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71 馬車
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ルリ達『ノブレス・エンジェルズ』の4人は、今日も寮の部屋で話し合いをしていた。
「行先も決まったし、スケジュールもバッチリよね。
ひとつ疑問なのだけど、移動の馬車って乗合? それとも護衛依頼探すの?」
旅行の計画が概ね決まり安心した所に、メアリーが疑問を投げる。
移動の工程は、全て馬車移動として計算している。
しかし、ルリ達は馬車を持っていないし、もちろん御者としての技術もない。
「ああぁ、どうしようか。乗合馬車のルートや発車の時間までは調べてないわ。
それに、都合よく護衛依頼があるかどうか……」
「「うぅぅぅぅ」」
「王宮に馬車出してもらう? それとも、馬車買っちゃう?」
「王宮の馬車だと、兵士とかもついてきそうじゃない? それに馬車買っても、御者がいないわよ」
ミリアとセイラの感覚だと、その辺で野菜を買うかのように馬車も買ってしまいそうである。
もちろん、王宮ならば馬車の1台くらい貸してくれるかもしれないが、せっかくの冒険者としての活動なのだから、兵士がぞろぞろついてくるのは避けたい。
「アメイズ子爵家の馬車なら、私以外使わないから空いてるけど……」
「「「う~ん」」」
いずれにしても、仮に馬車を入手できたとしても、御者がいなければ動かせない。
解決策に行き詰まり、悩む少女4人。
メイド三姉妹に頼めばいいのではあるが、ラミアやセイレンの事を考えると、屋敷をあけさせる訳にもいかなかった。
「いっそ、ラミアとセイレンも一緒に旅行すれば解決じゃない?
メイドさん達、何か忙しい予定とかあるのかしら?」
普通に考えれば、主人が外出している屋敷で、使用人の仕事は多くない。
メイド三姉妹の場合は、私塾の教師と言う仕事をお願いしているが、まだ本格化しているほどでは無いのでどうにかならない訳では無かった。
「そうねぇ、ラミア達はメルン亭のお仕事があって、メイド達もやる事がない訳ではないけど、調整できると思う……」
セイラの提案に答え、ルリは屋敷に戻って相談する事になる。
もちろん、以前から研修の旅の話はしているので、一緒に行かないかと誘うだけ。そう難しい話ではない。
屋敷に向かうと……。
「え、リフィーナ様? 何をおっしゃっているのですか?
もともと、私たちも同行するつもりでしたよ。だって、アメイズ領に戻られるのですよね。そこに使用人が同行しなかったら、私たち怒られます!」
「なんじゃ、我らを置いていくつもりだったのか? つれないのう」
……メイド三姉妹に、そしてラミアに怒られた。
(あぁ、それもそうか。従者も護衛も連れずに帰ったら、私の立場的にはまずいわよね……)
「みんな、ごめんね。今回は冒険者としての活動なので、『ノブレス・エンジェルズ』として動くことしか考えていなかったわ。みんなで一緒に、領に帰りましょう」
「はい、リフィーナ様。それで、ご相談がありますの」
メイド三姉妹の長女アルナが、待ちかねたかのように質問してくる。
「先日のマリーナル領への旅行の際にもわかったと思うのですが、お嬢様4名、それにラミア様とセイレン様、私たち使用人、合計9名が乗るには、現在の馬車では狭すぎます。
馬車を1台新調したいのですが、いかがでしょうか……」
既に買う気満々。
ルリがアメイズ領に行く事が決まった時点で、金額の見積もりなども終わっているらしく、後は発注書にサインするだけの状態になっていた。
「分かったわ。でもひとつお願い。お金に関しては、『ノブレス・エンジェルズ』からも出させてほしいの。今後、冒険者として活動する時にも、馬車があれば便利だと思うから」
マリーナル領で手元の素材を換金した事で、お金は大量にある。もちろん確認する必要はあるのだが、場合によっては馬車を買うつもりだったのだ。出資に問題はないだろうと、ルリは考えた。
その後、アルナと共に学園の寮に戻り、メイド三姉妹とラミア、セイレンが同行する事を報告。さらに馬車購入を打診。
ミリア達が文句を言う訳なく、メアリーも同意した。
当然のように、満場一致で出資が決まり、聖金貨10枚を渡す。
「アルナ、ありがとう。それじゃ、馬車の手配はよろしくね。可能な限り、内装は快適に!」
いつも使っている馬車用の敷物、他にも毛皮素材をアルナに預け内装に使ってもらう。
他にも、セイラからテーブルの配置などについて注文がついている。
王家御用達の馬車程ではないにしろ、子爵家や冒険者が持つような馬車ではない、豪華な馬車になりそうだ。
出発の予定日まであと2週間。
「他に、出発前に準備しておく事あるかしら?」
セイラの最終確認に、みんなしばらく考えるが、全員が首を振る。
(旅行って、行くまでの準備が楽しいのよね!)
