてくれませんか? ※魔物は有名なものより、オリジナルなことが多いです。  一切バトルしませんが、そういうのが  お好きな方に読んでいただけると  嬉しいです。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

僕の前世は異世界の凶悪な竜だったみたいだけれど。今は異世界日本でお好み焼き屋を呑気に営業しています!

かず斉入道
ファンタジー
第3回カクヨミコンテスト・ラブコメ部門・中間選考作品の改修版です。カ クヨムさまと小説家になろう様の両投稿サイトでPV数80万突破した作品の改修版で御座います。 主人公大島新作は自身の幼い頃からの夢である。祖母が経営をしていた広島お好み焼き屋の看板を受け継ぎ。 お店の看板娘になるような麗しい容姿の妻をお嫁さんにもらい。ラブラブしながら二人三脚で仲良く商いをする為の夢の第一歩として、35年の住宅ローンを組み、いざお店。広島お好み焼き屋を始めたまでは良かったのだが。 世の中はそんなに甘くはなく。 自身の経営するお店さつきにはかんこ鳥が鳴く日々が続く。 だから主人公新作は段々と仕事の方もやる気がなくなりお店の貸し出し若しくは、家の売却を思案し始める最中に、彼の夢枕に異国情緒溢れる金髪碧眼の少女が立ち、独身の彼の事を「パパ」と呼ぶ現実か、夢なのか、わからない日々が続き始めるのだった。

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

処理中です...