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78 人材不足
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アメイズ領都へ到着したルリ達。
馬車に揺られ、笑顔を振りまきながら屋敷を目指す。
「活気があっていい街ね」
「ありがとう。事件の時はどうなるかと思ったけど、良かったわ」
ミリアと言葉を交わしながら進んでいると、観衆の中からひときわ大きな声がして、数人の女性が飛び出してきた。
兵士に緊張が走り、武器を構える。
貴族の行進を止める行為は、襲撃とみなされてもおかしくない。
「リフィーナ様、ありがとうございました!」
声の主を見ると、そこに居たのは、ルリと一緒に誘拐された……アジトで捕まっていた女性たち。
咄嗟にルリは立ち上がり、兵士たちに向けて叫んだ。
「待って、ちょっと止まってくれる?」
セイラや、あの時現場にいた老騎士も、女性の姿に気付いたようだ。
パレードを止め、ルリは女性たちに向き直る。
「皆さん、お久しぶりです。領都にいらしたのですね、元気そうで……」
「リフィーナ様……。呼び止めてしまって申し訳ございません。でも、一言お礼が言いたくて……」
事件の後、地元に戻った者もいるが、保護された領都にそのまま居座った者もいる。
誘拐される際に家族を殺されてしまったり、恐怖から人が信じられなくなっていたり……。
リフィーナの帰還の噂を聞きつけ、駆け付けたのだった。
「しばらく領都にいますので、後でゆっくりお話しませんか?
アルナ、皆さんと連絡がとれるようにしておいてくれる?」
「ありがとうございます。お招きの際は、必ずお伺いいたします!」
積もる話、その後の話を聞きたい所ではあるが、パレードの最中、女性たちを後日お屋敷に招くことを約束し、馬車は動き出した。
(彼女たちの話とチンピラ達の話があれば、もっと具体的な事がわかるかも知れないわね。
でも、屋敷内では鉢合わせにならないように注意しなきゃ……)
チンピラ達が、誘拐の片棒を担いでいる可能性もある。
気を引き締めるルリだった。
屋敷に到着すると、懐かしい面々が迎えてくれた。
すぐに、母サーシャの待つ応接室へ通される。
「リフィーナ、お帰りなさい」
「お母様、ただいま戻りました」
久しぶりの再会。少し顔色も良くなった気がする。
病弱な体質、原因は分かっていない。この滞在の間で、何か元気になる為の術を考えようと誓う。
「サーシャ様、はじめまして。わたくし、リフィーナさんの友人で、ミリアーヌと申します」
「サーシャ様、お久しぶりです」
ミリアとセイラも、華麗に挨拶をする。
そのまま、メアリー、ラミア、セイレンも紹介し、それぞれ席についた。
ルリ達からは、学園生活やマリーナル領への旅の土産話を。
そしてサーシャからは、アメイズ領の最近の様子を聞く。
「マティアス、お願いしていた案件、進捗はいかがですか?」
ルリは、実質的に領政を担っている大臣、マティアスに話を振った。
例の件とは、マティアスにお願いしていた内政のことだ。
「リフィーナ様の予測通り、あれから住民がどんどん増えております。
商業ギルドを通じて街道の整備や公園の新設を行うよう人手を集めていますね」
「どう? 人は集まってる? 問題は?」
「はい。子爵家の貯蓄を放出して事業をどんどん作っておりますので、人手は足りないくらいです。近隣の町や村から出稼ぎに来る者もいると聞いております。
しかし、領の財政としては圧迫し始めておりますので、注意しながら進めております」
「ありがとう。私たちは贅沢しなくていいから。お金は住民の皆様に、還元してあげてくださいね」
今の生活は十分に贅沢ではないかと首をかしげるメアリーだが、ミリアもセイラも納得している様子なので、口を出せないメアリー。