計画、段取りが着々と進んでいく事に、ルリは心から喜んでいた。
当然、この間もルリ達は学生として授業を受けている。
学園の2年生は、講義と言うよりはテーマに沿った研究を行う事がメインだ。
日本の大学で言う、研究室に所属しているイメージに近い。
ミリアは魔法学。
一般的には効率的な詠唱を研究する人が多いが、ミリアは魔法の組み合わせについて研究することにした。
きっかけは、以前魔法の練習で、ルリが見せた水蒸気爆発。
高熱に水をぶつける事で、大爆発が起こると言う現象を見てから、複数の魔法を組み合わせる事でより強力になると思ったのだ。
ルリも、事象を再現できる場合はあるが、中学生までで習った以上の知識は無いため、科学的に何が起こっているのかなど曖昧にしか説明が出来ない。
ミリアが魔法によって起こる現象について研究するというは、とても興味深かった。
セイラは、治療の研究だ。
同じ回復魔法でも、セイラの治療とルリの治療では効果が違う。
この世界では、魔法力や神へ捧げた祈りの深さで治癒能力が決まると言われている。
しかし、身体の構造など医学的な話をルリから聞いて以来、治療と言う工程を魔法でどこまで再現できるかがポイントだと、セイラは考えていた。
実際の所、ルリの回復魔法は女神のチート能力に近いので、セイラの理論が正しいのか不明ではあるのだが……。
メアリーは、経済ではなく軍略に興味を持ったようだ。
学園で教わる経営の話よりも、ルリの提案の方がよっぽど為になるから、と言う理由だった。
それに、冒険者としての活動が面白くなり、また騎士団と関わり合った事で、知的に戦う事の重要性に気付いたのが、軍略を学ぼうと思った一因だ。
さすがのルリも、戦争の作戦など立てた事はない。事前の情報収集で勝敗の8割は決まるの! それに、危ない時は、逃げるが勝ち! 聞いた事のあるセリフをメアリーに伝え、応援することにした。
当のルリは、意外にも植物学を選択した。
当面の最大の課題は、食材の収集だ。地球の歴史を考えても、人は最初に農作物や畜産を行い、それを土台に工業が発達している。
まだ、この世界は知らない事が多すぎる。その為、農業からしっかりと調べ直す事にしたのだ。
蒸気機関や鉄道など、イメージは伝えたものの、いつ実用化されるかなんて分からない。
電話などの通信機器も作りたいのだが、この世界でどう再現できるのか、原理など想像もつかない。
まずはこの世界の植物を知って、調味料を揃えましょう。
それを運ぶ為に、あるいは情報を伝える為に、物流や通信が発達するのよね。きっと……。
それぞれの研究のテーマが決まり、研修の旅が決まり、新学期を過ごすルリ達。
「あと2週間、毎日のように言い寄ってくる男子はうるさいけど、耐えきりましょう!」
「「「おー!!!」」」
出来る限り研究室か寮の部屋にこもり、新入生との接触を減らす。
入学したもののお目当ての令嬢たちとほぼ出会えずに焦る子息たちを後目に、それぞれの準備を整えた。
「ねぇ、野営用のテントっていくつ持ってくの?」
「一張りで4人寝れるから、私たち用、ラミア達用、メイド用の三張り、あと、食事と入浴用があるから、全部で五張りの予定よ。私たちの分以外は、メイドのアルナに準備してもらってるわ」
「ふ~ん、いっそ、屋敷ごと収納して持っていっちゃえば?」
「あはは……」
ミリアの何気ない一言に、素っ気なく返すルリ。
不可能ではないだけに、返答に困る。
(でも、悪くないアイデアよねぇ)
貴族の屋敷はさすがに出せる場所がなさそうだが、普通の一軒家位なら……。
内心、本気で考えるルリであった。
「行先も決まったし、スケジュールもバッチリよね。
ひとつ疑問なのだけど、移動の馬車って乗合? それとも護衛依頼探すの?」
旅行の計画が概ね決まり安心した所に、メアリーが疑問を投げる。
移動の工程は、全て馬車移動として計算している。
しかし、ルリ達は馬車を持っていないし、もちろん御者としての技術もない。
「ああぁ、どうしようか。乗合馬車のルートや発車の時間までは調べてないわ。
