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22 女子会

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 それから6時間の道中、さすがに盗賊の襲来は無かった。

 王都手前の宿場町に到着する。


 王都に近いだけあり、リンドス程ではないものの大きな町になっている。
 衛兵が守る門があり、多くの多々物が見える。

「先に衛兵に伝えてくるから待っててくれ」

 ゲルトが衛兵に近づいてしばらく話すと、ぞろぞろと衛兵が寄って来た。



 一人の騎士鎧の男が近づいてくる。

「私は王都第7騎兵隊、ドリム駐屯地のケーリーだ。
 盗賊団の護送、感謝する。さっそく引き受けを始めよう」

「後で詳しく説明するが、まずは盗賊を名乗っていた農民たち8名、
 次に野営地のコソ泥3名だ。
 残りは、盗賊団の20名、こいつらとは戦闘になった」



 縄で縛られた男たちが、衛兵に連れられて行く。
 本職の盗賊は抵抗していたが、基本的におとなしく連れられて行った。

「合計31名だな、盗賊捕縛の報酬は明日朝までに用意しておく。
 出立前に寄ってくれ。
 しかし派手にやったものだな……」


 ケーリーは、盗賊が移動し空になった3台の馬車を見ながら、ふとした疑問をつぶやいた。

「ところで、質問良いか?
 リンドスから来た商隊と護衛任務中の冒険者とのだが……
 何を護衛しながらここまで来たんだい?
 まぁ商売に口出す気はないから、特に問題はないがな……」

「「「「「「「聞かないでください!!!」」」」」」」

 商品も何もない、空の荷馬車を前にして、全員が反応した。




 宿場町ドリム。
 王都まで丸1日の距離にある旅の中継地点である。

 南北に走るリンドスへの街道の他、東西に続く街道からも近い事から、街道の要所として治安も整っている。

「皆さん、朝までは自由時間となります。
 明朝は先ほどの門前に集合としますので、それまでは自由に過ごしてください。
 この宿場町は南北、東西からの商人が集まる場所です。
 露店などに掘り出し物が並ぶことも多いですので、見ていて飽きない場所ですよ」


 実際この宿場町では、いわゆる住民は少ない。
 人通りは多いが、ほとんどが旅の途中で立ち寄った商人や冒険者で締められている。
 その為、店舗としての商店よりも、露店や屋台などが多くなっている。

「ルリちゃん、アリシャさん。女子だけで、その辺見てみませんか?」

 エステルとシーラが誘ってくれる。

「「ぜひ!」」

 たった数日の旅ではあるが、事件もあり、食事やお風呂で共に過ごした事もあり、親しみが沸いていた。4人で一緒に、束の間の休息を満喫することになった。



「あの屋台、甘い匂いがするよ!」
「そっちで売ってるお菓子、可愛い!!」
「こっちのドリンク美味しいよ、ほら飲んでみて!!!」

 活発な性格をしたエステルに、あちこちと連れまわされながら、屋台をめぐる。

「見て、アクセサリー屋さんがあるよ!!!」

「「「可愛い!!!」」」


 色とりどりの石で飾られた指輪やブレスレット、髪留めなどが、広げたシートの上に並べられている。

「嬢ちゃん、これは隣の魔道王国イルームから仕入れてきた魔道具なんだよ。
 こっちのネックレスなんかお薦めだぞ」

 それは、小さなビーズ状の水晶が数珠のように繋げられたネックレス。
 所々にカラーストーンの石があり、アクセントになっている。

「身体の中の魔力の循環を整える効果がある。
 魔法が強くなる訳じゃないが、魔力を操作しやすくなるはずだ」

(肩こりに効く磁気ネックレスみたいなものかしらね……)

 ルリは思った。そこにエステルが食い付く。

「ルリちゃん、これって、魔力纏いに良さそうよね。打ち返すの上手になるかしら?」

「やってみないと分かんないけど、可能性はあるわよね!」

「この後王都に持っていくんだが、そうなると値段が倍くらいになるからな。
 今なら安くしとくぞ、金貨3枚でいい」

 露天商のおじさんが押してくる。


 結局、4人ともが買うことになった。
 決して安くはないが、盗賊の報酬もあり、財布が緩い。

「アクセントの石は、好きなのを選んでいいぞ。効果はどれも一緒だ」

 エステルは赤色、シーラが水色、アリシャはオレンジ色の石を選んだ。
 私も、髪の色に合わせて深い青色の宝石を選んだ。



 他にも屋台や露店を見て回るルリたち。

「あ、ちょっと、あの店見ていい?」

 ルリが目にしたのは、『団子』と書かれた屋台。

 もちろん、女神の異世界翻訳機能でそう見えているだけで、現地言語としては違う文字である。

「おじさん、これ、お団子ですよね。原料ってもしかして、お米ですか?」

「嬢ちゃんよく知ってるなぁ。
 そうだ、米だよ。農業国ザパスの主食だよ。
 こっちのクローム王国じゃ珍しいがな」

(あああ、お米発見!!!)