「なるほど、税を安くして仕事をたくさん作る、人が集まれば最終的な税収も増えるという事ね。考えたわね」
「その通りよ。セイラこそ、今の会話でよくそこまで分かったわね。
時間はかかるけど、アメイズ領を住みやすい街にしていきたいの。子育てしやすい街にね」
住みたい街ランキング、子育てしやすい街ランキングのナンバーワンを目指すと言いたかったのだが、通じなそうなので言葉に詰まるルリ。
「マティアス、道がキレイだと、治安も良くなるわ。明るい街づくりを目指してね」
「はい。承知しました。
治安と言えば、領都内で空き家がスラム化するという懸念があるのですが、何か良い対策はありますかね」
「空き家ねぇ……」
(日本でも問題になってたなぁ。持ち主を探して何かするんだっけ? テレビで特番があったような……)
「何か制度を作りましょうか。基本的には、空き家は子爵家で買い取りましょう」
「はい、いえ、もともとこの土地は子爵家のものですから、そこは問題が無いのです」
「あれ、そうなのね? では何が問題なの?」
マティアスは、いくつか問題点を教えてくれた。
家を建てた者がいるにも関わらず、長い間放置しているケース。
建てた者すら不明な放置された住居。
逆に、廃墟にしか見えないのに誰かが住み着いているケース。
この世界では、領主が住民に領地の一部を貸し与えている形になっている為、土地の権利は領都内であれば基本的に子爵家にある。
なので、完全に空き家なのであれば、領主が取り上げればよい。
しかし、土地の権利など整備が進んでいない世界。誰がどの部分の土地に家を建てたかなど、完全に把握できている訳では無いので、そもそも空き家なのかどうかすら、よくわからないのだ。
(なかなか深刻ね。日本の空き家問題よりも、もっと意味不明だわ。
でも、それならば解決も簡単か……)
「マティアス、街の整備から始めましょう。住民基本台帳を作るのよ。
どの家に、誰が住んでいるのか、しっかりと記録するの。最初は大変だけど、基本が出来れば、後からいろいろなことが出来るわ」
現状、どの街にどの程度の人が住んでいるのかなど、誰も管理できていない。
身分証の発行は、あくまで街の往来をする際に犯罪歴などを記録する程度の物であり、登録後にどこの町に行ったかなどは記録されない。
コンピューターの無い世界、ある意味仕方のない事とも言えるのだが……。
「リフィーナ様、それで、何を記録するのでしょうか……」
困ったマティアスが訪ねてくると、ルリは台帳の作り方を教えた。
記録するのは、名前、生年月日、性別、住所、親子関係など。
以前見た事のある、住民票のイメージだ。
「あの……、住所とは……?」
(あぁ……。そこからか。今は建物の場所を説明するのが『大通りの南側の木の下』とかだもんね……)
「えと、まずは住所を定めなければなりませんね……」
生まれて初めて、丁目番地の必要性に気付いた、ルリだった。
そもそも、街の地図すら、怪しい……。
地図を作り、町名や番地を割り振り、そこに誰が住んでいるかを調べる。
気の遠くなるような作業だ。
住みやすい街を目指すためには、いわゆる区画整備も必要になるであろう。
アメイズ領の領都改革は、長期計画として実行する事になった。
「リフィーナ、ひとつお願いがあるのだけど、いい?」
「お母様、なんでしょう」
「あなたの案のお陰で、領内はどんどん明るく、いい街に変わってきてるわ。
でも、マティアス一人では大変そうなの。
誰か有能な方を招くか、……あなたの旦那さんでもいいのだけど……」
「ひっ、旦那さんですか!?」
「いや、領政をサポートする、信頼……できる方をね。ならば、あなたの婿が最適でしょ」
信頼、という言葉に力が籠るのは、自分の夫が悪事に染まった事が頭をよぎったのだろう。
母サーシャの願い、娘の結婚……。ルリは言葉に詰まる。
「今のリフィーナさんなら、王族も含めて婿の候補者はたくさんいますわ!