それに、都合よく護衛依頼があるかどうか……」
「「うぅぅぅぅ」」
「王宮に馬車出してもらう? それとも、馬車買っちゃう?」
「王宮の馬車だと、兵士とかもついてきそうじゃない? それに馬車買っても、御者がいないわよ」
ミリアとセイラの感覚だと、その辺で野菜を買うかのように馬車も買ってしまいそうである。
もちろん、王宮ならば馬車の1台くらい貸してくれるかもしれないが、せっかくの冒険者としての活動なのだから、兵士がぞろぞろついてくるのは避けたい。
「アメイズ子爵家の馬車なら、私以外使わないから空いてるけど……」
「「「う~ん」」」
いずれにしても、仮に馬車を入手できたとしても、御者がいなければ動かせない。
解決策に行き詰まり、悩む少女4人。
メイド三姉妹に頼めばいいのではあるが、ラミアやセイレンの事を考えると、屋敷をあけさせる訳にもいかなかった。
「いっそ、ラミアとセイレンも一緒に旅行すれば解決じゃない?
メイドさん達、何か忙しい予定とかあるのかしら?」
普通に考えれば、主人が外出している屋敷で、使用人の仕事は多くない。
メイド三姉妹の場合は、私塾の教師と言う仕事をお願いしているが、まだ本格化しているほどでは無いのでどうにかならない訳では無かった。
「そうねぇ、ラミア達はメルン亭のお仕事があって、メイド達もやる事がない訳ではないけど、調整できると思う……」
セイラの提案に答え、ルリは屋敷に戻って相談する事になる。
もちろん、以前から研修の旅の話はしているので、一緒に行かないかと誘うだけ。そう難しい話ではない。
屋敷に向かうと……。
「え、リフィーナ様? 何をおっしゃっているのですか?
もともと、私たちも同行するつもりでしたよ。だって、アメイズ領に戻られるのですよね。そこに使用人が同行しなかったら、私たち怒られます!」
「なんじゃ、我らを置いていくつもりだったのか? つれないのう」
……メイド三姉妹に、そしてラミアに怒られた。
(あぁ、それもそうか。従者も護衛も連れずに帰ったら、私の立場的にはまずいわよね……)
「みんな、ごめんね。今回は冒険者としての活動なので、『ノブレス・エンジェルズ』として動くことしか考えていなかったわ。みんなで一緒に、領に帰りましょう」
「はい、リフィーナ様。それで、ご相談がありますの」
メイド三姉妹の長女アルナが、待ちかねたかのように質問してくる。
「先日のマリーナル領への旅行の際にもわかったと思うのですが、お嬢様4名、それにラミア様とセイレン様、私たち使用人、合計9名が乗るには、現在の馬車では狭すぎます。
馬車を1台新調したいのですが、いかがでしょうか……」
既に買う気満々。
ルリがアメイズ領に行く事が決まった時点で、金額の見積もりなども終わっているらしく、後は発注書にサインするだけの状態になっていた。
「分かったわ。でもひとつお願い。お金に関しては、『ノブレス・エンジェルズ』からも出させてほしいの。今後、冒険者として活動する時にも、馬車があれば便利だと思うから」
マリーナル領で手元の素材を換金した事で、お金は大量にある。もちろん確認する必要はあるのだが、場合によっては馬車を買うつもりだったのだ。出資に問題はないだろうと、ルリは考えた。
その後、アルナと共に学園の寮に戻り、メイド三姉妹とラミア、セイレンが同行する事を報告。さらに馬車購入を打診。
ミリア達が文句を言う訳なく、メアリーも同意した。
当然のように、満場一致で出資が決まり、聖金貨10枚を渡す。
「アルナ、ありがとう。それじゃ、馬車の手配はよろしくね。可能な限り、内装は快適に!」
いつも使っている馬車用の敷物、他にも毛皮素材をアルナに預け内装に使ってもらう。
他にも、セイラからテーブルの配置などについて注文がついている。
王家御用達の馬車程ではないにしろ、子爵家や冒険者が持つような馬車ではない、豪華な馬車になりそうだ。
出発の予定日まであと2週間。
「他に、出発前に準備しておく事あるかしら?」
セイラの最終確認に、みんなしばらく考えるが、全員が首を振る。
(旅行って、行くまでの準備が楽しいのよね!)
