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第九十四話 呪詛

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「ミナ!!」

 中はドロドロとした空間だった。

 空気がとても澱んでいて息苦しい。
 恐らく、魔力がないまぜになっているせいだろう。

 ーーテストで百点を取った? だからどうしたの。そんなの当たり前でしょう?

 ーー学年で二番ですって!? 信じられない! 一番でないと意味がないのよ! 貴女は一体今まで何をしてきたの!!

 ーーはぁ、ほんっとうに貴女はミリアと違って愛嬌もないし、可愛くもないし、つまらない人間ね。

「何よ、これ……」

 聴こえてくる声はどれもこれもミナを罵倒するものだった。
 このキーキーとつんざく声は、恐らくミナの母親のものだろう。

 ーーその辺の貴族の娘と友達になっても仕方ないのよ! ブランシェット家のためにもあの外交大臣の娘と仲良くしなさい。いいわね?

 ーー全部貴女のために言ってるのよ? ミナが頑張れば、我がブランシェット家も栄華を取り戻すのだから。そのためには、どんなにつらくても苦しくても全てを犠牲にしてだって、貴女には頑張ってもらわねばならないのよ。

 ーーほんっとバカな子! 貴女なんて産まなければよかったわ!!

「酷い……。こんなのあんまりだわ……」

 ミナの意思を無視した数々の主張。

 きっとこれらは全て彼女が受けてきた仕打ちだろう。
 それでも彼女は母親に縋りつくのは、きっとミナがそれ以外の世界を知らないからだ。……かつての私がそうだったように。

「ミナ!」
「何で来るのよ……っ! 私のことなんて放っておいてちょうだい!! 勝手に死ぬんだから構わないで!」

 ぶわっとまた拒絶するように魔力の風を浴びるが、それでも踏ん張る。
 そして、ミナに向かって精一杯手を伸ばした。

「ミナ! 貴女の苦しみ、私はわかるわ!」
「嘘つかないで! あんたなんかに私の苦しみがわかるわけがないわ! お母様に認められたいのに認めてもらえないつらさなんて、あんたなんかにわかりっこないわ!」
「確かに、全く同じ経験をしたことはないわ。でも、そうして拒絶されたことならある! 私もそのときはつらくて、悲観して、絶望した。でも、それじゃ何も変わらないって気づいたの!」
「そんなの詭弁でしょう!?」
「詭弁なんかじゃない! ずっとそうやって受け身で苦しむだけでいいの!? 望まない死は、とてもつらくて苦しいものよ!?」
「じゃあ、私はどうすればいいっていうのよ!? 家にはもう帰れない! 全部バレたらNMAにもいられないし、私の居場所なんてもうどこにもないのよ!? そんな私が生きてたってどうしようもないじゃない!!」

 ミナが目にいっぱい涙を溜めながら必死に訴えてくる。
 つらい、苦しい、悲しい、助けて、と彼女の心がだんだんと露わになってきて、私は畳み掛けるように叫んだ。
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