覚悟を決める時が来たようね!」
ミリアが不敵な笑みを浮かべて、サーシャをサポート。
ルリに追い打ちをかける。
「婿候補として、アメイズ領の領政に関われるとなれば、かなりの数の子息が集まると思いますわ。王宮から号令を掛けましょうか?」
セイラも悪乗りだ。いや、目が本気……、このままでは実際に号令を発しかねない。
「ミリア、セイラ、だめよ。やめてね……」
涙目で懇願するルリ。
候補者の条件……学園の卒業生とか、年齢は何歳だとか、楽しそうに話すサーシャ、ミリアとセイラ。
(ヤバい、何かいい案を出さないと……)
全力で頭をひねる、ルリであった。
馬車に揺られ、笑顔を振りまきながら屋敷を目指す。
「活気があっていい街ね」
「ありがとう。事件の時はどうなるかと思ったけど、良かったわ」
ミリアと言葉を交わしながら進んでいると、観衆の中からひときわ大きな声がして、数人の女性が飛び出してきた。
兵士に緊張が走り、武器を構える。
貴族の行進を止める行為は、襲撃とみなされてもおかしくない。
「リフィーナ様、ありがとうございました!」
声の主を見ると、そこに居たのは、ルリと一緒に誘拐された……アジトで捕まっていた女性たち。
咄嗟にルリは立ち上がり、兵士たちに向けて叫んだ。
「待って、ちょっと止まってくれる?」
セイラや、あの時現場にいた老騎士も、女性の姿に気付いたようだ。
パレードを止め、ルリは女性たちに向き直る。
「皆さん、お久しぶりです。領都にいらしたのですね、元気そうで……」
「リフィーナ様……。呼び止めてしまって申し訳ございません。でも、一言お礼が言いたくて……」
事件の後、地元に戻った者もいるが、保護された領都にそのまま居座った者もいる。
誘拐される際に家族を殺されてしまったり、恐怖から人が信じられなくなっていたり……。
リフィーナの帰還の噂を聞きつけ、駆け付けたのだった。
「しばらく領都にいますので、後でゆっくりお話しませんか?
アルナ、皆さんと連絡がとれるようにしておいてくれる?」
「ありがとうございます。お招きの際は、必ずお伺いいたします!」
積もる話、その後の話を聞きたい所ではあるが、パレードの最中、女性たちを後日お屋敷に招くことを約束し、馬車は動き出した。
(彼女たちの話とチンピラ達の話があれば、もっと具体的な事がわかるかも知れないわね。
でも、屋敷内では鉢合わせにならないように注意しなきゃ……)
チンピラ達が、誘拐の片棒を担いでいる可能性もある。
気を引き締めるルリだった。
屋敷に到着すると、懐かしい面々が迎えてくれた。
すぐに、母サーシャの待つ応接室へ通される。
「リフィーナ、お帰りなさい」
「お母様、ただいま戻りました」
久しぶりの再会。少し顔色も良くなった気がする。
病弱な体質、原因は分かっていない。この滞在の間で、何か元気になる為の術を考えようと誓う。
「サーシャ様、はじめまして。わたくし、リフィーナさんの友人で、ミリアーヌと申します」
「サーシャ様、お久しぶりです」
ミリアとセイラも、華麗に挨拶をする。
そのまま、メアリー、ラミア、セイレンも紹介し、それぞれ席についた。
ルリ達からは、学園生活やマリーナル領への旅の土産話を。
そしてサーシャからは、アメイズ領の最近の様子を聞く。
「マティアス、お願いしていた案件、進捗はいかがですか?」
ルリは、実質的に領政を担っている大臣、マティアスに話を振った。
例の件とは、マティアスにお願いしていた内政のことだ。
「リフィーナ様の予測通り、あれから住民がどんどん増えております。
商業ギルドを通じて街道の整備や公園の新設を行うよう人手を集めていますね」
「どう? 人は集まってる? 問題は?」
「はい。子爵家の貯蓄を放出して事業をどんどん作っておりますので、人手は足りないくらいです。近隣の町や村から出稼ぎに来る者もいると聞いております。
しかし、領の財政としては圧迫し始めておりますので、注意しながら進めております」
「ありがとう。私たちは贅沢しなくていいから。お金は住民の皆様に、還元してあげてくださいね」
今の生活は十分に贅沢ではないかと首をかしげるメアリーだが、ミリアもセイラも納得している様子なので、口を出せないメアリー。
「なるほど、税を安くして仕事をたくさん作る、人が集まれば最終的な税収も増えるという事ね。考えたわね」
「その通りよ。セイラこそ、今の会話でよくそこまで分かったわね。
時間はかかるけど、アメイズ領を住みやすい街にしていきたいの。子育てしやすい街にね」
