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68 学園長の呼び出し

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 メルヴィン商会の面々を見送り、一人残った商会長の娘メアリー。
 今日はルリ達と同行し、一緒に過ごす事にした。

 まだ旅行から帰った翌日である。のんびりとしたい所だが、あちこち行く場所があるのでそうも言ってられない。
 まずは、セイレンの衣装の購入。そして身分証の入手……。新しい住人の為に、準備が必要だ。


 ラミアとセイレン、そしてメイド三姉妹と一緒に、馬車で王都を回った。
 大きな馬車では無いので、ぎゅうぎゅうだ。

 まずは、メルヴィン商会の経営する衣料品店へ。
 メアリーがいるので、好待遇だ。ついでに秋向けの私服も全員分購入しておく。

 続いて商業ギルドで身分証を登録する。
 ラミア同様に、アメイズ領の従者という事にする。
 年齢は、ラミアの妹分という設定なので、1歳年下の23歳という事になった。
 セイレンとしては、どうでも良さそうだが……。


 さらに、その足でメルン亭2号店、ラミアがお世話になっているお店にいく。
 セイレンも雇ってもらうようにお願いするためだ。

 この1ヶ月、ラミアが店頭いない事で、残念に思っていた客も多かったらしい。
 美女が1人増える事に大喜びの店主。
 オーナーの娘とルリのお願いで断れる訳もないのではあるが、ラミアとセイレン、2人がカウンターの顔になる事が決まる。

(服と身分証は手に入ったし、働き先も確保。パッと見は人と変わらないし、ラミアと一緒なら問題なさそうね)


 王都での買い物や用事を終え、屋敷に戻る頃には夕方になっていた。
 少し待たせてしまう事になったが、ちょうど訪ねて来てくれた大工に、水場の相談をする。
 セイレンが人魚の姿でも過ごせるくらいの、大きな水槽を作るつもりだ。

 さすがに、水族館のような施設は作れない。
 巨大なガラスなども、ある訳がない。

 結局、浴室を拡張して、巨大な岩風呂を作る事になった。
 水の温度や塩の加減は、使い始めてから本人に任せる事にする。

 水深2メートルの巨大な岩風呂の注文には大工も首をかしげたが、すぐに着工してくれるらしい。

(これで、ひとまず大丈夫かしらね。後は学園が始まるまで、のんびりできそうね)

 やっと一息吐けた、ルリであった。




 学園長の呼び出しもあり、早めに学園の寮に向かう。
 まだ新入生は入寮していないようで、学園は静かだった。

(ちょうど1年前の今日、初めてここに来たのよね……。そして、色々あったわね……)

 出会って1年もたつ事、その時間の早さに驚きつつも、感慨にふけるルリとメアリー。部屋に入ると、ミリアとセイラの到着を待った。
 4人揃ったら、学園長室へ向かう予定だ。



「ミリアーヌ様、入学式では、上級生の代表としての挨拶をお願いしますね。それと、同室の皆様も、一緒に登壇していただきます」

 学園長の呼び出しの理由は、ミリアの入学式でのあいさつの依頼だった。
 でも、それだけならば、全員が早く入寮する必要など無いはずだ。

「え? 私達全員ですか?」

「はい。今年の第2学園が大変な事になっているのを、ご存じありませんか?
 有力貴族が、ほぼ全員、第1ではなく第2学園への入学を希望しました。原因は理解できますよね?」

「えと、第三王女目当て……?」

「それも、もちろんあります。しかし、同じ王族のセイラさん、子爵家令嬢のリフィーナさん、さらに、商売人の中では今や結婚相手候補の一番人気のメアリーさん。
 あなた方全員が、お目当てです」

「一番人気ぃ???」

 最も驚いたのは、メアリーだ。まさか自分までもが有名になっているとは思っていなかったらしい。


(王族や貴族とお友達……。成長著しいメルヴィン商会の一人娘……。確かに。
 私よりも優良物件じゃないかしら?)
 納得のルリであった。

「それに皆さん、成績も上位4人ですので、いずれにしても注目を集めます。混乱を避けるためにも、先に紹介させていただきたいのです」

 全員が同じ授業を受けている訳では無いので、単純に成績の順位をつける事は難しいのだが、4人ともルリの現代知識、勉強法でワンランク上の知恵を身につけている。テストなどではほぼ満点であり、学年の上位である事は間違いなかった。