計画、段取りが着々と進んでいく事に、ルリは心から喜んでいた。
当然、この間もルリ達は学生として授業を受けている。
学園の2年生は、講義と言うよりはテーマに沿った研究を行う事がメインだ。
日本の大学で言う、研究室に所属しているイメージに近い。
ミリアは魔法学。
一般的には効率的な詠唱を研究する人が多いが、ミリアは魔法の組み合わせについて研究することにした。
きっかけは、以前魔法の練習で、ルリが見せた水蒸気爆発。
高熱に水をぶつける事で、大爆発が起こると言う現象を見てから、複数の魔法を組み合わせる事でより強力になると思ったのだ。
ルリも、事象を再現できる場合はあるが、中学生までで習った以上の知識は無いため、科学的に何が起こっているのかなど曖昧にしか説明が出来ない。
ミリアが魔法によって起こる現象について研究するというは、とても興味深かった。
セイラは、治療の研究だ。
同じ回復魔法でも、セイラの治療とルリの治療では効果が違う。
この世界では、魔法力や神へ捧げた祈りの深さで治癒能力が決まると言われている。
しかし、身体の構造など医学的な話をルリから聞いて以来、治療と言う工程を魔法でどこまで再現できるかがポイントだと、セイラは考えていた。
実際の所、ルリの回復魔法は女神のチート能力に近いので、セイラの理論が正しいのか不明ではあるのだが……。
メアリーは、経済ではなく軍略に興味を持ったようだ。
学園で教わる経営の話よりも、ルリの提案の方がよっぽど為になるから、と言う理由だった。
それに、冒険者としての活動が面白くなり、また騎士団と関わり合った事で、知的に戦う事の重要性に気付いたのが、軍略を学ぼうと思った一因だ。
さすがのルリも、戦争の作戦など立てた事はない。事前の情報収集で勝敗の8割は決まるの! それに、危ない時は、逃げるが勝ち! 聞いた事のあるセリフをメアリーに伝え、応援することにした。
当のルリは、意外にも植物学を選択した。
当面の最大の課題は、食材の収集だ。地球の歴史を考えても、人は最初に農作物や畜産を行い、それを土台に工業が発達している。
まだ、この世界は知らない事が多すぎる。その為、農業からしっかりと調べ直す事にしたのだ。
蒸気機関や鉄道など、イメージは伝えたものの、いつ実用化されるかなんて分からない。
電話などの通信機器も作りたいのだが、この世界でどう再現できるのか、原理など想像もつかない。
まずはこの世界の植物を知って、調味料を揃えましょう。
それを運ぶ為に、あるいは情報を伝える為に、物流や通信が発達するのよね。きっと……。
それぞれの研究のテーマが決まり、研修の旅が決まり、新学期を過ごすルリ達。
「あと2週間、毎日のように言い寄ってくる男子はうるさいけど、耐えきりましょう!」
「「「おー!!!」」」
出来る限り研究室か寮の部屋にこもり、新入生との接触を減らす。
入学したもののお目当ての令嬢たちとほぼ出会えずに焦る子息たちを後目に、それぞれの準備を整えた。
「ねぇ、野営用のテントっていくつ持ってくの?」
「一張りで4人寝れるから、私たち用、ラミア達用、メイド用の三張り、あと、食事と入浴用があるから、全部で五張りの予定よ。私たちの分以外は、メイドのアルナに準備してもらってるわ」
「ふ~ん、いっそ、屋敷ごと収納して持っていっちゃえば?」
「あはは……」
ミリアの何気ない一言に、素っ気なく返すルリ。
不可能ではないだけに、返答に困る。
(でも、悪くないアイデアよねぇ)
貴族の屋敷はさすがに出せる場所がなさそうだが、普通の一軒家位なら……。
内心、本気で考えるルリであった。
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