住みたい街ランキング、子育てしやすい街ランキングのナンバーワンを目指すと言いたかったのだが、通じなそうなので言葉に詰まるルリ。
「マティアス、道がキレイだと、治安も良くなるわ。明るい街づくりを目指してね」
「はい。承知しました。
治安と言えば、領都内で空き家がスラム化するという懸念があるのですが、何か良い対策はありますかね」
「空き家ねぇ……」
(日本でも問題になってたなぁ。持ち主を探して何かするんだっけ? テレビで特番があったような……)
「何か制度を作りましょうか。基本的には、空き家は子爵家で買い取りましょう」
「はい、いえ、もともとこの土地は子爵家のものですから、そこは問題が無いのです」
「あれ、そうなのね? では何が問題なの?」
マティアスは、いくつか問題点を教えてくれた。
家を建てた者がいるにも関わらず、長い間放置しているケース。
建てた者すら不明な放置された住居。
逆に、廃墟にしか見えないのに誰かが住み着いているケース。
この世界では、領主が住民に領地の一部を貸し与えている形になっている為、土地の権利は領都内であれば基本的に子爵家にある。
なので、完全に空き家なのであれば、領主が取り上げればよい。
しかし、土地の権利など整備が進んでいない世界。誰がどの部分の土地に家を建てたかなど、完全に把握できている訳では無いので、そもそも空き家なのかどうかすら、よくわからないのだ。
(なかなか深刻ね。日本の空き家問題よりも、もっと意味不明だわ。
でも、それならば解決も簡単か……)
「マティアス、街の整備から始めましょう。住民基本台帳を作るのよ。
どの家に、誰が住んでいるのか、しっかりと記録するの。最初は大変だけど、基本が出来れば、後からいろいろなことが出来るわ」
現状、どの街にどの程度の人が住んでいるのかなど、誰も管理できていない。
身分証の発行は、あくまで街の往来をする際に犯罪歴などを記録する程度の物であり、登録後にどこの町に行ったかなどは記録されない。
コンピューターの無い世界、ある意味仕方のない事とも言えるのだが……。
「リフィーナ様、それで、何を記録するのでしょうか……」
困ったマティアスが訪ねてくると、ルリは台帳の作り方を教えた。
記録するのは、名前、生年月日、性別、住所、親子関係など。
以前見た事のある、住民票のイメージだ。
「あの……、住所とは……?」
(あぁ……。そこからか。今は建物の場所を説明するのが『大通りの南側の木の下』とかだもんね……)
「えと、まずは住所を定めなければなりませんね……」
生まれて初めて、丁目番地の必要性に気付いた、ルリだった。
そもそも、街の地図すら、怪しい……。
地図を作り、町名や番地を割り振り、そこに誰が住んでいるかを調べる。
気の遠くなるような作業だ。
住みやすい街を目指すためには、いわゆる区画整備も必要になるであろう。
アメイズ領の領都改革は、長期計画として実行する事になった。
「リフィーナ、ひとつお願いがあるのだけど、いい?」
「お母様、なんでしょう」
「あなたの案のお陰で、領内はどんどん明るく、いい街に変わってきてるわ。
でも、マティアス一人では大変そうなの。
誰か有能な方を招くか、……あなたの旦那さんでもいいのだけど……」
「ひっ、旦那さんですか!?」
「いや、領政をサポートする、信頼……できる方をね。ならば、あなたの婿が最適でしょ」
信頼、という言葉に力が籠るのは、自分の夫が悪事に染まった事が頭をよぎったのだろう。
母サーシャの願い、娘の結婚……。ルリは言葉に詰まる。
「今のリフィーナさんなら、王族も含めて婿の候補者はたくさんいますわ!
覚悟を決める時が来たようね!」
ミリアが不敵な笑みを浮かべて、サーシャをサポート。
ルリに追い打ちをかける。
「婿候補として、アメイズ領の領政に関われるとなれば、かなりの数の子息が集まると思いますわ。王宮から号令を掛けましょうか?」
セイラも悪乗りだ。いや、目が本気……、このままでは実際に号令を発しかねない。
「ミリア、セイラ、だめよ。やめてね……」
涙目で懇願するルリ。
候補者の条件……学園の卒業生とか、年齢は何歳だとか、楽しそうに話すサーシャ、ミリアとセイラ。
(ヤバい、何かいい案を出さないと……)
全力で頭をひねる、ルリであった。
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※ カクヨム、小説家になろう、ハーメルンにも連載中
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