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第六十八話 あーん

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「エディオンさまもカフェテリアを利用されるんですね!」

 ハーパーが目を輝かせて声を弾ませながら話しかける。彼女は以前からどうやらエディオンに憧れがあるようで、彼と話せることに興奮しているみたいだった。

「さま付けはしなくていいよ。僕もキミと同じ同級生だからね。あと、カフェテリアはもちろん利用させてもらってるよ。ここの料理は美味しいからね」

 そう話す彼のトレイに入っているのは白身魚のポワレやサラダにパンだ。男の子にありがちな肉肉肉といったメニューではなく、イメージを裏切らないチョイスに納得する。

「クラリスはハンバーグかい?」
「えぇ、野菜たっぷりのソースが美味しそうだったから」
「確かに、美味しそうだよね。僕もこれにするかどうか悩んだんだ。どうだろう、一口いただいても?」
「え!?」
「ダメかな?」

 上目遣いのキラキラとした瞳でおねだりされる。じーっと見つめられ、念押しされるように「一口だけだから、ね? お願い」と言われてしまったら断れるものも断れなかった。

「じゃ、じゃあ一口だけ……」

(あぁ、私の意気地なし……っ!)

 結局断りきれずに頷いてしまった自分に自己嫌悪した。未だに押しが強い人にはどうにも負けてしまう。

「そうか、ありがとう」

 満面の笑みで微笑まれて、あまりのイケメンぶりに「うっ」となる。眩しいくらいのその笑顔を見て、周りの三人からも「きゃあ」と黄色い声が上がった。

(絶対みんなこの状況楽しんでる……)

 とはいえ、不本意ではありながらも、自分で承知してしまったので仕方ない。

「はい、どうぞ」

 私はハンバーグを一口サイズに切り分けてエディオンの口元にやると、なぜか頬を染めるエディオン。
 そしておずおずといった様子でパクリと食べると彼は満足そうに微笑んだ。

「まさか、クラリスの手ずから食べさせてもらえるだなんて」

 うっとりとした表情でそう言われて、「うぇ!?」っと焦って変な声が出る。

 言われてみれば王子様に対して、「あーん」てするなんて不躾にもほどがあるだろうと青ざめた。

「ご、ごめんなさい、不躾で。ついいつもマリアンヌにしているみたいにしてしまったけど、そんなつもりじゃ……っ!」
「僕はクラリスから食べさせてもらって嬉しかったよ? もう一口またキミに食べさせてもらいたいくらいだ」
「だ、ダメよ。私のぶんがなくなっちゃうし」
「はは、冗談だよ。あぁ、せっかくだ。クラリス、僕のポワレも食べるかい?」

 そう言って私が断る隙すら与えずにポワレを一口サイズにすると、お返しと言わんばかりに「あーん」と口元に出される。
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