 学園長の目的は、特にルリとメアリーを守る為だ。
 王族の2人は最初から高嶺の花でもあり、そうそうちょっかいを掛けてくるものではない。しかし、特に平民のメアリーは、貴族の中では立場が弱くなってしまう。

 そこで、仲良しの4人組を先に強調し、『ノブレス・エンジェルズ』として、地位を守ろうという作戦だ。

「あの、逆に目立ちすぎてしまいませんか?」

 メアリーは心配そうだが、いずれにせよ目立つのだ。だったら高嶺の花として突き抜けた方がまだましかも知れないと、一応納得した。



「どうしようもない場合ですが、学園にある冒険者の研修制度を利用してください」

「研修制度ですか?」

 今まで説明されたことの無い制度が出て来たことで、セイラが学園長に聞き返した。

「はい、学園の生徒による冒険者パーティに限り、王国内の冒険者ギルドを回る研修の旅に出る事で単位を取得できます」

 それは、冒険者向けの選択授業のひとつだ。
 冒険者を目指して学園に入学する生徒がほぼいない事から履修する生徒もおらず表に出ていない授業ではあるのだが、王国内の冒険者ギルド2か所を回り、所定の依頼達成を行う事で、卒業後にCランクパーティとして活動できるというものだった。

「私達、既にCランクパーティなのですが、受けていいのですか?」

「それは構わないわ。重要なのは、冒険者としてしっかりと依頼を達成する事ですから。この授業を履修すれば、それなりの期間、学園から離れる事も可能です」

「分かりました。貴族のちょっかいとかで授業に集中できないような事があれば、相談させていただきます」


 入学式でのスピーチを了承し、段取りを確認すると、学園長室を出る。
 話をするのはミリアに任せて、残り3人は一緒に登壇、紹介だけを受ける事にした。

「ねぇ、聞いた? 研修旅行だって!」

「ミリア、旅行じゃないわよ、授業ですからね!
 でも、行くしかないですね」

 4人の興味は、入学式ではなく、研修制度だ。
 当然である、4人だけで、好きな所に行けるのだから。

「もう一度、マリーナル領にいく? 海の幸!」
「賛成! でもせっかくだから他の場所にも行ってみたいわ」

 ミリアもメアリーも、海の幸は大歓迎。しかし、違う場所に行ってみたいと言う気持ちも分かる。
 そこで、ルリが口を挟んだ。

「あの、私アメイズ領、少し寄りたいです。もう半年以上、帰ってないので……」

「そうね。お母様の事も心配ですものね。では、アメイズ領を通って、その先のどこかに行くって事でいかがかしら」

 ルリの気持ちに気付いたのか、セイラがフォローする。
 研修制度で旅に出る事は、既に4人の中で確定事項だ。ルリの故郷に寄ることに、誰も異論は無かった。


「アメイズ領を通るとしますと、北にリバトー領、南は辺境のフロイデン領ですわ」

 北のリバトー領は、以前の話では治安が悪いと聞いている。ルリの誘拐事件のこともある。
 もちろん、盗賊の討伐によって変わった可能性もあるが、安全とは言い難い。

 南のフロイデン領は、エスタール帝国と陸路で接している為、王国にとっては軍事的な拠点だ。
 とは言え、時々小競り合いがある程度であり、戦争中などではないが、何とも言えない。


 どちらも、危険が伴う可能性がある。
 同じクローム王国内であり、大きな問題があるとは考えにくいとしても、ルートについては、情報を調べてから決める事にした。

 重要なのは、どちらに美味しい食べ物がありそうか。
 また時期についても、実家、つまり王宮などへの根回しが必要なため、しっかりと作戦を練ることにする。


 学園生活、いや、新しい旅の実現に、胸を躍らせて新学期を待つ、4人であった。
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