「農業国ザパスですか、それってどこですか? あとお米、王都でも売ってたりしますか?」

「ザパスはクローム王国の北東側だ。
 内陸だが大きな川が多くてな。土地が豊かな場所なんだよ。
 米は王都でも売ってるだろうがなぁ。あまり売れねぇな……」

「うん、おじさん、ありがとう! すごく希望が見えたよ!」

 不思議なやり取りに、エステルが呟く。

「どうしたのルリちゃん、そのお米っていうのに思い入れでもあるの?」

「はい、私のふるさ……小さい時に食べたことがあって、すごく美味しかったんで……」

「ふーん……。貴族家なら珍しいものも食べるだろうしねぇ。見つけたら教えてね!」




 買い物を満喫したルリたちは、宿に戻った。

 護衛任務中のいい所は、宿を依頼主である商人が準備してくれることだ。
 王都に近い宿場町と言う事もあり、しっかりとした宿だった。
 無論、夜間の見張りなど必要ない。久しぶりにゆっくり眠れた一行だった。





 翌朝、町門前。
 つまり衛兵詰め所の前。

 盗賊の報酬をもらうべく、集まっていた。

「盗賊捕縛の報酬が31人分で金貨31枚だ。
 余罪次第では追加の報酬が出ることもあるがしばらくかかる。
 追加報酬の連絡は冒険者ギルドに行うが、リンドスのギルドで良いかい?」

 ケーリーの説明に冒険者たちは顔を見渡す。

「リンドスの冒険者ギルドで問題ないです。あ……」

「あの、私だけ王都のギルドでお願いします。しばらく王都に残りますので……」

「承知した。Dランクのルリさんは王都、他の皆さんの追加報酬はリンドスのギルドで受け取れるようにするよ」

「「「ありがとうございます」」」



 ケーリーの話では、盗賊もどきの農民は、大きな罪には問われないらしい。
 盗賊を名乗りはしたが、実際に戦闘は行われず、盗みがあったわけでもない。
 『奉仕』として、いわゆるボランティア活動のようなものを義務付けられるらしい。
 
 コソ泥は、そのままコソ泥だったようだ。
 野営地を中心に、目立たない程度の盗みを繰り返していたようで、犯罪奴隷に落ちることは間違いないとのことだった。
 
 問題は本命の盗賊団。
 余罪が多数ある事が想像され、仲間や他の組織とのつながりなど調べることが多い。
 聞き出したアジトは、今朝から斥候兵が調査に向かっているそうだ。

 懸賞金のかかる盗賊が含まれている可能性も高く、報酬にも期待が大きい。
 報酬は全て人数割りで受け取ることにして、ケーリーの元を離れた。




「皆さん、出発しますよ。
 今日は王都手前の休憩地にて野営、明日の昼頃には王都到着です」

 空だった馬車には、少し商品が積み込まれていた。
 メルヴィンが宿場町で仕入れた品々らしい。

「ルリさん、少し進んだら、馬車に品物を戻していただけますか……?
 さすがに空の馬車で王都に入るのは怪しまれますから……」

「わかりました!」

 途中休憩の際に、収納していた商品をアイテムボックスから馬車に戻す。
 出発した時同様に、満載の馬車が3台出来上がった。



「みんな、少しいいかい」

 ケルビンが全員に向けて、神妙な顔をして話しかけた。

「馬車3台の荷物が消えたり出て来たり。普通じゃない事は分かるよな」

 こくん
 全員が頷く。

「頼む、このルリの能力は、他言無用でお願いできないだろうか。
 メルヴィンさんなら分かるだろうが、この力は経済を変えちまう。
 王宮とかに知られたら、軍事利用されることは間違いない。
 こんな奴だからな、知らず知らずやらかすんだろうが、せめて俺たちは、ルリを守ってやりたいんだ」


 ルリのアイテムボックスを軍事利用する場合、一騎当千どころではない。

 軍隊の行軍では、食料や武器などの補給が重要だ。10000人の軍隊が行軍する場合、その内の3000人程度は補給部隊として物資の輸送を担当する。

 その輸送を、ルリなら1人で賄えてしまう。
 しかも、馬車の通れない森の中や山奥でも構わず行軍できる事になる。
 目を付けられた瞬間に、薬か何かで従属させられる事は間違いないだろう。


「何言ってるんだいケルビンさん、俺たち『星空の翼』はルリちゃんを蔑む事は絶対にないと誓うよ。
 ルリちゃんはもう、俺たちの仲間だ。いや、リンドスの街の英雄なんだぜ」

 ゲルトの声に、エステルが続く。

「そうよ、友達を裏切るなんてあり得ないわ。
 そして、ルリちゃんがピンチ時には必ず守るって誓うわ!」

 『星空の翼』のメンバーが当然の顔をして頷いている。


「メルヴィン商会も誓いましょう。ルリさんの能力を悪用しない、悪用させないと。
 もちろん、他言は致しません。
 ルリさん、王都に戻っても、ぜひ当商会を御贔屓にしてください。
 商会を上げて、あなたをサポートさせていただきます!」


「皆さん、ありがとうございます!!!」

 みんなの温かさに涙が出る。

「ルリちゃんも、王都に着いたら少しは自重してね。お姉さんは心配だわ。」

 アリシャの困った笑顔に、
「「「「「「「うんうん」」」」」」」
 と全員が同意した。




 野営地までは、よく整備された街道を一直線だ。
 すれ違う馬車も多く、王都への近づきを感じる。

 野営地には10台以上の馬車が止まっていた。
 衛兵の姿もある。

(オートキャンプ場……)

 それが、ルリの第一印象だった。



 周囲は、遮るほどが何もないほどの大きな平原である。
 地平線の近くに巨大な建造物が見える、それが王都だろうと分かる。

「魔物や盗賊が出たという話はまず聞きません。
 ゆっくり休み、明日に備えてください」

 メルヴィンも安堵した表情をしている。
 さすがに浴室を作るのは目立つだろうという事で、今日は洗浄の魔法で身体を清めるだけにとどめた。

 いよいよ、王都に到着する、ルリであった……。
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