102 / 120
第百二話 アイザックの過去
しおりを挟む
「そういえば、話って?」
「あぁ。クラリスには話しておきたいことがあって。……俺のことなんだが」
「アイザックのこと?」
「あぁ、俺の過去について。どうして俺が魔法を使えなくなったかクラリスに知って欲しくて」
そう言うとアイザックが私の手を握る。
彼の手はやはり大きくて、そして無骨でありながらもとても温かった。
「ミドルスクールのときに母が亡くなってな。母は妖精族の出身で元々身体が弱かったのだが、父と結婚して人間世界に来たことでさらに弱くなってしまったらしい。でも父のために母は何がなんでも妖精世界には戻らなくて、よくそれで二人が喧嘩していたのを覚えている」
寂しげでありながらも懐かしげに語るアイザック。
その言葉は慈しむような穏やかなものだった。
「お互い愛してたのね」
「今思えばそうだな。当時はそんなことで喧嘩する二人が理解できなかったが」
「まぁ、子供からしたらそうよね」
「母はとても頑固で、気配りに長けた人で、慈しみ溢れる人だった。そして、亡くなる数日前に俺は母に言われたんだ。貴方は父に似て見た目で誤解されがちだから、できるだけ人に優しくしろと。人のためになることをしろと。俺はちゃんと理解もせずにわかったと頷いた。そして母が亡くなって数日後、クラスメートに絡まれたんだ。『できそこないの堕魔が死んだんだろう?』と」
「そんな、酷い……」
堕魔というのはこの世界での侮蔑用語だ。
人間未満の存在であり、権利など全て認めざるものとして評するときに使う言葉であり、口にするのもおぞましいほど強い差別用語だった。
「妖精族は神によって地に堕とされた存在と一部で信じられていたせいで忌み嫌う人もいたから、そういう中傷には慣れているはずだった。だが、俺は母を亡くしたばかりで魔力が制御できなくて、魔力暴走をしてしまった。そのせいでその絡んできたクラスメートを半身不随にし、父もそのことで酷くバッシングを受けた」
ギュッとアイザックの手を握る力が籠る。
当時のつらいことを思い出したのだろう。
私はそっとその手を握り返すと、アイザックが再び口を開いた。
「エディは相手が悪いのだから気にするなと言った。父も仕掛けたのは相手なのだから、お前が気にすることではないと俺を責めなかった。だが、生前の母の言葉をちゃんと守れなかった俺は自分を責めた」
「アイザック……」
「それからずっと引きこもっていた。俺の魔力は危ないものだと。決して使ってはいけないものだと。だから勉強も何もかも放棄して、ただひたすら無為に過ごした。だが、なぜかあるときNMAから俺に招待状が来たんだ。エディにそのことを話したら『これ以上逃げるな』と言われてな。エディにはわかっていたんだろうな、俺が辞退しようとしていたこと」
「さすが幼馴染ね」
自分も身に覚えがあってつい共感してしまう。マリアンヌが私を導いてくれたように、エディオンもまたアイザックを導いたのだろう。
「あぁ。クラリスには話しておきたいことがあって。……俺のことなんだが」
「アイザックのこと?」
「あぁ、俺の過去について。どうして俺が魔法を使えなくなったかクラリスに知って欲しくて」
そう言うとアイザックが私の手を握る。
彼の手はやはり大きくて、そして無骨でありながらもとても温かった。
「ミドルスクールのときに母が亡くなってな。母は妖精族の出身で元々身体が弱かったのだが、父と結婚して人間世界に来たことでさらに弱くなってしまったらしい。でも父のために母は何がなんでも妖精世界には戻らなくて、よくそれで二人が喧嘩していたのを覚えている」
寂しげでありながらも懐かしげに語るアイザック。
その言葉は慈しむような穏やかなものだった。
「お互い愛してたのね」
「今思えばそうだな。当時はそんなことで喧嘩する二人が理解できなかったが」
「まぁ、子供からしたらそうよね」
「母はとても頑固で、気配りに長けた人で、慈しみ溢れる人だった。そして、亡くなる数日前に俺は母に言われたんだ。貴方は父に似て見た目で誤解されがちだから、できるだけ人に優しくしろと。人のためになることをしろと。俺はちゃんと理解もせずにわかったと頷いた。そして母が亡くなって数日後、クラスメートに絡まれたんだ。『できそこないの堕魔が死んだんだろう?』と」
「そんな、酷い……」
堕魔というのはこの世界での侮蔑用語だ。
人間未満の存在であり、権利など全て認めざるものとして評するときに使う言葉であり、口にするのもおぞましいほど強い差別用語だった。
「妖精族は神によって地に堕とされた存在と一部で信じられていたせいで忌み嫌う人もいたから、そういう中傷には慣れているはずだった。だが、俺は母を亡くしたばかりで魔力が制御できなくて、魔力暴走をしてしまった。そのせいでその絡んできたクラスメートを半身不随にし、父もそのことで酷くバッシングを受けた」
ギュッとアイザックの手を握る力が籠る。
当時のつらいことを思い出したのだろう。
私はそっとその手を握り返すと、アイザックが再び口を開いた。
「エディは相手が悪いのだから気にするなと言った。父も仕掛けたのは相手なのだから、お前が気にすることではないと俺を責めなかった。だが、生前の母の言葉をちゃんと守れなかった俺は自分を責めた」
「アイザック……」
「それからずっと引きこもっていた。俺の魔力は危ないものだと。決して使ってはいけないものだと。だから勉強も何もかも放棄して、ただひたすら無為に過ごした。だが、なぜかあるときNMAから俺に招待状が来たんだ。エディにそのことを話したら『これ以上逃げるな』と言われてな。エディにはわかっていたんだろうな、俺が辞退しようとしていたこと」
「さすが幼馴染ね」
自分も身に覚えがあってつい共感してしまう。マリアンヌが私を導いてくれたように、エディオンもまたアイザックを導いたのだろう。
0
お気に入りに追加
2,667
あなたにおすすめの小説
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~
汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。
――というのは表向きの話。
婚約破棄大成功! 追放万歳!!
辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19)
第四王子の元許嫁で転生者。
悪女のうわさを流されて、王都から去る
×
アル(24)
街でリリィを助けてくれたなぞの剣士
三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
「さすが稀代の悪女様だな」
「手玉に取ってもらおうか」
「お手並み拝見だな」
「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」
**********
※他サイトからの転載。
※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。
転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~
浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。
(え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!)
その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。
お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。
恋愛要素は後半あたりから出てきます。
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる